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4-42 プロの目利き

 今日はフォミオが師匠と一緒に鰹節作りをしている。


 何故か勇者陽彩までも『お母さん』のお手伝いをしていた。

 相変わらず、あいつに懐かれているな国護師匠。


 という訳で、俺は早朝に魚のプロ(目利き)と一緒にまた魚市場にやってきている。


 この魚海さんは古い漁師町で漁師の家で生まれ育ち、家のお手伝いも散々したし、大人になってもそのまま漁師をやっていた。


 転業してからも、日頃から仕事に関する勉強を欠かしていなかったらしい。

 鮮魚部だったので扱う種類が半端なかったそうで、スーパーなどへ行った時も真剣に種類や置かれ方なども見て回るのだという。


 魚海さんは、子供が小さい頃はよく水族館なんかを巡っていたらしい。


「そういや、魚海さんはご家族を置いてきてしまったのですか?」


「ああ、子供は三人いますが皆もう独立しましたので、私自身は心おきない身の上ですわ。

 妻にも先立たれてしまいましたので。

 まだ小さなお子さんや奥さんなど日本に残してこられた方は、さぞかし無念でありましょうなあ」


「そうですか、それはまだよかった。

 私も向こうで結婚していなくて幸いです。

 今はこっちで日本人の勇者の子と付き合っていますので」


「ああ、青山さんですな。

 あの子は明るくて面倒見もいい子で、皆も助かっているでしょう。

 まだ学生の子が何人もいますからね」


 うーん、まだこういう逸材がいたとはなあ。

 まあ確かに女の子達のお婿さん候補には向いていなそうだが、お父さんとしてなら女の子達からたくさん需要がありそう。


「さて、ここが異世界の魚市場ですか。

 こんなところへ来るのは久しぶりですねえ。

 いや腕が鳴りますな」


 別に職場で彼本人が直接仕入れていたわけではないのだが、元漁師なのもあって魚の扱いは本当にプロだ。

 何しろ勤務時間中は、かなりの時間をかけて魚を扱っているんだからな。


 店によって売れる物は違うし、顧客からの意見の吸い上げや地域性も考慮しないと売り上げや利益に影響するだろう。


 また入ってくる商品も、近海物・近場の国で獲れた物・国内外の養殖物も都度コストや提供される量なんかも変動するし、気象の影響も受ける。


 競合他社に持っていかれて品薄になっている場合もあるだろうし。

 大変な仕事だが、最近は大手スーパーの直仕入れに押されて、鮮魚市場も苦境であるのらしい。


 そもそも愛知県って大きな港は自動車の輸出港なんかが多いので、卸売り市場も魚の産地市場とは言い難い。


 三河湾や半島などの漁港も、現地での直売のような市場は観光と相まってそれなりに賑わっているが、内陸部の市場は何人も人手を渡ってくるためどうしても割高になるようだ。

 当然、漁港で売られているものより鮮度も落ちているはずだ。


 日本ではそんな大変な状況の場所もある市場ではあったが、この魚市場は希少性も相まって本日も大賑わいだ。


「いや異世界市場、よいですな。

 これまた、よきかな、よきかな」


 おじさん、今にもスキップせんばかりに浮かれております。

 プロの血が騒ぐものらしい。


「これらって、日本の魚と似たようなものですかね」


「ああ、多分微妙には違うかと思いますが、見たところそう変わらないのではないでしょうか。 

 外国産の日本の魚と似たような、スーパーでは同じ名前で売られているような種類の魚だと思えばいいんじゃないでしょうかね。


 特に調理してしまえば、そう変わらないような気もするのですが、問題は魚の扱いなのですがねえ。

 それもそう悪くはないようです。


 冷蔵冷凍技術も日本のように発達しているわけではないだろうに驚くべきことですな。

 見なさい、ちゃんと魚が氷に詰められている」


 俺は気にも留めていなかったんだけど、そういやここには普通に氷があったんだ。


 日本の漁師や水産会社は鮮度とか見てくれなど非常に気を使うと思うが、アメリカなどではそうでないところもあるという感じの話か。


