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3-74 白亜の宮

 そして俺は少しサービスして、王様に王都の空周遊コースを主催した。


「どうだい、王様。

 空から自分の王宮を眺める観光はさ。

 そう悪かないもんだろう」


「これはまたなんとも言えぬよい気分じゃ。

 自分の小さな心などすべて洗い流されるような気がするわい」


 王様は目を細めて、このいきなりの空中遊泳体験を楽しんでいるようだった。

 俺達の世界でならば、宇宙旅行に匹敵するほどのサプライズであったろうな。


「そういや、王様。

 王国内にいる魔王軍の間諜の話はあんたに伝わっているか?

 あいつらは城に置き去りにされた俺の情報まで、逐一知っていたようだった。


 勇者一人一人の性格や弱みなんかも多分知られているぞ。

 だから王宮にも間諜が大勢いるんじゃないか。


 そのうちに勇者が暗殺されまくりそうな勢いだ。

 国護の旦那には肝に銘じていただいてあるが。


 この前王都に攻めてきた魔獣も潰したし、ノームのダンジョンで待ち伏せしていた複数の魔人・魔獣も片付けてやった事だし、今度は勇者に対する搦め手が来てもおかしくない情勢だ。

 あのノーム・ダンジョンでの襲撃も間違いなく間諜の仕業だな」


 それを聞いて王様はまた眉を曇らせたが、すぐに落ち着いた声で応えを返してきた。


「それはまあ、昔からの事よ。

 今に始まったわけではないし、中には明らかな裏切り者とわかっていても簡単に始末できないような者もおる。

 議会などはそのような者の巣窟じゃわい」


「あらまあ、そいつは大変だ。

 その辺は王様のいない勇者の国も似たようなもんだけどね。

 ちゃんとした人なら、王様がいてくれた方がまだマシなくらいさ」


「なに、王がおったとてこの有り様じゃ」


「はは、そいつは違いない。

 ところで件の公爵邸はどこ?」


 すると王様は、上側にいる俺の方へ振り向いて悪戯小僧のような笑みを浮かべると、眼下の王城を指で指示した。


「そこじゃ」


「え、彼は王城内に住んでいたのか⁉」


 だったら飛んできたら駄目じゃん。

 せっかく格好つけて見送られてきたというのに全部台無しだぜ。


「正しくは王城に隣接するパレスじゃな。

 ほれ、四方に伸びるパレスが見えるじゃろう。

 あれの南側にあるのがそうじゃ。

 通常は王宮入り口とは別となる正面入り口から訪問するのじゃが、構造的には王族などは内部から普通に行き来できる」


 前に忍び込んだ時は闇に紛れて、他の城の住人に案内されるがままに侵入したから城の構造なんてよくわからないな。


 今日は自力で魔核の特殊技能を発揮して、力業の肉弾的手段で入りこんだのだ。


 仕方がないので、俺はザムザ軍団を率いて南のパレス門を目指して、王様の家来が見ていたら目を剝いたであろう速度で降下した。


 この何かと作りが派手な王都に相応しく豪奢な作りの白亜のパレスがぐんぐんと迫る様子は迫力があり、王様自身はそのような事は大いに楽しんでいるようにすら見えるのだが、当然のように下の連中は慌てていた。


「魔人だ、魔人の襲来だ。

 ザ、ザムザだーっ、ザムザの大群だ。

 何故だああ」


 あれ、ザムザはこの前に王都で大活躍していたはずなのだが、この連中は公爵様と一緒に退避していたかで姿を見ていないのかな。


 二人いた門番が大慌ての様子だった。


「いや待て、なんと陛下がご一緒だぞ。

 さては魔王軍の人質に取られたか。

 ああ、一体どうすればよいのか」


 だが、先に降り立ったザムザ1がつかつかと近づき、ビビって腰のひけている門番達をこう言って窘めた。


「あいや待たれよ、公爵家の門番達よ。

 我は魔王軍のザムザにあらず、勇者の眷属たるザムザ1である」


 更に続々と降り立ち、奴に続いてゆくザムザども。


「我はザムザ2」

「我は……」


 そして王様は、呆然と立ち尽くしてザムザ軍団を凝視して固まっている彼らに近寄ると、これまた悪戯そうで楽しげな笑顔を浮かべ、彼らの肩を両手でポンっと叩いた。


「このような形での、しかもいきなりの訪問で済まぬが、ゴッドフリート公爵に用があっての。

 ちと取り次いではもらえまいか。


 安心するがいい。

 そこのザムザどもは、わしが雇ったそこの冒険者の眷属で本日のわしの護衛隊じゃ」


 ひょいっと手を上げて、軽く笑顔も添えた黒髪黒目の俺を見て門番達は間抜けな顔で見返していたが、しばしの間を開けて慌てて応対に入った。


「は。

 た、ただいま!」


 そして、しばらくドタバタした後に俺達は館の中へ通され、御茶などをいただいているうちに件の公爵が現れた。


「陛下、何故こちら側の玄関からあなたが。

 御用があるのでしたら城の方へ呼んでいただければ、即座に出向きましたものを」


 訝し気にまくしたてた彼は、そこに明らかなる勇者の特徴を示した俺がいる事に気がついた。


 金髪の髪に青い目、少し厳つい感じの角ばった顔立ちの、確かに厳しめな風貌の人物だな。

 だが、特に卑しさのような物は感じられず、見たところは信頼出来そうな人士であった。


 王に対して向けられた態度物腰からもそれは伺われる。


 趣味の良さそうな幅広の装飾縁をあしらった、ガウンのような前合わせの服で、下はかなりゆったりめのズボンという、割とこの手の人物としてはラフな格好で出てきたので、平素は親族という事で王様とは気楽な関係だと思われる。


 これなら、もしかしたらいけるかもしれないな。


「こんにちは、ゴッドフリート公爵。

 私はカズホ・ムギノ。

 通称、当代のハズレ勇者です。

 よろしければ、お見知りおきを」


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