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4-45 音信不通

「いやー、正月用品、実に楽しみだなあ。

 まさか、この異世界で数の子が食えるとは思わなかった」


「本当にねー。

 あんたも仕入れで頑張ったから、お陰様で勇者もみんないい正月が迎えられそうよ」


「あ、それはいいんだけど、その前にクリスマスがあったんじゃないのか?」


「ああ、それならフォミオがもうホイップクリームの元は作ってくれたわ。

 これを万倍化しておいてくれる?」


 そう言って泉は、袋入りのそいつを渡してくれた。


「そうかあ。

 ああ、ケーキ用のイチゴだけは残念だったなあ」


「一応、王様がベリー類のいいのを用意してくれたわ。

 陽彩君が欲しがっているという事で。

 王様達も楽しみにしているみたいだから、美味しいケーキを届けてあげなきゃね」


「お、いいな。

 じゃあ、ギルドでもクリスマスパーティをやるかな。

 シャーリーとナナも呼んでやろう」


「第七王女様、もうその名前の呼び名で定着なのね」


「その名で呼んで本人が返事(あくたい)をついてくるようなら、もう愛称は決まりだな」


「もう、そのうちどこかでバチが当たるからね」


「まあまあ。

 そうだ、宗篤姉妹は来れるかなあ」


「そういや、あの子達どうしているの」


「ああ、あの姉妹が向かった国なんだが、どうやら俺が思っていたよりも性質が悪いらしくてなあ。

 身分証に、精霊の加護や金も充分あるから、そうそう困る事はないと思うのだが、クリスマス前にイベントのお誘いがてら、俺が様子を見にいってもいいなと思っているんだ。

 もう、あれこれとイベント関係は片付いたし、カイザの方も一通り目途はついたしね」


「ふーん。

 じゃあ一回連絡入れてみれば?

 向こうもいきなりクリスマスやるよって言われても困るかもしれないし」


「そうだなー。

 じゃあ」


 俺は宝珠で連絡を入れてみた。

 だが何も応えはなかった。

 佳人ちゃんにも連絡してみたが、同じく返答というか気配すら伝わってこない。


「あれえ、通じないな」

「え、何かあったのかしら」


「うん、なんていうのかな。

 通じないというか、本人の魔力が通電していないというか。

 こいつね、魔力で登録された人間が持っていないと『電池切れ』みたいな状態になるんだ。

 今は丁度、そんな感じだな」


「手が離せなくて出られないとかじゃなくて?」


「ああ、おっかしいなあ。

 この宝珠で今までこんな事はなかったのに。

 大事な物だから、そうそう二人ともが手放すなんて事はないはずなのだが」


 泉は少々不審げに首を捻っている。

 あのような貴重品を彼女ともあろう者が簡単に手放す物なのかと。


 それに采女ちゃんは言ったのだ。

 妹と連絡を取れなくなると困るから、もう一つ欲しいのだと。


 あの妹命のお姉ちゃんが、その宝珠を一瞬でも手放すとは考えづらい。

 しかも、妹の宝珠も同じく沈黙していたので。


 もしかして、これは現地で何かあったのだろうか。


「ごめん、今少し警戒令が出ていて、あたし王様の許可がないとあまり勝手に出かけられないのよね。

 まあいつでも、国内くらいならそう言われないんだけど」


「そうかあ。

 じゃあ、俺はちょっとあの国まで行ってくるわ。

 クリスマスと正月の準備の方は頼むな」


「任せてちょうだい」


「ああ、そういやこのホイップクリームだけは万倍化してから行こう」



 俺はそれから宝珠を取り出して、カイザを呼び出した。


「どうした、カズホ」


「ああいや、こっちの買い物の用事なんかは済んだんだが、ちょっと見に行かないといけない事があってなあ。

 どういうわけか、例の宗篤姉妹と音信不通なんだ。

 行先が行先だけに気になるから、ちょっと様子を見に行ってこようと思うんだ」


 それを聞いて、カイザの声も曇った。


「まあ、あそこだけはな。

 あの二人は確かまた大精霊を捜しに行ったのだったな。

 大精霊の奴も、また面倒な場所に引き籠っているものだ」


「基本的にそういう奴らだからね。

 うちの国にいた奴だって碌な物じゃなかったぞ」


「まあな。

 じゃあ気をつけていってこい」


「ああ、じゃあ一つだけ言い残していくよ。

 お前の奥さんの初めての手料理が食いたかった!」


「はっはっは。

 あの子も料理の腕の方はまだまだだ。

 公爵家のお姫様だったのだから仕方がないのだが。

 今度王都の勇者に料理を習わせてみるか。

 お前の好きそうな奴を」


「そいつは多分、お前や子供達も絶対にお気に入りになる料理だと思うぜ。

 アレンジして、そこの名物料理にしようよ」


 レシピは世界中を旅し、あるいは世界を越えてさえ進化し、また新たな食の歴史を刻むのだ。


 俺は宝珠を切ると、恋人の部屋の窓から勢いよく旅立った。


「じゃあ、ちょっといってくるわあ」


「いってらっしゃーい。

 子供達の気に入る御土産があるといいわね~」


 うーむ、言外に「自分の土産はいらない」と言っているかのようだ。


 外国へ、もしかしたらヤバイ内容かもしれない要件で旅立つ恋人を見送る女の台詞としては実に微妙だ。


 まあ、あの手の国の土産で、泉が欲しいような物は多分ないのだろうなあ。

 何を隠そう、この俺自身だってそんな物は特に欲しくないもんね!


 あの手の国はどこでも大概は、国際的には殆ど値打ちが無いようなお札や、珍しいそこでしか手に入らない切手なんかが人気の土産物なのだ。


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