 魚を扱うプロとしては気になるのだろう。

 だがここは、素人目に見てもなかなか鮮度が高い気がするのだ。

 まあ、すぐそこの海で魚が獲れているような産地市場ではあるのだが。


「もしかしたら、ここは収納で漁師から直接買い付けているのかもしれませんね。

 なんかこう、客に明らかに商人なんかのような方が異様に多い気がするのです。

 ヨーケイナ側は地形的に中央と断絶してしまっていますが、こちら側では希少な漁港として、買い付け現場でも高価な収納袋も投入されているのでは」


「そうかもしれませんね。

 なんといっても鮮度が日本とそう変わらないし、高く買ってもらえるのであれば大切に扱われるのでしょう」


 そう言いつつ彼はじっくりと選んでいったが、俺が金貨大金貨などで膨らんだ財布を持って揉み手でついていくので、あれこれと金に糸目をつけずに選んでいく。


「うわあ、団扇海老だ!

 美味いんだよな、これ」


「ああ、ラッキーだったねえ。

 これは日本でも滅多に入らないんだよ。

 これは大きくて形がいい」


 この特撮に出てくる宇宙人のような格好をした海老は見慣れないので、スーパーで見かけても初めてだと買いにくいが、ロブスターっぽいというか伊勢エビ風の感じで非常に美味である。


 数度しか買った事がないが、茹でて食ったら実に美味かった。

 個人的には茹でてタルタルソースで行きたいが、大きいし新鮮だから刺身にしてもいいよな~。


「あれ、貝が結構置いてあるんだなあ。

 この前は見落としてたけど」


「アサリやハマグリのいいのがあります。

 生きているので、これは収納には入りませんな」


「そうか、まあ貝は死んで貝殻が開いていたらマズイですよね」


 俺は大荷物を持つのが嫌だったので、荷物持ちとしてザムザ1を『フード付き』で召喚した。


 顔にもマスクをさせてある。

 さすがに蟷螂頭丸出しじゃマズイだろうと思って。


 例の魔導クーラーボックスにたっぷりと仕入れて、それを台車に載せて持たせて後をついてこさせる。


 よく見たら、他にもこれを使っている方々がおられた。

 ここに買いに来ている人はみんな、金に糸目をつけていないな。

 もしかすると、貴族の家の料理人なんかもいたりして。


「おお、鯛ですな」


 なんだろう、プロと一緒だと魚自体もいい物が置いてある気がする。

 あるいは朝が早いせいだろうか。


 この前は自分で漁をするつもりでいたので、市場目当てで早朝に来たわけじゃないからな。


「おや、ニシンがありますな。

 こいつは子持ちか。

 丸々と太っていて、いい卵を持っていそうだ。

 これでうまく数の子が作れるとよいのですが」


「うお、マジですか。

 それ、この間もあったけどニシンだなんて思わなかった。

 そうか、これがニシンなのか。

 イワシもニシン科だと思ったけど、同じ仲間なのかな」


「こいつは昆布巻きにも入れられますな。

 まあ昆布が無ければ、これだけでも何か料理にしてもいいし」


 それから存分に回って、水産のプロの目利きにより鱈のような『蒲鉾の材料』に、正月の御節用の小さな海老を仕入れて、なんとウナギやアナゴまで仕入れてくれた。


「くっ、ウナギかあ。

 こいつのタレはまだ用意していなかった。

 今やっている鰹節作りが終わったら、さっそくフォミオにかからせないと。

 ひ、ひつまぶしも食わないとな。

 あ、クリスマスケーキ用のホイップクリームの製作もあったかあ」


「いいですな、名古屋飯がどんどん揃ってくる」


「鰹節があれば出汁巻卵もできますから、あと一般的な御節料理で駄目そうな物はもう昆布くらいじゃないですかね」


「生憎とそいつは市場にもなかったですなあ」


「後で浜へ見に寄って行きませんか。

 ほら、西浦のパームビーチあたりなんか、よくビーチが昆布だらけになってましたよ。

 あれって食えるものなのかどうか、よく知りませんが。

 あそこじゃ誰も見向きもしませんがね~」


「はっはっは、確かにね。

 じゃあ後で覗いてみますか」


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