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1-27 魔物穴始末記

 勇者改め悪魔の化身たる俺が、隣で同じように手持ち無沙汰にしている相棒に訊いてみた。


「なあカイザ。

 どうかな」


「まだ何とも言えんな」


 俺達はあれからずっと、少し離れた場所から穴を見張っていた。

 魔物穴だった場所は、今も大量の湯気を立ち上らせているので中もよく見えない。


 空も人工降雨が起きてしまいそうなほど噴煙に覆われていた。

 農作物に影響が出ませんように!


 穴の中を爆薬で吹き飛ばしたので、大量にいた魔物は跡形もなく吹き飛んでいたはずなのだが、魔物穴が魔物を生産する仕組み自体がどうなったものか。


 大丈夫そうなら、このまま埋め立てちまおうと思ったのだが、カイザがまだ様子を見たいという。


 魔物穴で魔物が湧くという事が、どういう仕組みになっているのかわからないので、俺にも何とも言えないからそのようにしている。


 村にも爆発は激しく伝わっただろうから心配しているだろうし、ここで起きた事を教えに行ってやりたいのだが、一人が行ってしまうと、もし他の魔物が残っていた場合に、後の一人が危険に晒されるので。

 忍び寄ってくる奴がいたり、寝込みを襲われたりとかな。


 まだ穴の周りは熱くてまだ近寄れないし、魔物が這い上がってくる様子もない。

 俺とカイザは手持ち無沙汰な感じで、ボーっと湯気のダンスを見物していた。


「おい、何が起こったのだ」

「うわ!」


 突然、後ろから話しかけられて二人ともビックリして飛び上がった。

 心の準備がないと、こんなものさ。


 こいつは魔物が出るよりも驚いた。

 さっきの大爆発と、魔物穴の具合に心をすべて持っていかれているからね。


「なんだ、ゲイルか。

 お、脅かさないでくれ」


「驚いたのはこっちだ。

 物凄い噴煙が上がり、天地がひっくり返ったかと思うような凄まじい音と揺れが起きたものの、お前達も帰ってこないし皆が不安がっているから、わしが代表で見に来たんだ」


「カイザ。

 誰、こちらの方は」


「ああ、彼は村長の息子のゲイルだ。


 ああ、ゲイル。

 こっちは俺の家の居候で娘達の命の恩人さ。

 そしてたった今、村の恩人にもなったばかりだ」


「おお、あんたが噂の」


「おや、俺がどんな噂に?」


 やっぱりここは、村の子供達を狼魔物の群れから救った英雄とかかな?


「人の家の便所の下を、わざわざ金を払って嬉々として漁っていくとか、山の中で木の汁を集めて回っているとか。

 後はそうだな、男なのに子供相手に妙な裁縫をして遊んでいるとか。

 とにかく奇人変人の類だな」


「うわあ、碌な噂になっていねえ」


 いつかこの汚名は必ず返上するぜ。

 しかし今回も派手にやらかしちまったから、また妙な噂が広まらなければいいのだが。

 デビル勇者的な称号が付かない事を祈ろうか。


「ところで、これはなんだね」


「ゲイル、これはな。

 今はこんな有様になっているが、こいつが昔の文献にあった魔物穴という奴だ」


「なんだと!

 それは大変な事じゃないか。

 早く王に知らせて王国軍を呼ばないと」


「いや、あれから魔物は湧いていない。

 最初の湧き上がろうとしていた魔物達は、こいつがやっつけた。

 その前に穴から出ていた奴らがいるとマズイから注意してくれ。


 目撃されていた熊魔物二頭は片付いたよ。

 俺達は魔物の湧かなくなった確証が持てるまで見張るつもりだ」


「そうか、何か必要なものは?」


「特にないが、うちの子達に帰るまで少し時間がかかると伝えてくれ。

 あと、村の連中には事態を伝え、今すぐ避難が必要なわけではないが場合によっては避難の必要があると言ってくれ。

 当座の魔物は片付けた事だし、しばらく様子見だな」


「わかった。

 じゃあ気をつけてな」


「ああ、ありがとう」


 こりゃあ、一晩立たないと冷えないかね。

 あれだけ派手に吹き飛ばしたからなあ。

 お、そうだ。


「カイザ、穴の周りの層を削り取って穴を少し拡大してみる。

 そうすれば熱い部分が無くなって湯気も収まるだろう。

 やってもいいかな」


「ああ、そうしてもいいが気をつけてくれ。

 まだこいつが機能を停止したという確証はないからな」


「あいよ」


 俺はまるで工作機械で削り取るか、金属の円筒から内径にぴっちりと嵌まったシリンダーを抜き出すかのように、穴の周りの土を収納して円筒型の穴の径を拡大した。

 もちろん、床の部分もだ。


 直径は六十メートル、底はもう百メートルほど深い三百メートルまで深くしてみた。

 もし地中深くから魔物が湧いてきていると、これでもお手上げなのだが。

 とりあえず、湯気は収まった。


「さて、中はどうなっているかな」


 穴の周囲はまだ暖かいが、近寄れないほどではない。

 穴を覗きこんだら魔物がいて食いつかれたとかだと嫌なので、先に槍を五十本くらい放り込んでから顔を突っ込んだ。


 うん、まったく底が見えないよ。

 穴深すぎ。


「暗くて見えんな」

「まあ、森の中だしなあ」


 俺は収納から取り出した松明を何百本も燃やして穴の底へと落とし、中を照らしてみたが何もいなそうだった。


 カイザにも確認してもらい、当座の安全を確保できたとみてよいようだった。


「明日まで待って、何も現れないようなら埋めてしまってくれ。

 このようなケースは初めてで報告書にも載っていないので、我々にもよくわからない」


「そうしておくか。

 いつもはどうしているんだい?」


「魔物を討伐していると、そのうちに湧かなくなるのさ。

 魔物穴とはこういうイレギュラーな事態に発生するものなのだからな。


 今回は召喚儀式の影響なのだから原因ははっきりしているので、その点では問題ない。

 今あるこれが機能を止めれば、もう魔物が湧く事はあるまいし、二度と現れまい」


「そいつを、よりによって神託の勇者でもないのに巻き込まれて召喚された、ハズレ勇者の俺が片付けたって訳か。

 一体なんなんだろうなあ」


「まあそうボヤくな。

 とりあえず、村は放棄しなくてよさそうな按排なので助かったな」


「そいつは確かにね」


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