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3-64 農機商会長の密かな楽しみ

「こいつが、わしの自慢のエルベスターΩじゃ」


 Ωって、あんた。


 オメガというのは最終とか究極を現わすような、英語で言えばZに当たるものだと思うのだが、目の前のこれはどう見ても。


 そう、ただの試作品のガラクタである。


「そして、この雄姿を見るがいい!」


 訊いてもいないのに、その商会の商会長さんはデモンストレーションを始めた。


 そいつはまるで武骨な球体に近いような高さニメートル近いボディを重そうに動かすと、ガチャコンガチャコンと玩具のような動きをする。


 アヒルの玩具の形に酷似した二本の足で歩き出したかと思うと、ニュウっと両側からフレキシブル・タイプの腕を出して何かを始めた。


 先端には手袋のような感じのマジックハンドが付けられており、なかなか『無駄に』高性能な仕様なようだった。


「エルベスター!」

「オメガ~」


 当然、子供達はもう大喜びで、その『大きな玩具』の周りを少し離れたところから取り囲んでいたのだが、俺にはもう完全にオチが読めていた。


 何故なら、そいつの背中には普通の農家で使うような『ただの農具』が背負われていたからだ。


「どうだ、この画期的な商品は。

 なのに客どもと来たら笑うばかりで買っていく奴は一人もおらん!」


 商会長はアクアオーラのような薄水色の瞳で宙を見据え、また両手を振り回しながら叫んでいたのだが、俺はもう残念過ぎて何も言う事はできない。


 そいつは見事に鋤を振るっていたが、しょせんは農民一人レベルの仕事だろうし、人間ほど臨機応変な仕事はできないはずだ。

 人工知能搭載型とか、高性能のゴーレムには見えない。


 完全に予算をオーバーしまくる代物だろうから買い手がつくはずもない。

 せめてスペックの方がオーバーだったならよかったのだが。


 この図体だと買って帰っても見世物になるだけで、却ってその図体が邪魔になるだろう。

 大体、あの足回りだと、でこぼこな畑だとすぐに転びそうだしな。

 ここのラボや店先なら平坦だからいいけどさ。


「うーん、惜しい。

 これが違う方向にいっていれば、あるいは」


 そう、『戦闘マシン』の方向に行っていれば、国家が負担する潤沢な開発費を元に魔王軍との戦いにも有利に働く物も作れたのだろうが、この才能が無駄な方向へと走っていってしまっていた。


 こういう事を彼に吹き込んだ勇者ども、本当は面白がっているんだろう。


「ねえ、おじさん。

 他には、他には~」


「もっと面白い物があるのなら見せるのです」


 男の子達だけでなく、少し大人びた感じの幼女であるマーシャまで夢中だった。


「よかろう!

 このわしの才能に目を付けるとは見上げた子供達じゃな。

 お次はこっちじゃ」


 振り向けば、エルベスターΩは鋤を振り上げた間抜けな格好のまま機能を停止していた。


「やっぱり燃費が相当悪いんだな。

 多分燃料満タンであれが精一杯の駆動時間なのか。


 無駄に高性能で複雑な動きをするために、無茶苦茶効率の悪い術式で強引に動かしているんだろう。

 一瞬買って行こうかという欲求に身を任せてしまいそうだったのを自重してよかったな」


 いやな、ビトーの冒険者ギルドへのネタ土産にと思っていただけで。

 何、ちょっと宴会のお供にな!


 横から俺の未練たらたらな様子を見ていたシャーリーが笑いを堪えていた。


「本当に男の人って、しょうがないわねえ。

 欲しいのなら買っていけばよかったのに」


「馬鹿を言え。

 この元敏腕営業の麦野一穂ともあろう者が、こんな欠陥商品を買っていけるもんか。

 こいつは商品どころか、まだ開発中の実験モデルじゃねえか。

 いや試作品ですらないぞ」


 もう、このおじさんは商会の経営者というよりは、街の愉快な発明家といった趣があるな。


 まあこういう人は嫌いじゃないし、こんな商会を王都でやっていられるのだから立派な商品も別でちゃんと用意されているはずなのだ。


 お次は多足自走タイプの農機具だったが、ん?

 これはまた欠陥商品だなあ。


「これは一人でいろいろな作業を数人分こなせる画期的な商品だったのじゃがな、作業した端から自分で畑を踏みつぶしていくので実験農場から返品されてきよったものなのじゃ」


 全然駄目じゃねえか。

 日本の農機は後ろで作業するようになっているんだからな。


 子供達は全員けたけたと笑っていて、それを見ている商会長も楽しそうだ。

 こ、このおっさんめ、わざと失敗商品の紹介から始めてやがる。


 こんなところに子供達が見に来てくれるなんて滅多にないイベントだから、会長自ら案内して楽しんでやがったのか。

 こいつは一本取られたな。


「そして、こっちの方はな、後ろ向きにしてみたのだが、今度は前が見えなくてな」


 そして実演してくれた実験モデルの小さな機械は後ろ向きに進んでいき、見事に台から転げ落ちてしまって、カタカタと引っくり返ったロボット玩具のような動きを披露して、子供達には馬鹿受けだった。


 それはもう完全に、見学者用にネタで作った(オモチャ)だよね。

 あのう、俺は普通に商品を買いに来たんですが。


「で、こいつが小村向けに作った販売用のラインナップのカタログモデルなんじゃが」


 あのなあ、そんないい物があるんなら、さっさと出せよな。

 どれどれ。


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