表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

279/318

4-49 捜索の勇者 名探偵カズホ

「さてエレ、これから一体どうしたものかね。

 振り出しに戻ったぞ」


「うーん、精霊も殆どいなそうだから、そっち頼みで探すのも厳しいかな」


「そうか、俺にはこういう事をやるためのスキルは特にないし、冒険者ギルドも壊滅状態ときている。

 どうにも困ったなら、一旦ビトーまで戻って魔道士のハリーか、あるいは王都のシャーリーでも応援に呼んでくるかね。

 まあシャーリーの方は、魔道士としての実力はともかくとして探索が苦手だと言っていたしなあ」


「ここの勝手もよくわからないのに、いきなり応援を呼んできてもなんだから、一応は自分でも少し探してみてからにしたら」


 こいつのいう事も実にもっともだ。

 前々から厄介な国だとは聞いていたが、こいつは本当に困ったものだ。


「そうするかあ。

 いや弱ったな。

 俺はこういうのがマジで不得意分野なのだが。

 もうすぐ年末年始のイベントが目白押しなんだし。

 もう少し前に、あの二人と連絡を取っておけばよかったよな」


 という訳で、入り口の街へと舞い戻ったわけなのだが。

 こういう場合は、地球のセオリーに倣う事にしたのだ。


 その場合は、この手の国だと金が物を言うはずなのだが。

 物資なども欠乏しているから、貨幣代わりに食料や医薬品あるいは衣料品などでも賄賂として通用するかも。

 却って、へたな金は通用しない場合さえある。


「さて、蛇の道は蛇という感じのいい具合の伝手がどこかに転がっていないものか。

 それくらいの人材でないと、この苦境はなんとかしてもらえそうにない。

 となるとだ、頼みの綱は」


 俺は『それ』を空から探してみる事にした。


 目立たないように高度を取り、地上からはあまり見にくい高さの上空からザムザアイのスキルで探してみたが、ほどなくして路地裏で、なんとかやっと一つ見つけられたので俺はそこへ急行した。


 そこでは四人の男と、一人の少女とその身内らしい小さな少年らしき人物が言い争っていた。


 少女達が、路地裏の折れ曲がった先の突き当りで追い詰められていたようだ。


「あんたら、こんな真似をしてただで済むとでも思っているの?」


「お前ら、お姉ちゃんに手を出すな」


「へっ、ここはブラウニーの兄貴の縄張りだ。

 ここで商売をしたからには、お前達にも上納金を納めてもらおうじゃないか」


「そんな事を誰が決めたのよ。

 大体こんな私達みたいな闇市の売り子に関わったら、あんたらだって兵隊に摘発されて重罪として厳しい処分を受けるのがオチなんだからね」


「はっ、こんな国じゃどの道、お互い危ない橋を渡らないと生きていけやしないさ。

 それに相手がお前なら、ありがたい役得もありそうだしな」


 その小男はよく光る大型のナイフを片手に下卑た視線を送り、そのまだ痩せていて発育途中の愛らしい少女の体を上から順に眺め回した。


 少女は怖気を振るったように自分の体を両手で抱き締めたが、気丈に幼い弟を自分の背中に庇いながら強気に言い返した。


「ここでお前らなんかのいいようにされるくらいなら、逆にそれで兵隊を抱き込んでお前達を始末してやる」


「はあ、寝ぼけているんじゃねえぞ。

 やれるものなら今すぐやってみせろ」


「ほお、いいのかい」


 上から見物していた俺が声をかけたので、そいつは飛び上がって振り向いて眼光鋭く誰何してきた。


 黙ったまま上に浮いていると、案外と気がつかなくて誰も声をかけてくれないので、こっちからアプローチをかけてみたのだ。


「な、なんだ、手前は。

 いつの間にそんなと」


 そこまで言って、それに気がついた男は不意に言葉を切った。

『黒髪黒目の男』が、目の前で三メートルほど上空の空中に浮かんで自分を見下ろしていたからだ。


「探したんだぜ、お前。

 ブラウニーの兄貴とやらの子分なのか?

 いやあ君、会いたかったよ。

 名前は何というんだい」


 男は驚いたように目を見開いて俺を見上げていたが、やがて体を震わせて激高した。


「やい、ふざけるな。

 俺に用だと?

