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4-57 偵察妖精エレ

「やれやれ、やっと二人の居場所がわかったか。

 だが警戒は結構厳重なんじゃないかなあ。


 これから、この国で湖の調査があるんじゃなかったら、ザムザやゲンダスの大群をけしかけて乗り込んでいくところなんだが。

 まったく面倒な事だぜ」


「ふふ、まあなんとか探せたんだからいいじゃないの」


「ああ、地球にも昔はあの男のような奴らがいたのさ。

 お蔭でまだ勇者の世界は無事に残っている」


 昔の米ソ冷戦の時代、東西ブロックの指導者がお互いに歴史上他に見ないくらいの見事なほどの馬鹿揃いだったので、もう少しで世界全面核戦争になってしまいかねなかったような頃があった。


 そんな危機一髪でフェイルセーフな冷戦の時代に、当時の東西諜報戦最前線の連中が止むを得ずお互いに国を裏切って協力し、なんとか事なきを得ていたみたいだし。


 あと、核兵器の絶対に外れちゃ駄目だった安全装置が、五個の内三個くらいまでは頻繁に外れていたとか。


 当時の核兵器が、すべてにおいて過剰品質なメイドインジャパンだったなら、ただの一度とて安全装置は外れなかったかもしれない。


 あの頃は水爆ミサイルさんなんかも、俺のハズレ勇者っぷりなど問題にもならないくらいの超ヤバイ外れっぷりだったぜ。


 案外と世の中っていうのは、そういう時って特に何も起きないのが相場っていうものなんだけど。


 だからといって、決して外れてしまっていていいような物では絶対になかったと個人的には思っているのだが。


 憲法第九条って日本なんかよりも、むしろ冷戦時代の米ソに必要な物だったんじゃないのかね。


「ブラウニーの地図によると、あそこにある大きめの屋敷がそうなのか。

 色褪せて煤けたようになっているが、あれはわざとそうして目立たなくしてあるんだな。

 こういう国じゃ、そうしないと出る釘は打たれちゃうだろうからなあ」


「じゃあ、あたしちょっと偵察にいってこようか。

 まだそこにいるのかな、あの子達」


「さあ、そいつはどうなのかわからないけど、頼むよ」


 そして俺が物陰で隠れて見ている中で、エレはすーっと屋敷に吸い込まれていった。


 今、俺の事も見張られているだろうか。


 さっきも成層圏まで上がって撒いてきたのだが、まあここはきっと間諜なんか昔の地球に存在したイーストブロックの国々のシステムを思い起こさせるほど、うじゃうじゃいやがる場所なんだからなあ。


 こういう国では、一見そうは見えないような、その辺を歩いている幼児や老婆だって怪しいものさ。


 俺が周りを警戒しながら見張っていると、五分くらいしてエレが帰ってきた。


 こいつは人間の体内の白血球が体細胞の隙間をすり抜けてワープしてくるように壁の間を通り抜けられるから、こういう仕事にはもってこいの優秀な偵察要員だ。


「ヤッホー、ちゃんと二人ともいたよ。

 割と元気そうだったし」


「そうか、じゃあ迎えに行くとするか」


「あー、でもちょっと困った事になっているみたいよ」


「は? 困るだと」


「あー、なんかねえ。

 どうしてこうなったかなー、というような状態というか。

 むろん、身分証も預かられてしまっているんだけど、それは主な理由じゃないんだって」


「なんだい、そりゃあ。

 確かに冒険者証なんか再発行してもらえば済む話で、飛行勇者なのだから二人でビトーまで行けば済むんだ。


 こういうような不測の事態の場合は、無条件かつ無料で再発行してもらえるルールなのだし。

 あの強者姉妹が別に監禁されているわけなのじゃあるまい?」


 だがエレは何故か難しい顔をしていた。


「まあ、それはここで言っても仕方がないわ。

 自分で本人達に訊きなさいよ」


「訊くってお前。

 どうやって会うんだよ」


「正面玄関から。

 取り次いでもらえば、ちゃんと中に入れてくれるらしいよ」


「はあ?」


 なんだかよくわからないな。

 一体何がどうなっているのか。


 俺は首を振りつつも物陰から抜け出て、その屋敷の周りを囲む無数の鋭い槍が天を突いたかのような厳めしい鉄柵に囲まれた入り口付近の、門番様方のいる場所へと入っていった。


 さあて、鬼が出るか蛇が出るか。

 思わず小学生みたいにピンポンダッシュして逃げたくなる気分だね。


「よおっ」


 俺はそこに立っていた門番のような人物達へ、気軽に右手を上げて陽気に挨拶してみせた。

 どうしても、この国って思わずこういう対応をしたくなるくらい基本的に陰隠滅滅なんだよ。


 ロシア人だって陰隠滅滅の悲観主義者とか言われながらも、ロシアの国ってここまで煤けちゃいないんだよなあ。

 むしろ、あそこは元衛星国家の方にヤバイ国家が。


「お待ち申し上げておりました、勇者カズホ様」


 俺が来る事は、しっかりと伝達されていたとみえて、彼らは俺を丁重に屋敷の中へと迎え入れてくれた。


「おやまあ、そいつはご丁寧にどうも」

「どうぞ、こちらへ」


 その軽革鎧を装備し、よく手入れされた口髭と顎髭を持つ四十歳くらいかなと思う門番の兵士が先導してくれる。


 手には街の衛兵や入出退を管理する衛士などがよく使うタイプの、少し長めだが比較的軽い槍と、腰にはこの世界の槍兵が持つ一般的なサブウエポンであるショードソードを下げていた。


 地球でいえば、二十二口径カービン銃と九ミリ拳銃で武装した兵士相当だろうか。

 もう一人いた門番の兵士は槍の他に、背中に矢筒と汎用性を重視したタイプの弓を背負っていた。


 だがまあ、このような兵士はアメリカでいうならば、腰に拳銃をぶち込んだ大型ホテルのガードマン程度のものだ。


 この世界のお屋敷ならば、ごく一般装備の兵士に過ぎないのだ。

 あの二人が本気で逃げ出そうと思ったのなら、この程度の連中には手も足も出ないだろう。


 あの鉱石の力を用いるならば戦闘の必要すらない。

 実は飛空のスキルを強力に発揮するならば、部屋の中からでも壁や屋根をぶち抜いて飛び出せるのだ。


 飛空スキル持ちは、まるで生ける徹甲弾のような勇者なのだった。


 飛空スキルは複合スキルパッケージなのだから、使用者を強く防護してくれるため、その程度の衝撃では掠り傷すら負う事はない。


 あの二人を軟禁しておくのなら、物凄い頑丈な囲いか特殊な結界のような物が必要だ。


 それでも妹は何でも空間ごと切り裂いてしまうし、姉も超電撃で壁などぶち壊せるし、オリハルコンの魔法剣まで持たせてあるのだ。


 例えどちらかが死んだって、片一方が生きていればエリクサーの出番で終了だ。


 あの二人にはその白金貨十枚分の逸品を各一万個も渡してあるのだから、それで復活できないようなら『宗篤姉妹よ、死んでしまうとは情けない』と言われたって何も言い訳出来ないくらいの贅沢装備を誇る二人なのだ。


 そういや、回復魔法まで覚えていたんだしなあ。

 一体どういう事情になっていやがるんだろう。

 俺は首を捻る事しか出来ない。


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