3-63 魔導農機具
「さあて、お次は男の子待望の農機具ね。
まさか、そんな物が王都にあったとは思いもしなかったわあ」
一旦家に帰って、あれこれと聞き出してきてくれたシャーリーの案内で、この世界の○○農機さんへお伺いする事になった。
まあそれほど期待はしていないわけなのだが。
「へえ、それらもまた勇者の作なのかい」
「さあ、そこまでは知らないけど、訊いたら父は知っていたわね。
大型の機械が多いし、大穀倉地帯で使っているものが多いから、小村で使える物があるかどうかまでは知らないわよ」
大穀倉地帯……なんとなくアメリカやロシアなんかにある、だだっ広い畑を思いだした。
さすがに大型のコンバインかなんかだと、焼き締めパン村のような小さな村で使うのは厳しいかもな。
シャーリーの引率で、街の様子を見ながらはしゃぎ回る子供達がどこかへ行ってしまわないように、後ろでカイザに見させている。
フォミオとニールの子守りのプロ級コンビがついていて、俺も一緒なのでそのあたりは大丈夫だ。
一番危なそうなアリシャの傍には彼女付きの精霊もいてくれるし、エレも見てくれているので何かあれば俺に教えてくれる。
まあ、たとえ子供が馬車に轢き殺されたとしても虹色の液体が活躍するだけなのだが、それだと王都の楽しい道行きが台無しになってしまうので、本日それは無しの方向でお願いしたい。
こうして改めて眺めてみると、やはりここは大都会だ。
幅広の歩道があり、五階くらいの高層の建物が多くあり、それらは木や石ではなさそうな素材で作られていて、まるでローマ時代を思わせるような雰囲気だ。
またそれがローマなどとは違い、形が比較的綺麗に丁寧に整えられており、日本やアメリカなどを思わせる印象もある。
ローマと一番異なる大きな特徴は色彩だ。
遠目には外板素材の色そのものなのか、塗られている塗料なのかよく判明しないが、実にカラフルな街だった。
空の色を映したかのような真っ青な屋根、ここまであまり見た事がないような、かなりの鮮やかな赤さを示す緋色の屋根は錬金術の成果であろうか。
黄色やオレンジのような明るい色合いも少なくなく、他の街とは一気に世界が違うという有様で、まるで地中海あたりの国やヨーロッパの一部を見るかのようだが、ここは錬金術で街を装ったかのように鮮明な色合いが多いのが目を奪う。
道行く人々も、服装は街に合わせて華やかだ。
子供達もそういった普段は見かけない派手な色合いの服を欲しがったが、はたしてあの村で浮かずに済むだろうか。
今度、こういった物に対して村人から理解を求めるための色彩豊かな何かをテーマにしたイベントでも開くかな。
だがそれらは別にサイケデリックとか前衛的とかいうのではなく、そういう調和の取れた文化を楽しむ豊かさというか、余裕のような物をここには感じた。
この国も、魔王が現れる前は相当豊かな国だったのではないだろうか。
ビトーは逆に格式を重んじるというのか、街全体はシンプルに建築素材の色合いを自然に引き出すというか、むしろゴテゴテに色を付けるのは下品であるというような格調高さを感じさせていた。
どちらも悪くない考えで、今まで見た中では、さすがに両者は他とは一線を画するほど独特な印象がある。
そして、ほどなく目的地についたので、俺の王都観察日記は終焉を迎えたようだ。
「ここが、その農機具屋さんよ。
ここはあたしも来た事がないから交渉などは御自分でね」
「了解!
いや見るだけでも楽しみだな」
店構えは、この王都にしては非常に地味な印象を覚えた。
少し天井高めの広い二階建てといった趣だ。
何しろ、この派手派手フルカラーな王都にありながら、この建物には色なんて一切ついていない。
灰色のコンクリートっぽい感じの建物で看板も出ておらず、ただ一階部分の出入り口の上に横にノーキー商会とだけ書かれていた。
質実剛健を表現したかったのだろうか、まるで持ち主の精神を現わしているかのようだ。
名前からして、やはりノーキという言葉は昔に勇者の誰かが伝えたのか?
店先には、小さく作られたミニチュアと思われる機械のような物が置かれていた。
どんな動きをするものか、さっぱり見当もつかないのだがコンバインには見えないし、というか俺は大型のコンバインには詳しくないのだ。
せいぜい、その辺の田んぼなんかで見かける奴くらいだ。
あれだって狭い田んぼや畑でも自由に動き回れるように、普通の車にはついていない4WSなんかの凄い機能がついているのだ。
その他ネットなどで特集される、いろいろな仕事に使われる専門の機械なんかは、奇妙な独特な機能美に溢れた物も多いので、男性諸氏の目を引き付けて止まない物も多いしなあ。
俺もその手のアイテムは大好きなんだぜ。
「ごめんくださーい」
「はいよー」
呼びかけに答えて、さっと奥から出てきてくれた親父さんも、やや厳しめの顔立ちをした職人風で、よく使い込んだ古びた汚れ加減の革の前掛けをして、手には何かの道具を持ったままだ。
白い物が相当混じった髭が示すように、もう爺さんというのに近いおっさんだが、その目は凛として職人魂に耀いていた。
この手の仕事に人生を捧げてきた事が、この厳しめの顔を作ってきたのだろう。
手に持っているものは多分、うちらの世界でスパナと呼ばれている物体に相当するものだろうと推察する。
「すいません、農機具、ああっと魔道具の奴を見たいのですが」
「見るだけかね?」
「ああ、辺境にある最果ての小村でも使えるような物があれば買いたいのですが」
「そのような小村で、そんな物が要るのかね」
ぐっは、プロのもっとも過ぎる御意見が返ってきてしまったな。
「まあ、ちょっと訳ありで個人的に欲しいのです」
「そうか、勇者さんは皆奇天烈な事ばかり言うからの。
まあ、こっちへきんしゃんさい。
ああ、わしはここの商会長でバルバロッサというもんじゃ」
「あ、どうも。俺はカズホです」
やっぱり、この店も勇者と付き合いがあるんだな。
今の勇者とも知り合いなのかな。
ここにも一人、酔狂なハズレ勇者が来ておりますが。




