4-30 異世界のクリスマスツリー
「ふん、ふん、ふん、ふん」
俺はとりあえず鼻歌が止まらず、ガタイのいいゲンダスどもに手伝わせてルーデシア城の中庭にツリーを立てていた。
ここには建築技師や作業者の人達しかいないのだが、そこは気分で。
例によって『旗持ち』としてミール1003の魔核を埋めてみた。
ミール1002の魔核は教会建設予定地をひっそりと守護している。
「主よ、我はこの木が絶対に倒れぬように踏ん張っておればよいのだな」
「ああ、ついでにこの建築技師村も守護しておいてほしい。
まあ滅多な事はないと思うのだが」
「主よ、心得た」
「頼んだぜ~」
だが、ベルモント男爵は不思議そうな顔をしてそれを見上げている。
何しろ、高さ三十メートルあまり、そして直径が一メートルを越えんばかりの巨大なモミの木(らしき物)を地面に建てて、現地の人からしたら何の意味もなく飾りつけをしているのだ。
しかも魔獣魔核の守護者までつけて。
「これは一体何の支度なのですか。
まるで祭りでも始まるかのようだ」
「まあクリスマスといって、勇者の国の一種のお祭りなのですよ。
年末近くでやるので、これが終わると勇者の国では仕事納めまでのラストスパートという訳なのです」
「うーん、よくわかりませんね」
そりゃあ、わかっていたらおかしいわ。
だが年末にクリスマスをやらないと、自分だけが世界から疎外された気になるからな。
止むを得ず年末ずっと追い込みで仕事をしている年でも、残業食代わりにケーキくらいは買ってきて食うのだ。
居残り組の社員には、差し入れで誰か彼かからチキンセットくらいは届いたりするし。
「うーん、やっぱり電飾が欲しいよな。
今年は魔道具が間に合いそうもない。
マーリン師に頼んで、長時間発光する薬品でも用意してもらって使ってみるか。
あるいは『光の精霊』に頼む手もあるのか。
確か連中は、俺についている加護に結構混じっていたよな」
加護を用いて呼んでみると、蛍よりもかなり明るく発光してくれた。
もちろん、チョコは持たせてやっておいたのだが。
男爵にこう言って頼んでおいたのだ。
「すいません、確か資材運搬に用いる大容量の収納袋を持っていましたよね。
チョコを預けていきますので、しばらく連中の世話を頼めますか」
「はあ、構いませんが。
これが精霊ですか、ほおほお。
これはまた面白い」
精霊が視えない人にも、この光の精霊が放つ灯りは見えるものらしい。
光の精霊達は俺の言い付け通りに、飾り用に作らせた大きめのガラス玉の中に入り、青や赤の綺麗な光を放ってくれていて中でチョコを齧っていた。
チョコを燃料にする、見事な天然電飾の出来上がりだ。
燃費に関しては関知しない。
クリスマスが終わるまで持てばいいのだから。
ただの電飾の光などではなく精霊光であるために、淡く神秘的な光で昼中でもホワンっと不思議に仄明るくて、現代日本人から見ても若干不思議な物なのだが、大いに勇者達を楽しませてくれる事だろう。
とりあえずは建築技師さん達にクリスマス気分を堪能してもらおう。
当分、男爵のところには精霊達からのチョコのお強請りが厳しかろうが、見返りに精霊の加護が付くのに違いない。
このように、仕事に邁進し誇り高い人物も、おそらく精霊から好かれるだろう。
この人は腰が低く、また物腰が柔らかいので、そういう面からも精霊から好かれやすいタイプだった。
彼の収納袋にはチョコを超大量に詰め込んでおいたし。
一応、昔のカイザ家とうちの小屋用にも並みのサイズのクリスマスツリーは飾ってある。
領主館の子爵邸の方は当然大きめサイズだ。
ここの庭にも大きめの物を飾ってあるし、村の広場にも飾ってある。
ルーテシア姫は精霊の加護を持っているので、チョコを預けておいた。
彼女は御嫁入用に大型の収納を持ってきているのだ。
さすがは公爵家だけの事はある。
そいつは前から公爵家で持っていたみたいだけれど、普通は御嫁入の時に白金貨十枚もする魔道具をポンっと持たせたりはしない。
この辺境だから、ありとあらゆる物を持たされてきたのに違いない。
彼女の自室や二人の寝室は、その収納で運ばれてきた品々で、王城の部屋かと思うほどに豪華になっていたのだった。
ちなみに広めに作られた子供部屋は、王都で買ってきた人形や、勇者デザインのヌイグルミやクッション、マスコットなどで溢れている。
そして、そこにはフォミオが作ってくれた立派な二段ベッドが据えられている。
この国では王侯貴族のお子様がそのような物で寝ていたりはしないのだが、俺からの新築祝いのプレゼントだ。
小さな子供にとっては、この方が絶対に楽しいからな。
あと、子供用の室内用滑り台もフォミオ謹製で、そいつに描かれている可愛らしい絵は女性勇者達の手からなるものだ。
そして、あの子達専用のツリーも飾られており、そこには彼女達に加護を与えている眩いばかりの光の精霊がたむろしていて、毎夜子供達が寝付くまではツリーの飾りの中に引き籠り、LEDもかくやというような素晴らしい光彩に満ちた耀きと精霊の祝福を放っていたのであった。




