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4-55 弾けた世界

「お次は三番目の宿か」


 地図に記された場所を求めて付近の煤けた建物群の中から探し出し、かろうじて表示された名前を確認してから一見地味な煤けた感じのエントランスを潜ると、そこには何故か非常に賑やかな音楽がかき鳴らされ、とても独裁国家の表玄関の一角とはとても思えないような空間が広がっていた。


 まるで地球の南国リゾートホテルの一角でアロハっぽい感じの南国風味の服を来て、楽しそうに各種の楽器を奏でながら観光客に目線や笑顔で挨拶をくれる陽気な黒人バンドの人みたいに楽し気な雰囲気で楽器を奏でているおじさん達がいた。


 うーん、もしかしてこれはウエルカム・ミュージックなのか?

 いや、どうやら違ったようだ。


 そこにいる人達はまるで、あのヨークのお祭り衣装のような感じに派手な衣服で着飾り、これまたド派手なメイクをして独特のマダムっぽいモーションで尻を振って歩いていたり。


 あるいは地球の南国超ビーチリゾート的な感じのラフでファンキーな風体をした、歯をむき出しにして妙竹林な陽気さを振りまいていたりする、いやに弾けた爺さんなどの異質な者達が存在していた。


 どうやら、この場所ではこの乱痴気騒ぎが日常茶飯事なのらしい。

 独裁国家とは何なのだろう。


「な、なんだいこりゃあ」


 だがフロントと思しき三十代くらいの、髪の毛を妙なカールっぽい感じにセットして、頭をこれまたファンキーな尖がり方でカチっと決めた、エジプトの壁画に書かれた人物のような不思議な雰囲気の目をされた方が声をかけてくれた。


 いやこの国の一般国民のように死んだ目をしているわけじゃないのだが。

 むしろ違う意味合いで逝っているような目だ。


 あまり、話しかけたくねえ!


「これはこれは、ようこそ、お客様。

 その髪、その目の色、勇者様とお見受けいたしました。

 ようこそ、独裁国家の楽園に」


 えーいいのか、こんな公の空間でそんな台詞を言っちゃっても。


 独裁国家って、あんた。

 秘密警察なんかに捕まっちゃっても知らないぜ。

 お前や家族が死刑になったって俺のせいじゃないからな~。


 この国なら盗聴器の魔道具くらい普通に作って、あちこちに仕掛けていそうだ。


「いや、ここはどうなっているんだい。

 この乱痴気騒ぎは一体何なんだ」


「ああ、こんな物はあれですよ。

 なんというか、ガス抜きといいますか。

 ここにいるのは休暇中の中央の議員さんとか、特権階級の子弟とかで、あまり外国の方はみえませんね。


 要は身分の高い人はやはり弾けて遊びたいし、国としても認めざるを得ないわけですが、国の中央で公にこういうこの国では堕落したと見做されている真似をするわけにもいきませんので、ここ国境付近にて発散を」


「なんじゃあ、それは~」


「まあ、偉い人達でもそうそう簡単に国を出られるわけではないのですよ。

 視察や会議の時くらいでしょうかね。

 そういうものは下っ端にはそうそう回ってこない仕事ですし、子弟の人達にもね。


 なんといいますか。

 やたらと外国生活が長かったり、頻繁に外へ行ったりするような方などは謀反を疑われる事もありますので、そういう方々も好んで国の外へは出ない傾向がありまして。

 ここはそういう比較的身分の高い方々のために、敢えて意図的に開放的な感じに作られた、割と自由にやる事が許された空間だというわけです」


「まあそうなんだろうけど、なんてこったい」


 そういや地球の独裁国家でも、そういう話は聞いた事がある気がするが、もうちょっとお上品にやっていた気がする。


 いくらなんでもちょっと弾け過ぎなんじゃないのか?

 この国の碌でも無さが、それだけ酷いっていう事なんだろうか。


 あるいは、元々はこれくらい陽気な国なんだったりしてな。

 その場合はより悲惨だ。


「あと、仕事などで長くこの国に来ている外国の人達なんかは、割とこういう息抜きが出来る場所で遊んだりするのですよ。


 なんといいますか、一旦外に出ると、この国の場合にはまた中に入るのが手続き的に非常に面倒なところがありまして。

 へたをすると、仕事の途中で再入国ができなくなるという事も考えられますので。


 それにしても一般の国外の方がこの宿に来られるのは非常に珍しい事ですねえ。

 ましてや勇者様などは初めてでして。

 歓迎いたしますよ、ヘーイカーム」


 どうやら、最後のはウエルカムのような意味合いで使っているらしい。

「へーい」は地球でも色んな国で使う砕けた挨拶っぽい奇声だからなあ。


 俺はエレを見たが、奴が勇者を見るのは初めてというのは本当のようだ。

 彼女も肩を竦めて両手の平を天に向けたので、俺達は速やかにそこを退出させていただいた。


「まあ、こういうのって地球でもよくある話だから。

 少なくとも、あの子達ならドアを開けてこの惨状を目にしたなら、すぐに閉じ直して見なかった事にするだろうから、どの道ここに用はないだろうな。

 勇者を幽閉するのにも、あまり向いていなそうな場所だし」


「これはちょっとサプライズだったかなあ」


 ようやくエレのオーラメーターの目盛りは常態に復帰したようで、幾分か楽しそうで何よりだった。


 やれやれ、どこまでいっても真面じゃないんだな、この国は。


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