4-23 内覧イコール入居です
そして唐突に始まった、領主としてカイザを迎える楽し気な祭りも終わりを告げ、お客人御一行は『領主館』を目指した。
そこまでの道は御祭りに相応しく、街灯ならぬ雪洞のようにも見える魔導具を布置したその前で、法被を着たザムザ達がズラリと並んで警備していた。
これがまた案外と似合っていて笑えるのだ。
量販電器店の店先で客寄せにおいておいてもいいくらいだ。
寡黙過ぎて、店員はちょっと務まらないだろうが。
これも勇者の誰かが日本を偲んで作らせた魔石灯なのだろうか。
今度石灯篭を作らせてみようか。
魔法金属の工具やヤスリなんかがあるのでフォミオなら可能かもしれない。
石灯篭さえ完成すれば、中に出来合いの魔石灯でも入れてやるだけで、あっという間に魔石灯篭が完成する。
そして同じく幻想的な灯りで照らされる新屋敷は、まるで木造りの高級別荘であるかのようだ。
さすがに昔の純和風日本邸宅のようではないのだが。
あれはまた違う技術で作られているので、なかなか再現するのは難しい。
玄関口の道筋は俺とフォミオで整えて、少しばかり日本風の佇まいにしてある。
街中の高級住宅とは異なり、真っ直ぐではなく、あえて少し曲線を描いた小道を和風の舗装石畳で整え、その両脇をじゃり道にした、なんとなく日本を思わせる形だ。
日本のデザイナーの中にはログハウスと合わせる場合にも、こうした和風テイストを玄関口に合わせたりモダン形式と合わせたりする人もいる。
俺は個人的な好みでこうしてみたのだが、住人であるカイザやルーテシアが気に入らなければ、また変えるつもりだ。
建物本体の基本構造ではなく、ただの外回りだけだから変更もそう手間ではない。
施行も自分達でやったものなので、リテイクやリフォームなども比較的簡単だ。
それにうちはマルータ号などで、どうしてもというのなら王都の業者を日帰りで呼ぶことさえも可能なのだ。
うちは、ただの辺境村ではない。
勇者の技術も併せ持つ勇者村でもあるのだからな。
ハズレ勇者ながら、この俺がアルフェイムに新たな伝説の数々を植え付けてくれるとしよう。
「ほお、こうして夜に見てみると、また趣があるものだな」
「この外観は、夜はまた夜の趣というものを表に出すようにしてあるのですよ。
昼は明るい外装と相まって高級別荘のような佇まい、夜は幻想さえ伴うような貌に演出をと思って」
こういうのはライティングが肝というか、ライティングによる効果を考えて元のデザインがなされているものだ。
「ええ、なかなか悪くない物ですわ」
王都の豪奢なパレスに住まう王族の公爵夫妻からも合格をいただけたぜ。
俺の要望や提案などを王国最高の建築技師達が実現してくれたもので、日本でもなかなかこうはいかないだろう。
さすがは王都でも一級の建築技師達だ。
元々、ここにはなかった発想を、注文通り見事なまでに実現してくれている。
まあ中も快適に作られているのさ。
今までと比べると格式が高くなって子供達が窮屈に感じるかもしれないが、すぐに慣れるはずだ。
どうせ村の子達も遊びに来るんだし、あのカイザの実家のように子供達が走り回る事だろう。
他と違って、ここは新興の子爵領だから住人との距離は近しい。
というか、子爵閣下本人が元々は住人の一人なのだ。
ここの子供達が今まで通り腕白したかったら、子供から見て素晴らしく魅力的な、小屋っぽい感じの離れが二つもあるんだからな。
あと素敵な天然の別荘、アルフの森もあるのだから問題ない。
あれこれと使える、お楽しみで使える小屋を建ててみてもいいかな。
いわば森の公民館みたいなものだ。
どっちかというと子供の家という感じか。
カイザの両親も感心しながら眺めている。
「これはいい感じですね。
家に入ってからすぐ広い吹き抜けの空間があって窮屈な感じがしない。
お客様に圧迫感を与えない、いい作りだ」
「ええ、このエントランス的な空間は日本の別荘なんかを参考にしています。
そこからすぐ応接間へと向かうようになっていまして、お客様を待たせずにご案内できます。
ここは日当たりがよく、まるでサンテラスのような感じです。
部屋の温度は魔道具でも調節が可能ですし。
ホールのすぐ横にトイレと手洗いを用意してありますので安心ですね」
公爵は特に神経質な人ではないが、それなりに几帳面な性格らしくトイレを開けてその作りを確認していた。
「ほお、これはなかなか」
トイレは家の風格を現わす物なので、このお客様用トイレはとにかく広く美しく作られている。
高級な外国のスイートなどにある、まるで小さな部屋一つ分あるようなトイレばりの広さなのだ。
これが下品な三流のカジノホテルあたりが変な作りにすると、単に広いだけの味気ない空間に趣のないトイレが隅におかれているだけという碌でもない殺風景な代物になるが、これはそうではない。
温かみのある別荘的な木の壁にタペストリーや絵画、穏やかなそれでいて洗練されたスタイルの洋便器が置かれ、洗練された手洗い台が置かれている。
日本人なら、この異世界においても一目見て微笑んでくれるような、快適で心に落ち着きを与えてくれる素晴らしいトイレなのだ。
この手の物は、この世界もそれなりの製品があるのでシャーリーに頼んで紹介してもらったものだ。
ここは俺をして、かなり奢って力を入れた空間なのだ。
日本の俺の重要なクライアントを、ここにお迎えしても決して恥じる事など何もあるまい。
カイザの両親も感心したように逸品のトイレを眺めていた。
「勇者様はトイレには凄く拘る方が多いそうで、今回もシャワートイレとかいう魔道具を早々に開発させたそうですね」
まさにこれがそうなのだ。
泉の部屋にもこいつが据え付けられていた。
これは出来合いで置かれていたのだが、王族などが使う予定の高級仕様で、金に糸目をつけない代物なのだ。
おそらくこの手の製品はミシン同様にドワーフの手になる物なのだと思うのだが、へたをすると、もしかしたらこれもまた姐御がやらせているのかもしれないな。
それから広めの廊下を奥へ入って広いリビングに向かう。
扉もまた立派な貴族のお屋敷で使われる、素晴らしい意匠が施されている物だ。
そこにある調度も王都で厳選して仕入れたものだ。
なんというか、山の手にある家によく合った別荘で使うにふさわしいものだ。
都からのお客人などがあっても、辺境には辺境の趣があると感じてもらえるように。
そして、その扉の奥にはキッチンとダイニングが広がっている。
キッチンといっても、保養所クラスの業務用厨房ほどの広さを誇り、ちょっとした宴席には使えるくらいの広さを保っている。
最初に想定した広さを相当オーバーしてしまったが、子爵家ならばこれくらいでないとマズイと思って変更したものだ。
これで今回賜ったのが男爵位であるなら、もう少しこぢんまりとしていてもいいし、そう内装も拘る事もないのだが。
ここが発展すれば、東方面の第二辺境伯に格上げされる事もあるかもしれない。
もしかしたら王様もそういう事も考えて子爵位を与えてくれたかもしれないので、あまり失望させるような佇まいにはしたくない。
そのために特別に技術者も送ってくれたのだろうから。
「よろしかったら両御夫妻もあれこれを確認して、手直しすべきところがあれば指摘してほしいのですよ。
そのためにまだ技術者の方には村にいてもらってありますので」
「わかった、そうするとしよう」




