4-3 祭りといえば
「はあ、カイザ殿が再婚を。
そうか、それはよかった。
これであの子達も寂しくないだろう。
そうだ、村でも何かお祝いをしてあげなくてはな」
村長代行のゲイルもそう言ってくれている。
村長も俺が体は癒したので調子はいいようだが、もういい歳なので、そっちの仕事は息子に任せたいようだ。
「では、御祝いの祭りにしませんか。
結婚式を村で祭りのようにして祝う風習なんか特に珍しくないのだし。
支度はほぼ、うちでやりますよ」
「そうか、そいつは悪くないものだ。
皆、冬支度も忙しい時期だし、じゃあそっちの準備は任せたよ。
祭りをやる事は村の主だった者には知らせておこう」
「では、そちらはお願いします」
というわけで祭りの準備だ。
結婚式なので、衣装は派手な方がいい。
派手と言えば、王都ヨークだ。
あそこの店であれこれと物色してきた物を参考までに村の衆に見せて、祭りの時に村の衆で着る衣装の検討を始めた。
「こいつはまた色合いが派手だな。
王都じゃ、こんな格好ばかりするのかね」
そう言って村の若衆の頭みたいな、俺よりも五歳くらい年上の感じのローニーがそいつを手に取り、微妙そうに首を傾げる。
彼は、いわば村の青年団の団長といった感じの人士なのだ。
「ぶわははは、いくら王都とはいえ、さすがにそれはないな。
そいつは貴族が家でパーティなんかをやる時に使うもので、公式の場などでは使わないよ。
簡素な物は庶民がお祭りなんかで使う人もいるらしいけど。
ただ村の祭りでやるのなら、それくらい派手な方が似合うと思うのだが」
まあ一言で言えば、『インディアンっぽい衣裳』なのだ。
極彩色の魔物羽根でジェロニモ酋長のように飾られて、また色彩が例の如くに派手で、本家インディアンでも使うのを躊躇いそうなくらい煌びやかな代物なんだ。
あるいはリオのカーニバルか、仮面舞踏会のマスカレードといった、ふさふさで派手派手な感じを付け加えた物とでもいうか。
これにまた壮麗にペイントというか化粧をして、男も子供も楽しむのだ。
地球の欧米だと、ヌーディストビーチなどで派手な全身ボディペイントするイベントなどもあるらしいが、ああいう感じなのかね。
ここでは塗るのは主に顔と腕くらいなのだが、お腹を出すスタイルで腹も塗る人もいるらしい。
まあ日本にも宴会用の腹芸はあるから、貴族がその恰幅を示すために当主がやるものなのではないだろうか。
痩せこけた貴族とか、あまりにも外聞が悪すぎる。
さすがにヌードになる人はいないらしいのだが、男の子だと上半身裸でやる子はいるらしい。
もちろん家の中でやるだけで表に出たりはしないのだが。
もしかしたらカップルだと寝室限定で全身ペイントもやるのかもしれないな。
今度泉と一緒に遊んでみようか。
一応、フォミオには法被も作らせておいた。
青地で背中に漢字で真っ赤な『祭』と書かれてある、あれであった。
祭りにはこいつがなくっちゃなあ。
「いい感じにできてるなあ、これこれ。
細部のデティールまでよくできているぞー。
さすがはフォミオの仕事だ」
「ありがとうごぜえやす。
しかし、カズホ様もえらく拘りますな。
細かい注文に対応するのには苦労しやしたが。
よほど、これに思い入れがありますので?」
「おう。
国にいる時はそうは思わなかったんだが、異世界にいる今は無性にこういうものが懐かしくてなあ」
法被の下の部分には市松柄や輪つなぎ柄があしらわれ、真っ赤な白抜きで背中に祭りの一字。
昔は染料の関係から全部紺染めであったのではないだろうか。
派手目の色合いの物も、その加減で今でも青色が多いのではないかと思う。
俺の地元では明るい青だった。
だが、最近はネットで販売されている者などを見れば、赤だのピンクだのオレンジだのという色彩豊かな物も少なくないし、それだと若い人や子供も好んで着やすいというのもあるのかもしれない。
和菓子の衰退のように和風のイベントは徐々に衰退しつつあるので、それもまた自然の成り行きなのかもしれない。
という訳で、我が家では大人から子供まで各種のサイズで、王都で仕入れてきた生地や染料を用いて各種の色合いの法被を揃えてある。
さすがにこの辺境の村で、インディアンのような派手な格好で祭りをやるのは厳しい。
法被の下には股引きも合わせた。
半股引きスタイルも用意したし、ネタで締め込み褌と腹巻のセットも用意したぜ。
まあさすがにこんな物をチョイスする奴はいないと思うのだが。
「あ、神輿を忘れていた。
あれは秋祭りにも毎年使えるもんだしなあ」
「神輿ってなんでやすか?」
俺はさっそく神輿のデザインを始めた。
まず神輿の概念をフォミオに教えるところから。
神輿は『しんよ』などとも読み、神様が神の社から出る場合、一時的に留まるための高貴な乗り物だ。
確か外国などでも、そういう似たような概念があったはずだ。
まあ、その辺の神様なんかだと、町内を一周して元の社にお帰りになられるわけなのだが。
だから、あのように煌びやかに作られているのだ。
あれは買うと本当に高い。
自動車みたいに工場で量産しているわけではなく、宮師さんというのだろうか、宮大工のような凄い技術を持った職人の方々が注文に応じて手作業で作っているのだから。
金箔などを張るので、仏壇ともかなり技術が被っているはずだ。
金箔系の補修は、昔ながらの仏壇屋などでも可能なのではないだろうか。
よく、金箔張り直しできますみたいな看板が店先に出ていたような。
うちの街は田舎町だったので、専門の金箔補修業者さんの店が街中にあったけどね。
とりあえず、神輿は我が家の超器用で優秀な職人さんに発注しておいた。
まあ日本の本職には敵わないので、雰囲気だけという事で。
山車も悪くないと思うのだ。
こいつは金がかかり過ぎて簡単には町内で保有出来ず廃れてしまい、今では全国に名を轟かすような有名なお祭りなどでしか見られなくなった。
それから簡易な町内で担ぐ御神輿へと遷移していったようなのだが、うちでは何でもありさ。
どうせ異世界産のばったもんなのだしな。
やれるようなら、新郎新婦を超ド派手な山車に乗せて、村内を練り歩くぜ!




