4-1 ショウと弟子達
「悪いな、ショウ。
いきなり子供の世話なんかで呼び出しちまって」
俺は別の街にいたショウに連絡して、マルータ号を迎えにやってカイザの屋敷へショウ達を連れてこさせ、そこで弟子の子達と面接をしていた。
最近はマルータ号の運転手であるザムザ101が、王都の貴族街のゲートにて顔パスになってしまっている。
まあ、魔人ザムザが運転する飛空馬車なんて物も他には存在しないのであるが、あの蟷螂顔が挙手一発で王都ヨークの貴族街へ完全スルーで通り抜けてくるのだから、誰か人に見られていたら非常に奇異に思われる事だろう。
「いえいえ、こんな王都のイベントに招かれるなど光栄至極ですよ。
ちょっと前までなら考えられないような事態ですしね。
ああ、紹介します。
こちらが僕の弟子で、ルイーズとサムスンです。
二人とも、御挨拶しなさい。
こちらが僕が御世話になっている勇者カズホ様だ」
二人は、活発そうなまだ雀斑が残る栗色の髪のおさげの女の子と、利発そうで大人しそうな銀髪の男の子だった。
「こんにちは! カズホ様。
ルイーズです」
「こんにちは、サムスンです。
よろしくお願いいたします」
「カズホ様って彼女はいるんですか」
「おい、ルイーズ」
サムスンが慌てて窘めるが、何、物怖じしないのはいい事だ。
行商人になるなら、これくらい図々しくて丁度いいくらいだ。
かなり営業センスが必要とされるからな。
「はは、ちゃんといるよ」
「ちぇえ」
なんだろうね、このバイタリティは。
まだ十二歳だというのに。
男の子の方は割と草食系っぽい感じなのだが。
むしろ彼の方がかなりの器量よしなので、貴族のマダムなどから狙われてしまいそうな容姿の持ち主だ。
銀髪にエメラルドブルーの瞳と女の子のような顔立ち、これはまた美少年だな。
「この子達は自分の身を一人でちゃんと守れるのかな」
「もちろんですよ。
ルイーズなどは孤児院育ちのくせに、なんとあれこれと魔法が使えて、また体術にも長けています。
サムスンの方は顔に似合わず、とても力が強いのです」
そしてサムスンは片手でショウを高々と持ち上げてデモンストレーションを見せてくれた。
もしかしたら、これも何かのスキルなのだろうか。
そういや、ヘラクレスなんてスキルもあったよなあ。
とてもその一見華奢そうに見える少年の筋肉量から想像出来るような筋力ではない。
「へえ、二人ともまるで冒険者にでもなった方がいいくらいの才能だな」
だが、二人ともその勇者的というか冒険者的というか、俺の率直な感想は軽く一蹴した。
「そんなものになって長生きなんかできるはずがないじゃないですか。
この魔王軍が跋扈するご時世なんですし。
私は辺境で行商人をして地道に生きていきますわ」
「そうですよ、魔法使いのルイーズじゃあるまいし。
僕なんかにそんな物が務まるはずが」
「おだまり、この怪力馬鹿!」
なんだろうな、このサムスンっていう子は。
凄い力がある割には筋肉なんかはまるでないかのように見える外見だし、気合も若干足りなさそうで、一人で旅する行商人としては、その容姿も相まって若干心配になるレベルだ。
外見から舐められて、いつ悪党の手によって売り飛ばされそうになっていてもおかしくはない。
筋肉自慢のフランコに弟子入りさせたいくらいの気持ちになるな。
「まあいいや。
しばらくこの屋敷に御厄介になってイベントを待ちながら、子供達の面倒をみてやってくれ」
そして、当然の事ながら女の子達は美少年サムスンにべったりだった。
「お兄ちゃんの髪、綺麗」
「素敵、女の子みたい~」
「大変美形なのです。
ちょっとうちの村にはいないタイプの人なのです」
「生きたお人形さんだ~」
ルイーズも物怖じする事無く元気いっぱいに、男の子達を引き連れて大貴族の名家の邸内を闊歩している。
この子達は孤児院にいた頃からこうだったのだろう。
侯爵家の子供達も、彼女のバイタリティ溢れるキャラに夢中なようだった。
男女逆でちょうどいいとは、まさにこの事だ。
まあ別にいいのだけれども。
女の子の方が、すこぶるつきの美少女なんかだと、危ない目に遭う事も多かったりするかもしれんのだしな。
「じゃあ、俺はちょっと村に戻って新郎新婦の受け入れの支度をしに行くから、何かあったら連絡をくれ。
今の状態では、とてもじゃないが公爵家の姫を迎えるなど出来ないだろうから準備が大変だ。
いきなりの話だから、もう期限は待ったなしだよ」
「そうですね、なんたってあの焼き締めパン村の事ですからねえ」
「ああ、カイザの山小屋みたいな家しかないんだからな」
ついでに『勇者小屋』の方も主にフォミオ用だし、作業場や学習室もあるから大きくて広いが、大体同じような物なのだ。




