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3-65 どうせやるなら

「へえ、これはいいかも」

「だよねえ」


 それは小型サイズのシンプル魔導農機シリーズだった。

 たとえば小型魔導耕運機ランドバスター5。


 幅八十センチくらいのサイズの円形で厚さは三十センチくらいなのだが、宙に浮いて移動し、設定しだいで自動で一定範囲内の畑を耕してくれるようだ。


 これ、大人でも上に乗って遊べそう。

 こいつが猫なんかに見つかった日には!


 さっそく子供達が先を争って上に乗っていた。

 みんなでスクラムを組んでのれば、幼児五人まではなんとか乗車可能なようだった。


 鉄の鋤などではなく、魔法を使って耕しているため、この小型サイズでも十分なパワーがあるはずだ。


 名前からして五番目、あるいは五代目のモデルのようなので信頼性も高そうだし、構造もシンプルそうに見え、また堅牢で壊れにくい感じか。


「性能は申し分ないみたいだけれど、こいつの価格と燃料コストは?

 パワーからして魔石で動いているようだけれど、どれくらい動くものなんだ?」


「そうじゃのう。

 価格は一つ金貨二十枚、魔石燃料は真面に動かせば、この部屋の大きさの百倍を耕すだけ動かすのに銀貨が五枚分くらいの値段がするかの」


 ここは実演販売もできるように広めに作られた部屋で、大体一アールくらいだから、ざっと一ヘクタールあたりのコストということか。

 アルフ村のような村ではそのコストじゃ厳しいな。


 だがなるほど、これだけの性能の機械であれば日本円で二百万円相当の値段は妥当というか安いくらいだ。


 このおっさんは、なかなかいい腕をしているようだ。

 そして問題はランニングコストなのだ。


「まともに動かせば、と言ったな。

 他にどんな裏技があるんだい」


「ほっほ、そいつはな、魔物から取った魔石を直接使えるという事じゃ。

 普通は自分で魔物など狩らんし、買ってくるのじゃが当然精製品は高くつく。


 じゃが、こいつは生の魔石を入れておけば内部で砕いて自己精製して使用する事ができるのじゃ。

 燃料としての効率は若干悪いのじゃが、まあ純正燃料に比べれば効率八割といったところではないかのう。


 パワーはあるから燃費が少々悪いのじゃが、コストは使い方によってはただ同然といったところか。


 ダンジョンなんかが近くにある時は、弱い魔物を自力で狩って燃料にする事も可能なのじゃ。

 農民の冬の仕事として代表のグループをダンジョンに送っておくのも悪くない考えじゃ。


 ダンジョンとて入り口くらいまでなら、そうそう死んでしまいやせん。

 また質の悪い小粒なクズ魔核なんかなら現地で買っても、ただ同然に安いしの」


「へえ、やるなあ。

 他にはどんな機械があるんだい」


 そして商会長は子供達にも見えるように、作業用の若干低めのローテーブルの上に他のカタログを広げてくれた。


「こっちは種蒔き機じゃ。

 こっちは耕すわけではないので、そうパワーを食うものではないから、これは魔石が結構長持ちするぞ。

 こいつも金貨二十枚じゃな。


 あとこちらが刈り取り用の機械なんじゃが、こちらは少し大きくなる。

 安い機種だと刈った麦はその場に置いていく感じか。

 

 これは金貨五十枚で、もっと値段が高い機種は大穀倉地帯向けで大型だし、小村にはあまり向かないの。


 後で集めた麦を脱穀の魔道具により自動で麦粒を収穫できるが、そっちは金貨十枚じゃな。

 落ちた麦穂を回収する機械もあるぞ。


 大型の機械だと刈り取り機械がそこまでやったり袋詰めにしたりも出来るが、それも小村向けじゃない。

 どうするね」


 俺は思案したが、思いついた事があったので提案してみた。


「じゃあ、とりあえず小型の機械を一式もらって帰るか。

 あと、動力を魔核にするように改造できるかな」


 俺の強引な提案に、さすがの商会長も顔を引きつらせた。


「また無茶を言いよるな。

 できん事もないが、金がかかり過ぎる上に、完全に採算が合わんぞい。


 わしも大型マシン用に実験機や研究機ではそういう真似もするが、商品としてはとても出せんのじゃがなあ。

 また魔核は希少であまりに高価すぎる」


「魔核ならここにある。

 やってくれるなら提供するし、金はいくらでも払う」


 いちいち魔石供給しながら村に貸与するのは面倒過ぎる。

 魔核は、うちの眷属を見てくれていればわかるが魔素を使って駆動されているため、魔石動力のように魔石を消費したりはしない。


 魔核は上級魔物の中からしか取れないため、ダンジョンなどでも収穫は限られている上に非常に高価だ。


 俺は手持ちの魔核をズラリと各種並べてみせた。


「そいつは全部あんたにやろう。

 好きなだけ研究に使えばいい。

 だから引き受けてくれ」


 俺は大小各種の魔核を大量にテーブルの上に並べたてた。


 あの魔物穴で入手したものや、ノームのダンジョンの夜通しの魔物襲撃で手に入れた魔核などを万倍化したものだ。


 不気味に光り、「爺さん、どうした。臆したか」とでも言いたいが如く挑戦的に各種の色を秘めた鈍い光沢の輝きの群れが、商会長を見上げていた。


「まったくもって勇者という連中は非常識な奴らじゃのう。

 よかろう、この魔導の猛者バルバロッサの名に懸けて、その難儀な仕事やってやろうじゃないかね」


「そう来なくっちゃ。

 あと魔核についてなのだがな、そこにある物などただの雑魚なのさ。

 なんのまだまだ」


 そう言って俺はミールの巨大魔核と、これも万倍化してみたニールの魔核を取り出した。


 ニメートルとニメートル半の巨大な魔核を目にして、またしても商会長バルバロッサの顔は引き攣った。


「ばかもーん、そんな巨大魔核を使った魔導農機具なんか作れるものかあ。

 そんな物で一体何を耕すつもりだああ。

 そもそも、たとえ作れたとしてもだな、そんな代物を市場に出したが最後、農機具ごと国家に接収されてしまうわい」


「はっはっはっは」


 子供達も、専用のスタンドに乗せられて転ばないようにしてある巨大な魔核をツンツンしていたし、この手の物体についてはこの中で一番の専門家であるシャーリーは、ただ呆れた顔をしているだけだった。


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