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1-26 悪魔の申し子

 俺はあちこちで見かけた巨岩とかを積極的に集めていたので、その中から適当な形をしたものを何枚か出して魔物穴に蓋をした。


 凄い重量なのでクレーンを持ってきたって動かせないやしないから、最初に置き方を失敗したものは一旦戻してから、また収納から出し直した。


 やや細長い岩を六枚並べて綺麗に蓋をしてみた。

 そして中に俺謹製の『危ない粉』を大量にぶち撒いてやったのだ。


 中は粉塵で凄い事になっているだろう。

 しばらくはその状態だろうから、気管支(本当は違う)の弱い魔物ならそれだけでも殺せそうだ。


 昆虫系なんかだと煙で燻したような効果があるのではないだろうか。

 細かい粉は煙みたいになって凄いからな。


 増やす前の最初の量が多かったので、在庫も一番量のある木炭粉がメインだ。

 炭の袋の中に細かい粉がいっぱいあって、あれが付くとまた手や衣服が汚れるんだわ。


 火が点きやすく威力も高い木粉も捨てがたいのであるがね。


 炭は着火温度が高いので、確か着火温度の低かった木粉と澱粉もある程度の量を混ぜてやった。

 なんていうか、全体に行き渡るような一種の粉末信管みたいな感じで。

 それらを一気にぶち撒いたのだ。


 そしてスキルを初めて物理効果の増幅、爆発の増大に用いる予定だ。

 おそらくは爆発で凄い衝撃波を巻き起こす事だろう。

 ちゃんとそいつが効いてくれるといいんだがな。


 そして、それから俺もようやくある事に気がついた。


「カイザ、ちょっとヤバイ事をするから走って逃げるぞ」


「何っ」


「いいから!

