4-20 ウエルカム、王都の皆さん
「いやあ、こりゃあまた、なかなかの出来だなー。
なんだか神輿も少し進化してない?」
フォミオは王都にいたから、他に神輿なんて弄るような人間はいないはずなのだが。
きっと師匠自ら手を入れたんだな。
おそらくは建築技師あたりに手伝わせたんだろう。
もう師匠ったら無茶をしやがって。
なんて拘りようなんだよ。
「ああ、だが坪根濔の方も凄いぞ」
「え!」
そういや姐御は今どこに?
あの方は、もう一つの山車の方を担当していたのではないのだろうか。
そして村の幹線道路の方で歓声が響いていた。
なんだ?
「ああっ、あれは」
どこかで見たような真っ赤な船型の派手派手な山車を、この寒いのに村の若者達が褌を締めて元気に引いていた。
黄色や青などの派手な原色のような色が、モザイクのように並んで目立ちまくっている帆が一際目を奪う。
これは日本人ならばどこかの書物やテレビ・ネットで一度くらいは拝んだ事があるだろうアレだ。
その船上の部分、しかも船首に当たる場所の『お立ち台』で姐御が、派手な昔のバブル時代に名古屋のディスコで使われていたようなド派手なふさふさ扇子を振りかざして踊っていた。
しかも真っ赤なボディコン……。
そういう物は自分で作ったのかね。
あるいは王都の一流店でのオーダーメイドなのか。
姐御、あんたは一体いつの時代の人なんだい。
いくらなんでも、それが現役だった時代に若者だったほどには歳を食っていないよな。
確か俺よりも一つ上で、カイザと一つ違うか違わないかくらいの歳のはずなのだが。
バブル期の名古屋のディスコでは伝説だったティーバック・スタイルで踊っていないだけ、まだマシなのだろうか。
なんてこった。
俺が王都に行っている間に何が起こったというのだ。
若者達はなんか歌まで歌っているし。
なんていうかね、祭りで爆竹を鳴らしながら歌うような感じの、あのまるで何かの詠唱のようなあれだ。
しかも、本当に爆竹を鳴らして。
な!
まさか、そいつは俺が作ったアレか。
誰だ、勝手にうちから爆竹を持ち出した奴は。
あれは一応作ってみたものの、火薬技術の流出を恐れて門外不出にしておいたはずなのだが。
ちょっと留守にしておいたら、何かもう訳がわからない事になっている。
「師匠、どうなっているんだい、これは」
「何を言う。
新領主を迎えるに当たって、派手に祭りをして歓迎したいと言ったのはお前ではないか。
その予行演習をやっていたのだ」
「いや、それは確かに言いましたけどね。
なんだかカオスだ」
異世界へ召喚された名古屋人が祭りを主催して、外国人にも有名で人気のある、岐阜高山祭りと長崎くんちが同居している段階で既にな。
有名な龍踊がいないだけ、まだマシだったろうか。
いやいっその事、あれも用意しておいたら面白かったのかもしれん。
あるいはニールをドラゴンに戻して代用してもいいかもな。
そこらへんのチョイスは、あの勇者陽彩が選んだのだから仕方がないが、それにしても。
まあ最終的に奴に選ばせたのも俺だしなあ。
確かに愛知県には、近所の県である岐阜出身の人もいっぱいいるし、九州から働きに来ている人が凄く多いのも紛れもない事実なのだが。
しかも山車を引いているのは現地異世界にある辺境在住の村人で、それをいきなり見せられて驚愕しているのが、同じく異世界の王国の王都からやってきた名門侯爵家と公爵家の人間なのだが。
うーむ、その褌だけは無しにしてほしかったなあ。
カルチャーショックで、王都から来た客が、皆固まってしまっているではないか。
そして、足の長い外人さんに日本風の褌はちょっと似合わない。
まあ、それをわざわざ好き好んで作らせたのは俺なのだが、あくまで俺のお楽しみのネタ枠だったので、こういうシーンで御披露するのは避けたかったぜ。
師匠も決して足は短くはないのだが、がっしりとしていて妙に褌がよく似合う。
師匠なら、あの森に出た熊魔物などは、スキル抜きで素手でぶん投げられるのではないだろうか。
「あら、一穂。
お帰りなさい」
「お帰りじゃねえよ。
姐御ってば何をやっているんだよ」
「お祭りの練習に決まっているじゃないの。
あらまあ、知らない方々がたくさん」
「カイザとその嫁さんの両実家の人達だよ!
これはいきなり本番になっちまったかな。
しかし、この内容は無しにしてほしかったぜ~。
カイザや花嫁の両親が仰天しまくっているじゃないか」
「まあまあ。
これなら新御領主様をお迎えするにあたり、何ら不足はないでしょ」
「まあ不足はないけどね。
俺の小屋から爆竹なんか勝手に持ち出した人、誰よ」
「泉ちゃんよ。
作ったって言っていたから、あたしが頼んだの。
いいけど、こいつを祭り以外の何に使うつもりなの?」
「いや、そう言われてみれば確かにそうなんだけどさ」
そいつは王都の偉い人の前で見せちゃ駄目な奴なんだってばさ。
しまった。
フォミオに大量に作らせておいた爆竹を収納に入れておくのを、うっかりと忘れていたぜ。
泉にも絶対出すなって言っておけばよかったな。
まあ祭りが始まってしまっていたなら仕方がない。
「カイザ、これ」
「なんだ、これは」
「法被だよ。
ほら親達の分も、はい」
「はいって、お前」
だが、親達は物珍しそうに渡されたそれを広げて、裏から表から矯めつ眇めつ眺めていた。
「カイザ、これをどうするの?」
「いやどうするのと言われてもなあ。
どうするのだ?」
「こうしろよ」
俺はそれを着込んで、子供達にも着せてやったが、カイザのところの子はお姫様ドレスの上からだとやっぱり変だ。
侯爵家の男の子の方はまだマシだな。
村の子達の方がやはり似合う感じだろうか。
むしろ冒険者が好んで着る革の服の上から羽織る方がマシかもしれない。
だが彼らは着てみる事にしたらしい。
うーむ。
やはりこの世界の貴族の服装と法被はコーディネートとして合わんのう。




