4-44 海鮮で凱旋
そして、俺と魚海さんは望外の戦利品を持って意気揚々と王都へと凱旋した。
なんというか、強大な魔人を討伐した時よりも誇らしいというか、そんな気持ちで。
一応は各種海産物満載のクーラーボックス達をぶちこんだ馬車ごと万倍化するだけしておいてから向かった。
連絡しておいたので、泉の部屋経由でさっさと城の厨房へと向かうと、勇者達いつものメンツが勢揃いしていた。
「さあ、早くお宝をキリキリと出すのです」
姐御の催促が激しい。
いつになく張り切っているな。
今にも俺の収納から戦利品を強制的に引きずり出さんばかりの気合だ。
「昆布、昆布~。さあ、早く!」
海藻食いの法衣さんも俺の腕を強く引っ張った。
前にワカメはもうあげたでしょ。
そう引っ張らないで。
「これで麺類も、まともな出汁で味が深くなりそうだ。
鰹節も今、|生節『なまりぶし』までは上手くいったところだ。
これからいろいろ試しながら、繰り返し焙煎(燻製)の行程をかけていくところだが、やはり素人にはカビ付けの部分が難しいだろう。
いや、しかしフォミオは実に便利な奴だな。
どうだ、うちに寄越さんか」
「それだけは絶対に無理だから!」
いくら師匠だって、それだけは絶対に駄目だぜ。
なんたって、既にあいつは焼き締めパン村の重鎮といってもいいくらいの地位を自力で確立しているのだから。
留守がちである主の俺よりも村の衆に馴染んでいるくらいだからな。
今では奴抜きで、俺の村の住人としての立場が立ち行かないほどまでになっているのだ。
「まあ、奴はお前の眷属なんだから仕方がないな。
ほら、生節だ。
土産に持っていけ。
味噌汁に入れると出汁と具を兼ねて、これまた美味いぞ」
「あ、ごちそうさんです。
あ、そういやウミヘビの魔物を大量にゲットしたんですが、需要あります?」
「うむ、そいつはどっちの奴だ」
「魚類じゃない方。
巨大爬虫類が約千匹かな」
「えー、誰がそんな物を食べるのよ~」
どうやら泉は長物が苦手なようだ。
アナゴやウナギは結構好きそうなんだけど。
かなり前から食いたいって言っていたよな。
そういや、もうタレは出来たのかね。
「いや、蛇もウミヘビも悪くはないが、それだけでかいと味の方は大味そうで、あまり期待できんな」
「おっさん、あんた……」
「いや、その代わり普通のウミヘビと違って、小骨はないんじゃないですかね。
あれは普通のウミヘビだとハモみたいに骨切りが要りますから。
泉、ウミヘビは沖縄じゃ長寿料理として有名なんだぜ」
「そ、それはそうなんだけどさ。
ちょっと、いやかなり抵抗あるなあ。
何もない荒野のど真ん中で食い物に困っていたなら考えるけど。
それ、どうみても明らかに沖縄料理の原材料とは違う種類だよね」
さすがはこの俺の彼女になるだけの事はある。
いい根性をしているぜ。
まあ、どっちかというとこの大ウミヘビは、ただの海産物よりも怪獣に近いタイプなのは認めるけどな。
「魔物なのだから魔力がたっぷりで、案外と滋養強壮にいいかもしれんな。
長寿か。
それに俺も歳なんだし、滋養強壮はありがたいな。
一応、貰っておくか」
「えー、国護さん、マジですか」
「歳ってあんた、鉄人ヘラクレスのどこがよ」
とにかく、このおじさんはマッチョ。
どうみても歳とか関係なさそう。
きっと夜の方も絶倫なんだろうしな~。
昔、七十歳くらいまで現役プロレスラーで鉄人と呼ばれた人がいたよな。
野球選手でも物凄い連続出場記録で鉄人とか言われていた人もいたような気がするが、このお方は絶対にその同類に違いないのだ。
とりあえず、ウミヘビを各種切り身にした奴や、その他の部位に至るまで全てを渡しておいた。
「こいつの皮はゼラチン質たっぷりという感じだな」
「ええ、なんでも特殊部隊として編制された強化種とかいう特別な奴らだそうで、かなり身は引き締まっているんじゃないでしょうか。
味の方は意外といけるかも」
「うむ、そいつは楽しみだ。
いっそ滋養強壮ウミヘビラーメンでも作ってみるか」
「あっはっは」
こういう話をゲンダスが聞いたら、また大笑いするんだろうなあ。
「ふむ、ウミヘビねえ。
長らく水産卸などをやっておると、高級食材部門へはお客様からの注文の中に変わった珍品を欲しがる高級店なんかの御用命もあったりするのですが、名古屋の市場じゃ特に扱っていませんでしたな。
あんな物は特にお客さんから注文も入りませんしね」
「いやー、注文って。
ああいう物を食べたい人は自分で釣るでしょ。
というか、他の物を狙っていたら外道でウミヘビが釣れちゃったから試しに食してみるかっていう感じなんじゃないのでしょうか。
確かハモみたいに小骨が多いし。
ウミヘビ専門の釣りって聞いた事がないな。
あったとしても沖縄くらいのものじゃ。
東京湾の巨大アナゴ釣りならやる人の話も聞くけど」
なんで東京湾の底って、あんな化け物が山ほどいて釣り人から釣りまくられていたり、幻の鮫メガマウスが普通に生息していたりするんだろうな。
東京湾なんて、昔は公害で物凄く汚なくてヘドロだらけになっていた気がするのだが。
そういうのをネタにした特撮怪獣なんかもいたよな。




