4-50 霧の都パール
その前を歩いている男達は、うっかりと俺のような人間に関わってしまった己の不運を呪い、監視している役人達の姿に怯えた。
さっき俺が脅しで言ったような事は、おそらくこの国では日常的に行われている蛮行であり、運が悪ければ数刻後には実際に彼らに降りかかるかもしれないリアルな災難なのだから。
そして、かなり歩いたのだが、一向に目的地に着かない。
「おい、どこまで行く気だ。
何か妙な事を考えているんじゃないんだろうな」
「へ、へい。
兄貴は用心深い性格なので、アジトは見つかりにくい離れたところにありやすし、それにそこへ今つけてきているような役人の団体なんかを連れていったら、わしらは兄貴に殺されてしまいやす」
ちっ、面倒な。
いっそ揺動でミールでも出して、このあまり活気が無さそうな街で暴れさせておくか。
活気が出過ぎてしょうがない事になるだろう。
国境警備の国軍がフル出動だぜ。
いや、さすがにそれはマズイな。
あれを出したなら、この俺の仕業だともろバレだわ。
さて、こいつはどうするかな。
俺はどうしてもブラウニーに会わねばならんのだが。
どうやって後ろの連中に退散していただくか。
あるいは監視している奴らが前後左右にもいらっしゃる可能性すらあるのだが。
「よし、一旦飛ぼう」
「え?」
俺はまたザムザを四体呼び出して、連中を抱えさせて一度国境の塀を越えて国の外のゾーンへと飛び出して監視の人間を振り切った。
「あわわわ、勝手に国の外へ出たらマズイっすよ」
「外の土地へ着地せずに、上を飛ぶだけだから問題なし」
本当にそうなのかどうかわからないが、子供の遊びなんかで使う空中ルールを適用しよう。
地面に足がつかなければセーフというあれだ。
とりあえず一旦後ろの監視している連中を撒かないと話にならない。
このままでは、いつまでたっても兄貴分のところへ向かえないではないか。
一旦、姿が地上から見えないほど高く空へ飛んでから、俺は奥の手を出した。
電撃で連中を麻痺させるのは悪手だ。
役人に手を出すのは上手くない方法だ。
ここは勇者流にスマートにいこう。
後で役人の偉い奴とか、総帥とかが耳にしても苦笑いするくらいで済む程度のプラクティカルジョークのような手段がいいのだ。
という訳で呼び出したのが、雲魔物のライデン1だった。
「主よ、いかようにせよと?」
「ああ、今お前の上にいて下界の人間からは見えなくなっているから、このまま地上にまで下りてくれよ。
通常、お前らは雲のように漂う事しかできないのだろうが、ここはなんとかちょっと気合を入れて頑張ってくれ」
「心得た。
なんとかチャレンジしてみよう。
これは我にしかできぬ仕事であろうからな」
「おう、頼んだぞ。
我が僕、ライデン1よ!」
「任されよ、主。
では、これを試すとしよう」
そしてライデンはうんうんと唸っていたが、体の中でガンガンと魔法で大型の超巨大雹を山ほど作り出し、それを排出する事無く雲の肉体にホールドした。
俺達がこいつと初めて出会った時に、マルータ号で思いっきり狙撃を食らったものだ。
そうか、雲としての科学的な仕組みではなく魔法で作っていたのだな。
道理で大きすぎる雹を、いきなり食らってしまったわけだ。
なるほど、これの重みなら地上まで降下できるやもしれない。
少々は地上が騒ぎになるかもしれないが、少なくともミールを暴れさせたり役人を攻撃したりするよりは遥かに被害は小さくて済み、随分とマシな手法だろう。
凄まじい量の大規模な氷の塊を抱えて、その重みでどんどん高度を下げていくライデン1。
「よおし、いいぞ。
無事に下へ着いたら、上手く自然な感じに霧っぽい感じの物を発生させてほしいのだが」
「主よ、それもやってやれない事はないのだが、そのあたりはゲンダスの方が得意であろう。
我がそれをやると、目の前の霧がまるで雲のように濃密過ぎて不自然に感じられるであろうからな。
地上に大混乱が起きる事が予想されるので、地上付近の人の高さより少し高いくらいまでは自然の霧に見える方がよい」
「なるほどな。
ではゲンダス隊、ゲンダス1からゲンダス1000までがライデン1の中に潜み、そこで姿を隠しつつ自然な感じで大量の霧を展開させよ」
「「「心得た、主よ」」」
そしてライデン1の内部に大勢展開したゲンダス達が、地上近くの上空に待機したライデン1の内部から速やかに霧を展開して、ライデン1の姿さえも包み隠した。
こうすると、街中が突如として濃い霧に包まれたかのように見える。
異常な現象ではあるのだが、それは実際に目で見ても、自然現象の只の霧にしか過ぎないように映るのだ。
「ふふ、ロンドンもかくやという見事な霧の街っぷりだな。
まるで霧隠才蔵だね。
ライデン1、ゲンダスども。
よくやったぞ、お前達。
さあ、そこのお前ら。
濃い霧の中だろうが、手前らのアジトくらいわかるよな。
とっとと案内しやがれ」
俺の魔獣・魔人の度重なる見事な技にすっかりビビってしまったそのチンピラどもは、大人しく俺を連中の上役がいるアジトへと案内してくれたのだった。




