4-24 勇者の御飯
そして、夜にはおチビさん達も新しいお母さんと一緒に寝たがったようだが、俺と泉で俺達の泊まる広い客間の一つに拉致しておいた。
新しいお母さんがずっと欲しかったんだから、そうしたいのは無理もないのだが、今日だけは駄目よ~。
ママの方は八年もの間お預けだったのだからな。
本来なら新婚旅行へ送り出してもよかったのだが、こちらにはそういう習慣がないようだし、親達が屋敷の内覧に来るのもあって無しにしておいた。
お嬢様方や。
新婚の両親のお邪魔をすると、可愛い妹や弟の顔がなかなか拝めません事よ。
今晩は俺と泉でベッドの上で挟んで、日本のお話などをしながらチビ達が寝るまで過ごし、ラストはフォミオがそのまま必殺の子守歌で寝かしつけた。
今日は俺達も、そのまま子供達の寝顔を拝見しながら寝る事にしたのだ。
たまには、こういうのもいい。
いつかは本当の自分の子供達と一緒にこうしよう。
早めに寝たので、翌朝は早めに起き上がって、俺と泉で日本式の食事の支度をする事にした。
サラダには和風ドレッシングをチョイス、単に俺の好みなだけだが、こいつがスーパーでも一番売れ行きがいいんだよね。
この手の物の作成は女子会が大きく貢献してくれている。
勇者式のスープは、王都でそっちの方面を開発販売している勇者謹製の代物で、本日はオニオンコンソメにこちらで採れる香草を添えてある物だった。
勇者達が狩って集めてきた鳥を日本式に飼育して、よく卵を産むようにした鶏の卵で作ったオムレツは、フォミオがスキルで作り上げたスペシャルチーズと、これまた勇者が死に物狂いで集めてきたオムレツにピッタリのキノコだ。
よく外国のホテルで料理人が実演しながら作ってくれている物なんかに入っている奴だな。
あれも少し乾いたような感じの食材だが、おそらくマッシュルームではないかと思うのだが。
そして、我が勇者式の特注竈でフォミオが焼いてくれた香ばしい焼き立てパン。
これは師匠がさりげなく集めてくれた各種の高級小麦をフォミオの調合のスキルでブレンドし、調合のスキルでイースト発酵した最強のパンなのだ。
こんな物は、まず並みの人間には作れまい。
とてもじゃないが、焼き締めパンが好物の魔物が作ったなんて誰も信じないだろう。
侯爵家のお坊ちゃん達は朝から齧り付きで、その一部始終を見学なさっており、うちのおチビさん方もそれに付き合っていた。
あの二人は、生まれてこの方焼き締めパン暮らしが長かったので、このパンが作られていく過程が楽しくて仕方がないらしい。
フォミオのスキルは例の鉱石のお蔭で凄まじく上昇しており、ニール並みに激しく強化されているようだ。
魔王の眷属の強力さをみるにつけ、もしかしたらハズレ勇者はネームドモンスターをかなり強化する事ができ、その配下はこの手のアイテムにも強く反応するのかもしれない。
これは魔王の奴も欲しがるはずだわ。
俺が横取りしてやったけどな。
あの鉱石は少なくとも、我が家の朝御飯の質には大きく貢献してくれている。
「二人とも悪いな」
「おや、おはよう。
今朝は勇者式の朝飯だぜ」
「今度は朝御飯を和食メニューにしようよ。
大根が手に入ったから、大根おろしもメニューに追加よー」
「畜生、サンマの季節はこっちでも終わりかなあ。
大根おろしがあるんなら、是非あれを食いたいなあ」
「どうせなら脂の乗った奴を食べたいよね」
「季節的にはもう冬に突入していくが、強引にまだまだ秋であると主張しても間に合う季節かもな」
この世界の海に関しては、あまり知識がない。
うっかり海面付近でホバーリングなんかしていると、でかい海竜の襲撃を受けるくらいの事しか知らない。
とりあえず、火薬を用いてダイナマイト漁のような真似をするというのなら俺には可能なのだが、あれはさすがになあ。
うちで猟師をやらせるのなら、やはり水龍のゲンダスの出番だろう。
かなり水を自在に操れるみたいだし。
漁船も作ってみるか。
木材ならば、いくらでも巨木がエリクサーで何度でも生えてくるし。
漁とは全然関係ない、山車の船なんかは作ってしまったのだが。
あと、『お正月料理』のための漁もしたいのだ。
クリスマスと正月の御馳走も、近所にスーパーとかはないので、すべて自力で入手しないといけないから困ったものだ。
「あ、そうそう。
和食ならこんなの作ったよ」
「へえ。あら、確かに」
それは油揚げと湯葉と角麩だった。
油揚げは豆腐を薄く切って油で揚げたものだし、湯葉は豆乳から作れた。
角麩は小麦粉のグルテンを加工したもので、今一つ具合がよくわからなくてフォミオに大量に試作してもらったものだ。
俺が殆ど食った事がないので今一つよくわからないから、フォミオも苦労していた。
角麩は、まあ他の勇者で好物の奴とかいるかもしれないので、一応作っただけという。
麩のお菓子も作ってみたが、不思議な食感と独特の風味に評判は別れたね。
鯉の餌も作れそうだ。
どこかの川で探してきて庭で鯉でも飼うかな。
鯉科の魚なんかはこの世界にもいくらでもいそうなのだが、あの派手な模様の錦鯉って、どうやって作ったんだろうか。
もしあれが作れたら、貴族の間で日本式の庭園で錦鯉の飼育が流行るかもしれない。
とりあえず、鯉は食用を見込んでいる。
鯉科の魚は多いはずなので、中には凄く美味しい奴もいるかもしれない。
「あと、酢はあれこれと作らせてみたけど、味醂はまだだな。
あれは原料の一つである焼酎がないとな」
忘れちゃいけない芥子酢味噌も一応は用意してあるのだ。
世の中には、これがなくっちゃ絶対にダメだろうっていう食い物もあるからなあ。
無論、勇者連中は各自でオリジナルのマヨネーズを作っており、俺は各勇者の名前入りマヨネーズを所有している。
「味醂干しもいいよねえ」
「結局、日本の飯となると海産物がないと話にならんな。
ああ、スルメなんかも正月用品であったな」
「数の子!」
「蒲鉾もあったな」
「鰹節がないと出汁巻卵一つまともに作れん」
「今年は卵焼きにしようよ」
「卵なら万倍化した奴が大量にあるぜ」
「いいねえ」
だがそれを聞いていたカイザ夫妻がなんともいえないような顔で笑っていた。
「まったく勇者という奴は本当に食道楽だな。
昔の記録通りだ」
「ああ、日本人は世界一食い物に拘るからなあ。
お蔭で日本には世界中から観光客が来てくれるよ。
カイザ、この領地も勇者式にそっち方面を目指すのはどうだい。
隣の国からも客を呼ぼうぜ」
「はは、それもいいな。
隣国と街道を開いて貿易が出来たら、ここも栄えるだろうな」
「宿場町も作って金を落とさせようぜ。
いっそ航空運輸会社も作るか」
カイザ子爵の帰郷二日目にして、壮大な領地開発計画が勘案される朝食なのであった。




