3-61 Sランク買い物ガイド・シャーリー
ロビーに、ビトーのジュリアナ嬢みたいな恰好をした女性がいて、向こうから近付いて丁寧な口調で話しかけてきてくれた。
俺の外観から勇者と一目でわかるからな。
「勇者様、王都の冒険者ギルドに何か御用命でしょうか」
そして彼女の視線は、落ち着いておらずキョロキョロして周りを見ている子供達の方へチラチラと走っているのだが、まあそれも無理もない話なのだ。
ここは王都冒険者ギルドの本部、普通は卑しくも勇者たる者が子連れでやってくるような場所などでは決してない。
おまけに子供達は九人もゾロゾロといるしね。
しかも一目で村の子供とわかる感じの子達なのだ。
「ああ、いやここの所属のSランク冒険者で、『深紅の嬰児』シャーリー・スカーレットに連絡が取れませんか。
王都は不慣れでしてね。
知り合いなので、あいつは買い物好きだから王都の店を案内してもらえたらいいなと思って」
「ああ、そういう事でしたか。
でも勇者様なのに?」
ああそうか。
普通、勇者は王都にいるものなあ。
「ああ、自分は訳ありでビトーの冒険者なのですよ。
辺境担当でしてね」
どうやら俺の事をよく知らない人のようだ。
フロア担当専門なのかな。
「そうですか、ではすぐに訊いてみますのでお待ちください。
彼女には通信の宝珠を渡してありますので」
うーん、残った宝珠をあいつに渡しておくと有意義かもしれん。
何気に、おそらくはこの国で最強の冒険者らしいし、顔も広そうだ。
だがそうして待っていたら、さして間を置かず奥から、なんとさっきの人と一緒にシャーリー本人がやってきた。
「やっほー、カズホ。
ちょっとだけ久しぶりね」
「あれ早いな、シャーリー。
どこにいたんだよ」
「何を言ってるのさ。
あたし、ギルマスの娘だって言ったでしょう。
ここがあたしの家よ」
「ああ、なるほど。
ギルマスは家族と住み込みなのか」
「というか、これ自体が我が家の所有物だから」
「ぶふっ、マジかよ」
自分の家をギルドにしている?
あるいは丸ごと買い取ったのか、新規に建てたところに移転したのか。
さすが最強の冒険者一家だ、家族全員がSランク冒険者なんだものな。
実力はそれ以上らしいのだが。
この辺りの地価ってこの国で一番高そうな気がするんだけど、おまけにこの造りときたら一体幾らくらいするものなのかね。
半端ねえなあ、こいつの親父。
「じゃあ、よかったら案内してくれないか。
みんな、お買い物がしたくて仕方がないようで」
「あはは、いいわよ。
この前たくさん稼いだからガツガツ仕事をしていなくていいし。
あれ、今日はイズミ・アオヤマが一緒じゃないの」
「これから呼ぶよ、あいつは空を飛んでくるから、来る時は早いよ。
地元の住人である君の方を先に探そうと思ってね」
「そうか、彼女は飛空のスキル持ちだったよね」
俺はにこにこしながら宝珠を使って泉を呼び出した。
「なあ泉、王都に来ているんだけど、今から暇ないか」
「あ、ごめん忙しいの。
今日はもうすぐブリーフィングがあるから」
「ブリーフィング?
何か魔王軍との戦闘があるのか?」
「ううん、そういう肩肘張ったような物じゃないんだけど、この前手に入れた鉱石の力の確認っていうか、そういう感じの事。
ちょっとした魔物狩りよ。
何、今王都なの?」
「ああ、子供会の引率で」
「あっはっはっは。
ごめん、今日は付き合えないわあ。
あたし、真っ先に出撃する偵察要員だしね」
「そうか、残念だな。
じゃあ、仕事を頑張れよ。
一応詳しいガイドをと思って、この前の仕事で一緒だったシャーリー・スカーレットに案内は頼んであるんだ」
「ああ、確か王都のギルマスの娘だっていう子ね。
じゃあ子供引率のガイドさんはその子に任せた。
デートはまた今度ねー」
「おおう、じゃあなあ」
俺は名残惜し気に、彼女との宝珠の通信を切った。
「あら、彼女なんですって」
「勇者部隊の演習があるから来られないってさ」
「へえ、何かあったの?」
「いや、勇者用の新装備のテストだそうで、多分欠伸が出るような代物に決まっている。
この前、君にも渡した例のアレさ。
それよりも店に行こう。
待ち切れなくて、そわそわしている奴らがいるから」
シャーリーはクスクスと笑うとしゃがんで、その筆頭のマーシャに訊いた。
「ふうん、君は何がお目当てなのかなー」
「えーと、可愛いお洋服とお人形なのです。
女の子組は大体そこからなのです」
「男の子は?」
そう訊かれて何人かの男の子がヒソヒソやっていたが、一番年嵩のトマスが代表で答えた。
「まず魔導の農機具があったら」
シャーリーは驚いた顔で振り返り俺を見た。
うーん、確かに普通の幼児が欲しがるものじゃないからな。
あはは、地球の農機具について聞かれたので教えてやったから、王都に行くと似たような物があると思ったらしい。
「なんで、そんな物が欲しいんだい」
「だって、村長の息子のゲイルさんみたいな人も、そういう魔導の農機具があったら仕事も早く片付くから。
お祭りの時には収穫もあったから、凄く忙しそうにしていたものね」
なるほど、そいつは失念していた。
それはいいアイデアかもしれないな。
結構、俺が彼を忙しくさせていたし、これからもそうなりそうな企画を考えていたので。
「というわけで、よろしくな」
「うーん、そこまでマニアックな要求が出るとは予想していなかったわ。
でもSランク冒険者の名にかけて、このミッションは必ず成功させてみせるわ」
そいつもまたどうかと思ったのだが、Sランク買い物ガイドさんのお手並みを拝見するとしようか。