 そんなところにいないで降りてこい」


 俺は溜息を吐いて、そいつにこう言い放った。


「誰がお前に用だと言った、このチンピラめ。

 俺がお前に会いたかったのはな。

 お前のようなチンピラではない、お前の上の奴に会いたかったからだ。


 その伝手が欲しいんだよ。

 ブラウニーの兄貴とやらに会わせろ。

 この勇者の証たる黒髪黒目が目に入らねえのか、このドチンピラめが。

 この俺様が魔人退治の専門家、勇者カズホ様だ。

 そして」


 俺はそいつの目の前に高度を落とし、SSSランクの冒険者証、そのオリハルコンの山吹色を模した表紙を見せてやった。


 それを目にした男の目は見開かれ、そして仲間もヤバイと見て逃げようとしたが、すかさず俺は言った。


「貴様ら、絶対に逃がさん。

 ザムザ1からザムザ4まで出ろ。

 その連中を逃がすな、確実に何が何でも捕らえろ。

 ただし、絶対に怪我はさせるなよ」


 瞬時に襲い掛かったザムザ軍団はそいつらを左手で抑え込み、鎌に変化させた右腕を喉元にピタリと突き付けた。


 その目の前のギラリと光る超硬質の魔人鎌の輝きに、連中は身を竦めて震えあがった。


「どうだ、お前達。

 これが元魔王軍の大幹部、魔将軍ザムザ・キールの力だ。

 なんだったら、この国の兵隊に救援を求めても構わんぞ。


 その代わり、お前達が何をやっていたのか、この勇者たる俺が国に向かって証言してやるが。

 この国だと、どれくらいの罪になるのかなあ。

 死刑? 強制労働?

 あるいは一族連座制で、口に出すのもおぞましい刑罰が待っているのかなあ」


 だが男達は色を失った顔に恐怖を張り付けて震えているばかりだ。


「残虐王ザムザ!」


「ザ、ザムザ・キール!

 しかも、なんで四体も!

 お、お慈悲を『魔王様』、お助けを」


「偉大なる魔王様、どうかお慈悲を!」


「おい!」


 俺が一番気にしていた事を、なんと選りにもよってこの独裁国家の、このシーンで言うか!


「魔王様!」

「魔王カズホ様!」


「ちゅ、忠誠を誓いますから~」


 こ、この連中は~。


「よおし、言ったな。

 この俺に忠誠を誓うと言ったな」


「は、はひい~」


「わかった。

 ありがたくその忠誠を受取ろうじゃないか。

 だから、お前らの兄貴のところへ連れていけ。


 俺は、今すぐ知りたい事があるのだ。

 お前らの上の人間なら知っているかもしれん。

 だが、もし裏切ればその時は」


「め、滅相もございません」

「ははあ、魔王様」


 もう、とりあえず魔王呼ばわりでいいや。

 本当にもう、こいつらときた日には。


「あ、あのう」


 振り向いたら、さっきの女の子と子供がおずおずと俺の後ろに立っていた。


「なんだい?」


「た、助けてくれてありがとうございます。

 えーと、魔王カズホ様?」


 おい、お前もかよ。


「ありがとう~、お兄ちゃん」


 いや、子供にお礼を言われると実に心が洗われるねえ。

 この殺伐とした世界っていつもこうなんだもの。


「おう、気にするな。

 俺はこいつらに用があるだけだ。

 いやあ、探すのに苦労したんだぜ。

 こんなどこにでもいるゴミのようなチンピラも、探すとなるとなかなかいないんだからなあ。


 じゃあ、お前達姉弟は気を付けて帰ってなあ。

 さあ、そこのむさくるしいお前ら、キリキリと歩け。

 そして、さっさとブラウニーの兄貴とやらのところへ俺を連れていくのだ。

 まったく手間をかけさせやがって」


 そして俺は、笑顔で手を振って見送ってくれている姉弟に手を振り返しながら、路地から通りへと出ていった。


 さすがに路地から出たら外聞が悪いので、ザムザ達は魔核に戻して収納に仕舞っておいた。

 だが連中はビクビクとして、後からピッタリとついていく俺の方をチラチラと見ている。


「お前ら、今更俺から逃げようなんて思うなよ。

 そんな真似を晒しやがったら、どうなるかわかっているんだろうな。

 次は仏の顔はないからな」


 俺は遠巻きにして監視している人間がもう既にいるのを確認して、奴らを牽制のために脅すかどうか迷って止めた。


 どうせ下っ端が上からの命令でやっているだけで襲ってくるわけではないのだし、ここは彼らの国で、それは彼らの正当な仕事なのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