4-29 年末年始に向けて異世界の商人さん達は忙しいのです
とりあえず、地元施設群の改装案が固まったので専門家が設計に移り、さらに作業者はカイザ子爵家領主館の改修にも入ったので、村の子供達には見学などをさせていた。
という訳で俺の方は今度、クリスマスと正月の準備を始めた。
とりあえずザムザ隊を飛ばして『クリスマスツリーに相応しい木』を捜しに行かせたのだ。
巨大クリスマスツリーは、あちこちに置く予定なので大量に強奪しようというわけなのだ。
『見つけ次第、勝手に切り倒してこい』という非常識な命令をくれてあるのだが、まあ切ったその端からエリクサーであっという間にその場で植林してしまうので、おそらくは山の持ち主でも木が無くなった事には気がつくまい。
本当は泥棒だからいけないんだけど、もうクリスマスまであまり時間がないので俺が金を払って集めに行っている時間が惜しい。
ここは実利一本で、勝手に勇者権限を発揮した。
あと、小さな可愛いツリー用の木も大量に集めさせた。
そして俺はフォミオに頼んで、大小の飾りつけを作らせているところだ。
飾りのデザインはどんなのがあったかなと思って、うろ覚えなので王都の女の子達に頼んだ。
天辺に飾る星と色付きの玉とモールくらいは俺にもわかる。
あとサンタとトナカイもあったのかなあ。
師匠は正月飾りの方に熱中しているようだった。
〆縄なんか藁を使う部分には、稲藁の代わりにうちの村から持っていった麦藁も使い、結構上手に作っていた。
麦藁ではやや硬い感じがするんだけど、まあ稲が無いんだからしょうがない。
師匠は、夏時分にはお付きの彼女とお揃いの麦藁帽子も自作していたらしいし。
そしてサンタコスチュームも王都の店に発注した。
女の子達がミニスカサンタをやってくれるそうなので非常に楽しみだ。
もちろん着る本人達も楽しみにしているらしい。
サンタ筆頭は、もちろんフォミオなのだ。
あの体形は、まさにサンタをやるために生まれてきたといっても過言じゃない。
サンタにしては、ちょっと手足の長さのバランスが悪いのだが、そこは敢えて目を瞑ろう。
そしてフォミオには、その他に奴の力を必要とする重要な使命があったので、もう王都の王城へ送ってしまってある。
そう、女の子と一緒に精密なツリーの飾りを作りながら、ホイップクリームの開発をやらせているのだ。
間に合え、ホイップクリームよ。
クリスマスまでに。
そしてショウには飛空馬車を駆って、なんとか餅の代用品になる材料と『蕎麦』を捜させている。
鰹節抜きで今一つの代物なのだが、曲がりなりにも醤油の返しを使った蕎麦汁を師匠が完成したので、どうしても蕎麦を食いたいと姐御が駄々を捏ねた。
他の勇者連中もその尻馬に乗ったので、再び彼は商業ギルドや各地を必死で回っているところだ。
勇者御用達商人も大変なのだ。
こっちも年末までに間に合え。
師匠などはもう蕎麦打ち用の道具を全て揃えてしまっているし、勇者陽彩に是非とも食わせたいと、またもやお母さんのような女子力を発揮しているようだった。
その尻馬には勇者全員が全力で乗るぜ。
風の噂では王様も勇者の国の重要な食い物を楽しみにしているらしいし。
それもあってショウも、もう死に物狂いだ。
出来ませんなんて、もう絶対に言えない状態に追い込まれている。
まるで俺のいた会社のようだな。
ああ、年越し蕎麦は宗篤姉妹にも届けてこないといけない。
あれから連絡がないのだが一体どうしたかな。
ノームの時とは違い、今度は大精霊の居場所がはっきりとわかっているのだから、もう連絡があってもいい頃なのだが。
あの二人なら万が一にも死んでいる事はまずあるまい。
何かあったとしても、鉱石でスキルが強化された今のあの姉妹になら大概の魔王軍幹部は倒されてしまうだろう。
死んでも蘇る奇跡の霊薬エリクサーも存分に渡してあるのだし。
そしてショウの跡継ぎの見習い行商人達は、とりあえず二人で組んで辺境周りを研修中だ。
ついでに便宜を図ってもらうために、ビトーの冒険者ギルドに加入させてやった。
冒険者稼業を嫌がる二人はちょっと嫌そうな顔をしていたが、何かあった時には冒険者証があれば後ろ盾になるのでショウも賛成した。
彼にもそれを渡しておいたのだし。
ビトーの冒険者連中は連中がもたらしてくれる物産に大いに期待しているものらしくて、うちの商人達は歓迎されていた。
あと、おでんの具や白滝にするために、蒟蒻芋の捜索も依頼してある。
姐御や師匠は、まるで百科事典の絵のように、詳細な蕎麦の実や蒟蒻芋の図解をしてくれて、そいつをショウに持たせてあるのだ。
もちろん、稲もそれに含まれているが、今はまず何をおいても蕎麦らしい。
あの人達は多方面に渡って、何故あのような素人離れした芸当ができるのだろうな。
俺もニンニクくらいなら、なんとか見分けがつく絵に描けるのだが、あれはこの世界でもその辺で普通に売っているし。
という訳で、俺はクリスマスツリーの飾りつけに熱中している。
あと俺は万倍化した電子機器、スマホやタブレットにクリスマスツリーを表示したりしている。
おチビどもが弄りたがって仕方がないのだが。
ここでは通話やメールにネット検索などのメイン機能が無いので、カメラ・ビデオ機能やこういう表示機能しかないのだ。
まあゲームくらいは出来るのだが、忙しいからゲームなんかしている暇はねえ。
太陽光発電機能付きのハンディバッテリーを使ってスマホやタブレットは充電できるので、勇者達も部屋でそれ専用の、その手の電子機器でツリーを表示させている。
フォミオに作らせている、卓上に置けるミニツリーが完成したら、それも万倍化して配布する予定だ。




