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4-27 田舎暮らしのアルフェイム

「ああ、建築技術者の方がアルフェイム城にいますので、教会建設についての相談がてら、ついでにそちらへ行ってみませんか。

あそこのリフォームについての相談も伺いたいのですよ。


 昔の城ですから、そういう趣を残しておくのか、あるいはアルフ・アイクル家の別邸としてモダンに華やかに改装するのか。

 あそこも、今では勇者召喚を行った時に勇者を集めて説明するためだけのものに過ぎませんしね」


「そうか、それではそのようにするか」


「あの城は俺が使っていてもいいと王様からも言われてるのですが、ちゃんと手入れをしておかないといけないと。


 それにあまり趣のない物にしておいても、その時の王様や神官、それに召喚勇者が腰を抜かすといけない。

 どうせならルーテシアさんの名を冠した離宮のような物にしてもいいと思っているんですがねえ。


 まあ宮殿ではなくて城なわけですが、新領主体制になったので、そこに村の住人を集めて領主主催の行事なんかをやってもいいと思いまして」


「なるほど、ルーテシア城か。

 それもよいかもしれぬな。

 王都の公爵家から、このような何もないような辺境へ嫁いできたのだ。

 娘にそのくらいの慰めはあってもよい」


「じゃ、行きますかあ」


 俺の水素やヘリウムよりも軽そうな掛け声の元、さっそく俺達はマルータ号に乗り込み、あの城まで出かけていた。


 たったの八十キロなので一瞬にして辿り着いた城の庭には、一種の職人村が出来上がっていた。


 なんていうのかな。

 建築現場にあるようなプレハブの飯場のようなものではなく、簡易な住宅として使用できるキャンピング馬車を五個ほど趣のある感じに並べて、小さな村のような様相を帯びているプチコテージ村みたいになっているというか。


 まあ一口サイズに切ったバームクーヘンを扇の形に並べたような感じにね。

 こういう物は、へたにドイツ人みたいに縦横を規則正しく並べると、却って貧相な感じになる。


 あいつらドイツ人って海水浴場に置くサンベッドなんかまで、空から見てもきっちりと縦横共に真っ直ぐになっているくらい綺麗に並んでないと気が済まないからな。


 なんというかプレハブを並べたようにとか、コンテナを並べてみたとか、そういう感じだろうか。


 あれはちょっとなあ。

 せっかくの木材使用の建物みたいな感じなのに趣が無くなる。


 俺は空いた場所へマルータ号を着陸させてアルフェイム城に降り立った。


 ここは門から侵入してきた敵を迎え撃ったり、兵士の閲兵を行なったりする空間なので、これくらいの空間は余裕であるのだ。


「やあジェイコフ技師、お久しぶりです」


 俺達が空からやってくるのを見たらしく、少し気の良さそうな感じの、焦げ茶の髪と沈んだ碧みの青色をした瞳の三十代後半の技士長が、城から出てきて出迎えて声をかけてくれる。


「おや、カズホさん。今お帰りですか」


 そして、彼は俺と一緒にやってきた王都の身分の高い方々にも恭しく礼をした。


「やあ、ベルモント男爵。

 あなたが担当されていたのですか、それは非常に心強い」


「あれ、公爵。

 彼を知っているのですか」


「はは、知っているも何も、彼は王都では高名な建築技師兼デザイナーでね。

 うちのパレスもベルモント男爵家の設計により建てられたものだよ。

 前回の改修も、当代の彼が担当してくれて、さらに素晴らしさに磨きがかかったよ」


「お久しぶりです、ゴッドフリート公爵閣下。

 パレスの具合はいかがでありましょうか」


「ああ、快適そのものだ。

 あれぞ、まさに匠の技よ。

 今回は娘の住む家を担当してくれたそうだね。

 そして、実はこの村に教会を建てたいのだ。


 ここも今度アイクル子爵領となるので、さすがに教会の一つもなくてはという話になってな。

 王都の方面から神父を引っ張ってきたいので、それなりのものを建てたい」


「そうでありましたか。

 それでありますれば、最新の少しモダンな物にしてみますか。

 領主館はここの土地柄に合わせて高級ロッジ風にしてみましたので、権威を重んじる教会は少し派手というか荘厳なくらいでいいかと思います。


 求心力を要求される教会があまり地味だと、地方では却ってみすぼらしいとか思われるケースがあるようですしねえ。

 とはいえ、教会は神に纏わる施設という事もあり、あまり妙なものにしてもという意見もあります。


 その辺りはまた難しいところなのですが、ここは元々教会がなかった地区なので、多少派手でもいいんじゃないかと思いまして。

 というか地味な感じに作ってしまうと嫌がられて、王都から神父様を呼べない可能性があるのでは」


 あ、いいところを突いているな。

 その懸念があるんだよ。


 誰だって、こんなド田舎なんかに来るのは嫌なのだ。

 何にもないものな。


 それを聞いた、神父誘致を勘案しているアイクル侯爵家の前当主様も唸った。


「そ、それは大いに有り得るな。

 カズホ君、君はどう思うね」


「ベルモント男爵に一票。

 なんというか、勇者の国の首都は東京といって世界に名にし負うような凄い大都会でして。


 今回の勇者は、名古屋という勇者の国で三番目くらいの大きな街から来たのですが、そこは大きい割に全国から『大いなる田舎』などと揶揄した感じに呼ばれているくらいの地味な田舎街なので、俺達はこの辺境でも別にそう構いませんがねえ。

 もし首都に住む東京人がいきなりここへ来たら、田舎過ぎてまずアカンでしょうなあ。


 それが王都からやって来る神父さんなのだったら、教会の支度なんかはちゃんと豪勢にしてやっておいた方がいいと思いますよ」


「そ、そうだったか。

 まあ君はここに普通に馴染んでいるようだがね。

 呼ぶのは、あの教会関係者の人間なのだからなあ」


 うーん、そいつはまた微妙なニュアンスだな。

 やっぱり教会ってそういう感じのところなのか。


 赴任してくる神父には何も期待できそうにないな。

 まあいてくれれば、それだけでいいだろう。


 ここの田舎暮らしにすぐ馴染んでくれる人ならいいんだけれども。


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