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4-31 異世界産の海の幸を求めて

「さて、蕎麦の探索はプロの商人であるショウに任せてあるし、クリスマスツリーの飾りの残りや、ケーキ用のクリームや板チョコ飾りなんかもフォミオに頼んである。

 ケーキにぶっさす、細くて捻じれたような形のローソクなんかの製作も王都の店へ外注に出したし。


 俺は一番の気がかりである、蕎麦汁用の出汁に使う鰹を捜しに行くとするか。

 師匠はいやに強気だったけど、鰹節の製作は間に合うのかなあ。


 フォミオに手伝わせれば試作も早く終わる気がするが、あれは作るのに手間がかかるので超有名な食い物だからな。

 それに出汁巻卵も欲しいわけだし」


 そう、どうしても鰹だけは捕まえたいのだ。

 そういう訳なので、俺はこのクソ寒い中、『鰹漁』に出かける事にした。


「主よ、そんなに鰹という魚がよいのか」


 運転手のザムザ101に訊かれたので、マルータ号操縦席の隣の席に座った俺も大きく頷いた。


「ああ、今は旬じゃないような気もするのだが、贅沢な事は言っておれん。

 あと秋刀魚だな。

 これももうシーズン過ぎた気もしないでもないが、回遊魚なんだからどこかにいるんじゃないかな。


 あと、採れたら寒天用の天草なんかもあってもいい。

 ゼラチンはあるんだけどなあ。


 ああ、そうそう。

 昆布があるといいな。

 やはり御節料理に昆布巻きは欲しいところだ」



 黒豆はあるし、贅沢を言ったら田作りなんかも欲しいところだ。

 確か、原料はごまめとかいう奴だよな。

 あれはイワシの小さいのだったっけかな。


 きっと生きた奴を見てもよくわかるまい。

 小魚なんて、どいつもこいつも同じに見えちまう。

 どれで作っても似たようなものじゃないのだろうか。


 さすがに縮緬雑魚と田作りの区別はつくが、実際に自分で漁をして持って帰って作ってもらうのは難しい。


 あと数の子は処理が間に合わないんじゃないのかな。

 というか、あれはどうやって作るのかよく知らないし、ニシンっぽい魚を捜さないといけない。


 そんな事を言えば、御節料理に付き物のブリだって欲しいところなのだ。

 とにかく俺は料理も漁も、ありとあらゆる意味でずぶの素人なのだ。


 とりあえず、あちこち海を回ってみようと思った。

 港があれば、どこかで漁をしている場所もあるかもしれない。


「主のその情熱、我にはよく理解できないのだが、とりあえず港を捜せばよいのだな」


「ああ、頼むよ」


 南へと向かい、海へとやってきた。

 この世界の全体像が今一つ理解できていない。


 魔王城の位置さえもよくわからないのだ。

 詳細な地図は軍事機密なのかねえ。


 とりあえず、このあたりで近い海は南方面だった。

 上の方は寒すぎてどうもな。


 蟹はそっちの方がたくさんいそうだけど。

 あ、正月の御馳走って蟹もあったな。

 あと海老のでかい奴もあったか。


 ああ、お寿司もいいよなあ、でへっ。


 いけねえ、雑煮!

 いや肝心の餅がないじゃないか。


 来年は何らかの方法でなんとかして餅を手に入れなければ。


 餅の原料は必ずしも稲からでなくてもいいのだ。

 俺の地元には、柏餅などならコーリャンから作る物もある。


 女子連はもうアルファ米を使用した雛あられモドキまで開発していたし、豆蒔きもやるつもりらしい。


 バレンタインもチョコがあるからできるしなあ。


「主よ、港があるが下りるのであるか」


「ああ、一回下へ降りてみようか」


 マルータ号が多少の注意を引いたようだが、そう騒ぎにならずに下に降りられた。

 さっき上から見たが、大きな市場らしき物はなかったような気がする。


 ここはヨーケイナ王国ではないはずだし、勝手がよくわからない。


 港と言っても、どうやら海運港のようだ。

 この世界の船は帆船だな。

 まあ車も鉄道もないのだからエンジンはなさそうなのだが。


 船も丈夫で大きな外洋を行くようなタイプに見えないし、沿岸航行のみを行うような比較的ライトなタイプに見受けられる。


 俺はその辺を歩いていた海運作業員のような風体の人を捕まえて訊いてみた。


「すみません、この辺で魚を売っているところはありませんか」


「ああ、それだったらそこの倉庫街の向こうに小さな商店がいくつかあるが、そうたいした品揃えはないよ。


 このあたりは魔物が多くて、本格的な漁はできないからね。

 港の岸から釣ったり掬ったりしたような小さな魚しかないし、まあそれも大概は子供達の仕事だしな。

 大人には荷役の仕事や町のための仕事があるからねえ。


 このあたりの人間は、魚なんかは自家消費だし、内陸から物好きが仕入れに来るだけだから、零細な店がポツポツとあるだけなのさ。


 もっといい魚が欲しかったら、もっとずっと東へ行った大きな河口近くの港が漁船を出しているから、そこへ行くといい。

 あそこはこことは、また別の国になるよ。


 川の水と海の水が混ざり合う汽水域の水は海の魔物が嫌うから、この近辺ではあそこだけが特別なんだけどな。

 川にはまた川でまた大きな魔物が棲んでいるもので、そっちも魚獲りは盛んじゃないはずだ。


 西の方の港へ行ってもいいが、そこは凄い独裁国家だから、そっち方面へ行くのはお勧めじゃないな」



「そうなんだ、いやありがとう」


 やれやれ、この世界はあまり漁業が盛んではないのか。

 今教えてもらった港が駄目なら自分で漁をした方がマシそうな按排だ。


 どうやら西の独裁国家はかなり国土が大きいのか、北の湖から南の海まで広がっているのか。

 おそらくは覇権主義で、あちこちを強引に合併してきたのだろう。


 あまり行きたくはないが、そこには大精霊がいるらしいのだ。

 そのうちには行かざるを得ないだろう。


 年内にあの姉妹に呼ばれなかったなら、正月を越してからかな。

 蕎麦の配達は間に合いそうもない。


「いやいや。

 時に、その髪と目の色、あんたは多分最近ヨーケイナ王国が召喚して異世界からやってきたという勇者さんだよな。


 伝説によると勇者さんは魚が大好きだそうで、昔もこのあたりまで探しに来たという話だからねえ。

 じゃあ頑張って美味しい魚を手に入れてください。

 応援していますよ」


 俺は頷いてから、更にお辞儀をして再度丁重に礼を示し、彼に別れを告げた。


「うーん。

 彼の話からすると、あまり期待は出来ないみたいだが、せっかく来たんだから寄ってみるか」


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