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4-47 疑心暗鬼の街角で

 闇雲に探すのもなんだから、人に噂話でも聞く事にした。

 このあたりには精霊もいないらしいので、彼らから情報を入手する事もできない。


 なんだか雰囲気が悪いから、精霊もいつかないだろうな。

 俺だって嫌なくらいなのだ。


 とりあえず、粗末な感じで、あまり品物が並んでいない商店の店先にいたおじさんにそっと声をかけてみた。


「あのう」


 だが話しかけられた人は、こちらをジロっと睨むと、いかにも関わり合いになりたくないという感じにそそくさと立ち去ってしまった。


 よく周囲を見回したら、皆がチラっと目線を走らせたかと思うと足早に立ち去っていく。


 あ、そうか。

 俺には複数の見張りがついているし、この風体ではな。

 店の主人も俺の事を空気ででもあるかのように扱っている。


 皆、独特の表情をしている。

 噂に聞く地球の独裁国家の国民はこういう表情をしているのではないかという、感情をあまり表に出さないような在り方だ。


 秘密警察などに監視されているタイプの国では、こうしないと自分も家族も守れない。

 この街中で話を聞くのは諦めた。


 へたすると何の罪もない住人を巻き込んでしまって、俺が話しかけた人が後で無下に牢屋行きになりかねない。


 そういう話は日本の周辺の国でも実際にあると聞く。

 地球では世界中を見回せば、そういう国は未だに結構あるようだ。


 この手の国家の住人はそういう空気には敏感だから、おそらく街の人から有益な情報は得られないだろう。


「ちっ、なかなか面倒だな。

 あの子達とは宝珠で連絡が取れないし。

 予定通り冒険者ギルドで話を聞くか。

 そこでも果たしてちゃんと話が聞ける物かどうかも知らんのだが」


 俺は、んーっと大欠伸をすると、いきなり飛び上がったため追跡していた連中が大慌てだったが、次の瞬間に俺はそいつらの前に、すーっと落ちるように舞い降りて挨拶した。


「あー、まことに済まないのだが、ここは国境の街で、俺が行きたい場所ではないので空を飛んでいかせてもらうよ。

 ここの首都まで行きたいのだが、特にそこ行きの乗り合い馬車もないようだしねえ。

 まさか、この勇者たる俺に首都まで歩いていけとか言わないよな」


 連中は陰気に俺を見つめて押し黙ったまま立っていたので、俺はそれを肯定と受け取った印に無言で頷いてから、一気に加速して彼らの前から姿を消した。


 向かう先は、このパルポッタ共和国の首都パールだ。

 そこの冒険者ギルド本部で話を聞く予定だ。


 そして種街道沿いにしばらく飛んで見つけた、多くの街々を通過してついに見えてきた大型の都市は、何かこう灰色というか黒っぽい煤けた感じで、あまり印象がよくない。


 その街は外縁を、かなり高めの壁で覆われている。

 今まで通って来た街々も似たような雰囲気で、どうやら国全体がこのような雰囲気なのらしい。


「これはまた見るからに陰隠滅滅という感じの国だな。

 あまり降りたくない気もするのだが、背に腹は代えられまい」


 俺は首都の手前で降りてみたが、パールという輝かしいようなネーミングとは裏腹に、竈の煤の如くにくすんだような印象の街だ。


 まあ真珠は生き物が作ったもので、その輝きは数十年で失われてしまう物なのだが。

 あれは乾燥すると皹割れて一発アウトだから、展示してあるケースにも水を入れた容器が置かれているくらいだ。


 まあ真珠に限らず、人も街も潤いに欠ければこうなるっていう事なのか。

 そして首都へ入るには、また別の改めがある。


 さぞかし独裁者を殺したい奴らが五万といそうだな。


 俺はそこにも設けられた特別入場口を目指したが、やはり人相の悪いというか眼光の鋭い衛士が対応していた。


 俺はその雰囲気にはそぐわないような、陽気で明るい大声で元気に挨拶してやった。


「やあ、諸君。

 お勤め御労さん。

 なんだなんだ、みんな表情が暗いねえ。

 人間、そんな事じゃいけねえなあ。

 ところで、勇者様がここをお通りになる訳だけど、いいかな!?」


 そこにいた衛士は元より、そこを通過待ちしていた連中も珍妙な顔をしてこちらを見た。


 そりゃあそうだろうさ、こんな場所でそのような陽気な有様でいるなんて雰囲気ぶち壊しもいいところなので。


「これは勇者様。

 して一体この首都パールにどのような御用件で?」


「もちろん、これだ」


 俺はそう言って、SSSランクの冒険者証を突き出して、ぬけぬけと言ってみせた。


「冒険者ギルドあるところ、このSSSランク冒険者カズホありだ!」


「はあ、まあ別にようございますが……」


 一応は監視をつけたいという訳だな。


 一体、何故こんな馬鹿陽気な勇者が堂々とこのような独裁国家の中枢に乗り込んできたのか、内心ではさぞかし訝しんでいる事だろう。


 だが俺は続けて言った。


「じゃあ、俺はこれで」


 そう言って門を通り抜けると、あっさりと空に飛び立った。

 これで追跡などできまい。


 そして一分後に、俺はまた何事もなかったの如くの様子で厚かましくも戻ってきた。


「なあ、冒険者ギルドはどこなんだ!?

 空から見ると、どれもこれも似たような建物に見える。

 目印の旗も立っていないしなあ。

 ヨークのような色鮮やか過ぎるのも落ち着かないが、これだと何の建物なのか見分けがつかん!」


 もちろん、そのためにわざとそうしてあるのだろうが。


「はあ、それならば、そこの大通りをずっと真っ直ぐに進めば街の中央に出ますので、その手前の大きな建物であります。

 あと、わからなければ向こうで誰かに聞いてください」


「ありがとう~」


 そして言われた通りに向かったら、それらしき建物があった。

 なんとなくわかる。


 入り口のよく踏み締められた階段に、なんというか革の鎧を身に着けた冒険者が触ったと思うような手の痕が染み込んだような扉。


 これといった決め手は特にないのだが、なんとなくそういう匂いがするというか。

 これがまた見事に煤けている感じだな。


 それにこの国じゃ、さすがの冒険者ギルドも儲かっていないんだろうなあ。

 名のある冒険者なんかは、皆とっくにこの国から逃げ出しているのだろうし。


 場所がわかってよかったぜ。

 他に誰もいないから、道を訊きたくたって訊けやしない。


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