4-12 王都招集のお知らせ(ドッキリ)
そして御土産という事で高山ラーメンの麺や、各種の試作スープを鍋ごといただいてしまったので、俺も食べ方を研究してみる事にした。
何しろ、うちには元になった醤油などを開発した専門家がいらっしゃるのだから。
もっとも彼は、ラーメンスープを元にして新焼き締めパンスープに応用で使えないものか、そちらの方に興味がいっているようなのであるが。
子供達は大満足だったようで、師匠の事はラーメン屋のおじちゃんという認識を持ったようだ。
そして親がなかなか子供をかまえない状態であったので、チビ達はこっちでそのまま預かって一緒に遊んだり祭りの支度をしたりしていたのだが、ついにカイザから連絡があった。
「そういう訳で式は三日後になる。
それで一つ頼みたいんだが、父が『お前も王から領地をいただき、新貴族家の当主となるのだ。領民の代表にも誰か一人くらい結婚式に出てもらえ』などと、いきなり言い出してな。
村長も体の具合は良くなったようだが、あの歳で国王も出席される式に出させるのは忍びない。
という訳で、支度もあるので今日中にあいつを連れてきてくれんか。
お前も村の住人の一人なんだが、お前は元々の村民じゃなくて別枠の勇者参加者だからなあ」
「ぶわはははは。
そいつは、さすがにあの人も嫌がるんじゃないのか、あっはっは」
「いやいや、領都の次期首長になる男なのだから、ここは彼に頑張ってもらおう。
彼を差し置いて、他に誰が来てくれるというのだ。
村の皆は彼が出席するのが当然と言うだろうし、彼の父もきっとそう言うさ」
「まあそうかもなあ」
という訳で、おチビ達と一緒に彼をハントしに行く事にした。
というか、単に村長の家に行くだけだ。
大方、今頃は父に代わり村の帳簿でも付けているのだろう。
その仕事は春先に終わらせればいいようなものなので、そう急ぐ仕事でもないのだが、彼は几帳面な性格なので仕事は早出しにするタイプなのだ。
それが今回も見事に役に立つ予定だった。
案の定、彼は家にいたのである。
ほぼ予定通りの行動しかしない人物というものが非常に助かるのは営業時代からも変わりはない。
風の大精霊フウも少しはこのゲイルを見習ってほしいもんだ。
あの姉妹は、あの独裁者の国に無事に辿り着けただろうか。
SSSランクの身分証は持たせておいたので、入国なんかも大丈夫だとは思うのだが。
「やあ、ゲイル。
元気してますか」
別に村にいればしょっちゅう顔を合わせるのに、突然訪問した俺がそのような挨拶をしてきたので彼は不思議そうに訊き返してきた。
「いや、わしは親父殿とは違ってまだまだ元気だが、それがどうかしたのかね」
だってさ、王都なんて生まれてこの方行った事がないだろうに、いきなり連れていかれて王様の出る結婚式に領民代表として参加して、偉い人達の前で御挨拶をさせられるんだぜ。
調子がよくて元気じゃなかったら困るじゃないか。
「まあまあ、ちょっとカイザが呼んでいるから王都まで一緒に行ってほしいんだ」
「わしが? 王都に?
カイザが一体何の用で王都まで来いと言うんだろうなあ。
まあ別に構わないが。
一生に一度くらい、王都見物をしてもいいかな」
暢気だなあ、この人も。
カイザは結婚式を挙げるんだぞ。
いきなり子爵様に叙爵されて、領地として元は王家預かりの特別な地であるアルフェイムを授けられるんだから。
まあこのような辺境の、そのまた更に奥地にある最果ての一介の焼き締めパン村の村長代理としては、特に自分なんかには関係ないとか思っても当然なんだろうが、領主様からの召集令状が来ているのだから頑張ってくださいな。
俺も一緒にいるんだし大丈夫さ。
しかもアイクル家では、何故か向こうにいる村の子供達も皆出席させる意向らしい。
子供九人にハズレ勇者一人に加えて、当の御領主御本人様までが長らく村の住人なんだからな。
村長代理が出席しないでどうするという話なのだ。
「じゃあ今からでもいいかな。
支度は向こうの家で何でも揃うと思うから身一つで来てくれってさ。
何かいるのなら俺もあれこれ持っているし」
「そうか、じゃあすぐに行くとしようかね。
お陰様で父も体の方は具合もいいので、声だけかけていけば問題はないだろう」
「そうか、じゃあ行こう」
ヤバイ行事なのがバレないうちに連れていかないと、気付かれたらいろいろと面倒だからな。
だが、俺達を見送るかのように村長さんがふらっと現れた。
「話は聞こえていたよ。
カズホ君、うちの息子をよろしくな」
ああ、村長さんはわかっているんだね。
心なしか、いつもよりも若干楽しそうだ。
可愛い子には旅をさせよといった感じなのかねえ。
子というか、もう十分おじさんなんだけど。
「お任せください。
この勇者カズホに全てお任せあれ」
「うん、頼んだよ。
じゃあ息子よ、楽しんでおいで」
これは、御領主様の一大行事への参加をという意味合いなのだろう。
さすがだなあ、村長さんは。
一方、出かける本人のゲイルと来た日には。
「ああ、王都見物を楽しんでくるよ」と、こう来たもんだ。
俺と村長は心を一つにして笑い合った。
「まあしばらく家の事はいいから、たまにはゆっくりしておいで」
「ああ、そうするよ。
じゃあ、いってきます」
まあ『ゆっくり』にはなるのだろうなあ。
どうせ式が終わるまで帰れないのだろうし。
俺もそれまでは傍に一緒にいてあげるとしよう。
主に俺のお楽しみのために。




