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4-19 アルフェイム領主館

 かくして王都にてカイザの結婚式は無事に終了し、案の定、俺と陽彩のスピーチの出番が無かった。


「お時間ですから」と係の者から遮られて、参列した皆から惜しまれながら残念そうに話を終了した艶々なゲイルと対照的に、ただでさえ影の薄い勇者である陽彩は貴重な露出の機会を奪われて背中を丸め加減に黄昏れていたが、皆からまあまあと慰められていた。


 そしてカイザ夫妻はアルフ村へと直に帰還する事となった。


「あれ、新婚旅行とかしないんだ」


「勇者の国の風習か?

 特にそういう、結婚したからといって旅行に出かけるような風習はないのだが」


「そうだったか。

 我が家には、せっかく他にはないような、どこにでも行ける高速交通機関があったのだがな。

 まあいいや」


 新居の具合も確かめてもらわないといかんのも確かだし。

 ついでに教会建設の目途も今のうちに立ててもらわないとな。


 あと、村の子供達もそろそろ回収していかないといかんなあ。

 ずっと、こちらへいずっぱりだし。


「よかったらショウ達もカイザの新邸の内覧をしていってくれ。

 部外者からの忌憚ない意見を聞きたいところなんだ。

 まだ手直しが要ると思うんだよなあ」


「わあ、凄いお屋敷なんだろうなあ。

 楽しみです」


「是非、後学のために」


 豪華さを期待しているらしいルイーズは、あの丸太を取材とした建物を見たらがっかりするかもなあ。


 だが、あれも貴族王族の高級な別荘仕立てなので、今までのただの丸太小屋とは違うのだ。

 向学心に溢れるサムスンはどう思うだろうか。


 辺境ではそれっぽい雰囲気の物の方が補修なども楽だし、また趣もあると俺個人としては高い評価をつけている物なのだが。


 特に真新しい超大型別荘風の建物はうっとりするほど素敵なものだ。

 日本で買ったら、多分別荘サイトの高額順の並びで常に一番上に表示されるものに分類されるだろう。


 風情の無いようなコンクリート製の建物なんかよりも、却って高くつくんじゃないのかね。


 特に年月を重ねると、コンクリートの建物は鼠色に煤けていくが、木製の高級住宅は手入れ次第では、渋みと深みを称えて輝きを増す事もある。


 そして村へ行く人間をかき集めていったのだが、なんと新郎新婦の御両親も見に来るという。


「あれ、親族の皆様が今から来られますので?

 まだ碌に何もないような村なのですが、よろしいのですか?」


 だがカイザの両親は張り切って答える。


「ええ、だからこそ視察に行きたいのです」


「ないならないで、相応に支度しないといけないかもしれぬしな」


 ゴッドフリート公爵も慈愛の籠った笑顔で頷いてそう言った。


 長年心を痛めていた案件がようやく片付いたので、心もフットワークも軽くなっているのかもしれない。

 普段なら、王都の公爵様がこうも軽々しく辺境へと向かったりはしないはずなのだ。


「愛娘の嫁入り先なのだからな、どんな具合か見ておきたい。

 カイザも子爵位を受けられたので、家柄的にはそう問題はないのだが、何しろ伝説の地と呼ばれるほどの辺境なのだからな」


 ああ、それは言えるな。

 何しろ、焼き締めパン村などと呼ばれ、商店の一つ、宿屋すらもないのだからなあ。


 俺は村の情景を思い浮かべ、真っ先に印象に残る物は、畑と青い空とそこに漂う白い雲という牧歌的な風景であった。


 なだらかな丘に向かう一本の微妙な形で登っていく道、そのような、まるで切り取った一枚の絵画のように感じてしまうほどの、思わず心がぽかっとするようなのどかさ。


 そのうちに村で子供主体の写生大会でもやるかな。

 それらの力作は、ビトーみたいに『領主館』にて飾るとするか。


「じゃあ、いらしてください。

 あの村でないと無いような物もあるのですよ。

 まあどれもこれも勇者世界の物を再現したようなものですがね」


「ほお、それはまた楽しみだなあ」


「うむ、拝見させていただこうか」


 そして両家の使用人も合わせて、かなりの人数になってしまった一行を乗せて、マルータ号は一路王都の空を駆けた。


 当然、弟一家も来ているので、カイザの甥二人も一緒に来ている。

 今日は最近にはないほどの満員電車状態だ。


「うわあ、凄いや」

「空を飛ぶ乗物かあ」


 アイクル侯爵家の子供達は大喜びだ。

 ルーテシア嬢もその窓から見下ろす光景にもう夢中だった。


「まあこれも魔人の能力で飛ばせているだけのインチキな物だけどね。

 勇者の国には本物の空を飛ぶ乗物があるよ。

 最近じゃあ馬のついていない馬車に、わざわざ翼を生やして空を飛ばすへんてこな乗り物まであるけど」


「わあ、凄い。

 そんな物があるなら見てみたいなあ」


「あいにくと、そいつの画像は手持ちにないなあ」


 今度そいつを作らせてみるかな。

 馬車の車体から内蔵式の翼が出て飛べる、地球式の空飛ぶ自動車のような物を。


 格好だけで内部にギミックとしての複雑な機構を組み込むのでなければフォミオにも作れるかもしれない。

 まあ本当に格好だけで、実際にはザムザが飛ばす事になるのだが。


 スポーツカーっぽい感じのエアカーとかを作っても面白いよな。

 あれなら、ほぼマルータ号のノウハウで可能だ。


 物自体は、きちんと説明して王都のコーチビルダーに特注すればいいのだし。


 コーチビルダーといえば、そろそろ飛空バスが出来た頃じゃないんだろうか。

 また見に行ってこようっと。


 そして到着した発着場から見られた物は、明るめの素材を選択したログハウス調の鮮やかな木肌を晒した立派な大邸宅と、その前に聳え立つ高山の巨大な山車と高山神輿の勇壮なセットであった。


 そして何故か褌一丁で鋼のようながっちりとした肉体を晒し、満足そうに仁王立ちする師匠が俺達一行を振り返って言った。


「おう帰ったか、一穂。

 見ろ、これが高山祭りだ」


 いや、別に高山祭りをやるのでなくて、カイザの新領主就任を祝う祭りをやりたいのだが。


 それにしてもこの男、なんて凄い体をしていやがるんだ。

 フランコやパウルとは方向性は違うが、何かこう全身の筋肉も皮膚も研ぎ澄まされていて、これが本当に五十歳近いような男の肉体なのだろうか。


 異世界へ来たので、スキル『無敵のヘラクレス』の勇者補正がかかっていない?


 いや、違う。

 きっと日頃の鍛え方が違うだけなんだな。

 どんな人生を生きてきたんだよ、この人は。


 まあいいや、なかなか立派な体裁は整ったようなのだし。


 グッドタイミングだぜ。

 さすがは師匠だな。


 そして王都から来た新郎新婦並びにその両親達は、口をあんぐりと開けて、その異世界におけるお祭り必須のアイテムを見つめていた。


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