 娘達を残して死にたくなかったら、とっとと死ぬ気で走れ」


 俺は今更気がついたのだ。

 あれだけの、超巨大な大砲の砲身の如くのスペースに広がった粉体爆薬の威力のほどに。

 あんな物を人類は未だかつて作ったことはないのだ。


 そして走りに走って距離を置き、俺はなるべくそこの場所が見えそうな離れた高台から、なんとか天蓋になっている岩の隙間から火種を落とす事に成功した。


 木々が邪魔になってよく見えないから難しいんだよな。

 上の方から落としたが、皆穴の蓋にした岩の上に落ちてしまう。


 うまくいかないので業を煮やして、二十回目には火種を一度に大量にぶち撒いて、ようやく岩の隙間に落とす事に成功した。


 蓋をぴっちりと締め過ぎちゃったかな。

 だが、そうしないと上手く破裂しないかもしれないし。


 おかげで籠った火力だけは凄まじいはずだ。

 俺はスキルを発動した。


「スキル本日一粒万倍日、爆発の威力を万倍にしろ!」


 そしてスキルが効力を発揮する白く(まばゆ)い光と、爆発の赤い炎が重なって巨岩の隙間から異様な光が幻燈のように漏れ、天空を激しく彩った。


「伏せろ、カイザ。

 目を閉じ、耳を塞げ!」


 俺が地面に伏せて目を瞑り、思いっきり耳を塞いでいるのを見て即座に倣うカイザ。


 いや、いいセンスをしているなあ。

 この男に限って、馬鹿みたいにただ突っ立っているなんて事はありえない。


 そして、それはまるで神の怒りが大地を揺るがしたかのような有様だった。


 一瞬巨大な火柱が夜空を焦がし、天地の揺れが世界を劈いた。

 体が大地ごと身動きならぬほどに震え、目線も脳も心も揺れた。


 頭が痛いとか、そういう感覚すら消え失せた状態だ。

 人間って交通事故なんかで体に強い衝撃を受けると、瞬間痛みを感じないのだ。

 しばらく後で凄く痛くなってくるけどな。


 耳は何も聞こえなくなり、視界も霞んだままというか目の前は真っ暗だった。

 もし立っていたら、三半規管をやられて手酷く倒れてしまったかもしれない。


 気圧も真面な状態じゃないだろう。

 爆発して生まれた炭酸ガスや窒素ガスなどの気体は大気を、文字通りに爆発的に膨張させた。

 全ての感覚がやられ、脳も内蔵もまともに機能していないのではないだろうか。


 大気成分が変化して呼吸がどうなるか、今更ながらに気になったのだが、すべてはもはや手遅れだった。


 材料に硫黄を入れていなくて本当に良かった。

 あれが入っていると亜硫酸ガスが発生して周囲に撒き散らすから、凄まじくヤバイ事になるところだった。


 村に人が住めなくなっちまう。

 硫黄の雨(硫酸)で森が消滅したかもしれん。


 あのとんでもない威力はスキルで万倍化しているだけなので、衝撃の強さほど大気をさほど汚染していないはずだ。


 なんとか息は出来るんじゃないか。

 というか出来てる。


 どういう理屈で物理的に爆発力を強化しているのかまでは、皆目見当も付かないけどな。


 こんな状態は生まれて初めての経験だ。

 戦争で至近弾の激しい砲撃でも食らったら、こんな感じなのかねえ。


 カイザは何が起こったのか理解出来なかっただろう。

 だが世界が終わるのかと思ったはずだ。


 それほどまでの衝撃が、今この森を突き抜けたのだ。


 これが俺のスキルの威力なのか。

 いやあ文字通り魂まで震えたぜ。


 威力一万倍か、こいつは迂闊に使えねえなあ。

 元の爆薬が一キロで粉塵爆薬十トン分か。


 大型のコンクリート施設群が粉々になって跡形も残らなくなるレベルの破壊力だ。

 確か、大昔の一トン爆弾で山の上の学校なんかが丸ごと平らになるんじゃなかったかなあ。


 以前に米軍が実際に戦争で使った、山を平らにするほどの威力がある十トン爆弾の一体何発分だったろうか。

 あれって確かキノコ雲が立つんじゃなかったか?


 俺がぶっ放したものは、まるで発射する砲弾のない巨大な空砲だ。

 昔の大型戦艦の巨大な砲口の、なんと百倍近いくらいの巨大な直径を持つ大砲だからな。


 米海軍の戦艦による艦砲射撃で、沖縄は地形が代わってしまったとまで言われる。


 一体あの中に何キロ分の粉を入れたんだか記憶にないが、ついバサバサといっぱい入れちまった。

 スキルを使った一発勝負なものだから、もし威力が足りないと洒落にならないと思って。

 良かったぜ、でかくて深い穴を掘っておいてよ。


 痛みと圧迫感を覚えながら視覚が戻った時、まず目に入った物は、白から灰色そして黒煙も伴った凄まじい噴煙を噴き上げていた煙柱であった。


『砲身』から真上に爆発が迸ったものだから、エネルギーを空中からわざと周囲へと四散させる核兵器とは違って、キノコ雲じゃなくて大砲から撃った細長い噴煙みたいになったか。


 これ、たぶん成層圏まで届いているよな。

 こいつが原因で冷害にならなきゃいいんだが。


 まあ火山の噴煙じゃないから大丈夫じゃないかな。

 炭酸ガスや窒素ガスは元から大気中に存在するものだから。


 あと人工降雨みたいに大雨の原因になっちまわないといいがな。


 あの魔物穴がどうなったのかは、立ち上る煙が凄くてよくわからない。

 よかったぜ、あそこに馬鹿みたいに突っ立っていないでさ。


 少し周りに着いてしまった火は爆風で全て消えたので森が火事にはならずに済んだし、俺達もかなり離れていたので吹き飛ばされなくて幸いだった。


 これだから火薬取り扱い主任みたいな資格があるんだな。

 自分で作っておいて言うのもなんなのだが、なんて危ない粉なんだ。


 うっかりと核兵器なんか作ってしまった奴の気持ちが少しだけわかった気がするぜ。

 ソ連の水爆の父とか、後に水爆反対運動をやっていたんじゃなかったかな。


 今度からスキルを使う時には量をしっかり計算しなくっちゃ。

 もし、あの穴の中に宇宙船を詰めておいたら、どっちかの月にまで届いたんじゃないだろうか。


 そして!


「おやまあ」


 俺は確かに目撃した。


 あの大穴の蓋に使っていた、一つ当たりで軽く三百トンはありそうな細長い岩が六個ほど、風切り音を上げながら見事に宙を飛んでいたのだ。


 村までは飛びそうにないし、俺達の頭の上にも降ってこないような位置なので安心だ。

 頭の上に振って来るのであれば、そいつをまた収納してやらねばならない。


 なんというかな、丼に入れてお湯を注いだら出来上がりというタイプのインスタントラーメンで、蓋をしておいたお皿が出来上がりと共に宙に舞い上がったのを見たというくらいの驚きだ。


 驚いているのか何なのかよくわからない、それくらい異様な現実離れした見物だった。


 やっぱり穴に突っ込んだ爆発物っていうのは威力が籠るものなんだよな。

 ああ、それで爆弾とかって丈夫な容器に入れるのか。

 圧力釜なんかでよく爆弾を作っているよな。


 そして巨大な質量が大地を爆撃する大音響と振動が立て続けに六発、再び俺達を揺るがした。

 後で回収のために着弾地点を見に行くのが怖いぜ。


 ああ、目視で収納しておけばよかったのか。

 驚いて、思わず口を開けたままボケっと見ていたわ。


「いやあ、ビックリしたねえ。

 なあ、カイザ。

 ビックリした?

 ねえ!」


 だが彼は怒ったような顔で俺を睨みつけると言った。


「ああ、ビックリしたよ。

 当り前だ。

 世界が吹き飛んだかと思ったぞ。


 ようやく理解できた。

 お前は確かに勇者なんかじゃないな。

 きっと悪魔の化身なのに違いない!」


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― 新着の感想 ―
[一言] 悪魔の化身かぁ・・・ 言われるとキッツい言葉ですねえ。
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