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3-60 王都の空

 もし、このマルータ号のような所属不明の飛行物体が東京上空へ進入でもしようものなら、まずどこの管轄なのか知らないがヘリが出動するのではないだろうか。


 場所にもよるのだろうが、警察・海保・自衛隊、まあその辺りかな。

 日本だと首相官邸や皇居みたいなところをドローンが飛んでいても大騒ぎされるからな。

 アメリカでも球状の上空へドローンが出現すれば、試合は中断されてしまう。


 だが生憎な事に異世界では飛行物体といえばドラゴンだの魔獣だのという、むしろそっちの方がありえない代物だろうと、勇者の祖国日本の住人から突っ込まれるようなものなのだ。


 この王都には当然の事ながら、未確認飛行物体の首都防空域進入に即応する専任の部隊などもなく、せいぜい王都の住人が空を指差すくらいだった。


 UFOと同じで、これがまた案外と空なんか見ている奴も少ないものなのだ。

 何しろ外観が丸太作りなのだから、これはどこからどう見ても魔王軍所属には見えないし。


 ただ、油断すると騎士団とかが出てきちゃうと嫌なんだがな。


 あいつらって軍じゃなくて王直属の、アメリカでいえば大統領直轄組織のCIAみたいな感じの、しかも内実はかなり軍事寄りの組織だ。

 諜報はまた別の専門の組織があるらしいのだが。


 カイザだって一応は騎士なのだが、騎士団に所属するようなものではなく、国王隷下、国王直属の独立機動的な立ち位置にいる。

 とにかく国王の個人的な懸念の払拭のために置かれている役職なのだ。


 今いるカイザは、おそらく勇者召喚に備えて何事も無きように監視している信頼できる人間という立ち位置だった。


 前の人はもう御隠居さんだったし、あれも『信頼できる人材』という括りだったようだが、いくら王様に忠実で信頼されていようとも寿命には勝てなかったのだ。


 変な人間を送っても、辺境で腐って仕事をしなかったり悪い事をしていたりで、あまり役には立たない。


 仕方がなく、本来なら使いたくないカイザのような人間を送ったのは、王様も何かの予感めいたものがあったのかもしれない。


 そしてカイザは何故か召喚以前よりも、本来の任務は終了しているはずの召喚後の方が忙しくなってしまったという。

 それに関しては主に俺のせいなのだがな。


「王都だあ」


「すげえ、大人が歩いて一ヶ月も旅をするところに、あっという間に着いちゃったー」


「王都なのです。

 カズホ、憧れの王都なのですよ~」


 うちのマーシャ姫様も大感激で車両のど真ん中で踊っておられる。


 むろんアリシャ姫も一緒だし、それはあっという間に子供達の間にパンデミックを引き起こしていった。


 それは別にカイザの娘達が、その身に宿す血の記憶がもたらす自分のルーツへの郷愁を感じているわけでもなんでもなく、『念願の素敵王都』への到達を喜んでいるだけなので身も蓋もない。


「カイザ」

「ん? なんだ」


 せっかく自分の娘達が一心に御遊戯を披露しているのだが、彼の心は、かつてそこで暮らし、また生涯に渡って二度とその地を踏む事はないだろうと思っていた故郷の街の光景に囚われていたようだった。


「どこへ降ろすんだ?

 うっかり着陸地点を決めておかなかったな。


 いつもは目立たない街外れみたいなところに発着するんだが、今日は子供連れなんで、あまり歩くと足が上がっちまいそうだから街中へ直接下りたい。

 どうせもう俺の事は、王様も王国軍も王都の冒険者ギルドも知っているから構やしない」


「ああ、そうだな。

 どこから回る?」


「そんな事はあの子達が決めるだろう」


 そう言ってやると、彼の娘達はわくわくして父親を見つめていた。


「わかった。

 中央通りの大商店街沿いでいいだろう。

 俺が直接ザムザに指示しよう。

 近くに宿場街もあるし、あれこれ見て回るのならあの辺がいいだろう」


「例の件は?」


 カイザの家を見るだけという、あの話だ。


「ああ、あれは大勢子供を連れていくような話じゃあないので、宿に落ち着いてから行こう」


「それがいいな。

 じゃあ、ナビゲートはよろしくな」


 ザムザ101はカイザの指示通り、広めの歩道と馬車が発着するサイドの他に、片側二車線ずつある賑やかな大通りの空いたゾーンへと降下させていった。


 ザムザは知覚力が凄いので、うっかりと人を下敷きにしてしまうような無様な事はない。

 むしろ、そういう事は馬車の下に目がついていない俺の方が危ないのだから。


 何しろ、このマルータ号は大型馬車三台を繋いで作成したもので、すなわち標準的な電車の車両一両分くらいの図体があるのだ。


 従って、こういう街中では降ろす場所を選んでしまうのだが、そこはやっぱり王都なので大通りも広かったのだ。


 俺達は無事に王都ヨークのメインストリートであるサザン大通りへと到着した。


「よーし、ここはあたしが一番……」

「やったー、一番乗り~」


「あー、アリシャ。

 なんという事を~。

 お姉ちゃんが一番乗りする予定だったというのにー」


「えー、知らなーい。

 早い者勝ちだよー」


「お待ち!」


「お前ら、勝手に走り回るの禁止だから!」


 それから、ふっと思いだしてカイザに尋ねた。


「そういや、王都の冒険者ギルドってどこにあるんだい?」


「すぐそこだが、何故だ?」


「この前知り合った冒険者をガイドに徴用できないかと思ってな。

 勇者よりも地元の奴の方がガイドとして優秀そうだ。

 どうも勇者っていうのは自分の好みに偏るというか、あれこれと拘り過ぎている気がする」


「ははは、お前自身もそうなんだろう。

 よし、じゃあ行ってみるか」


 というわけで、着陸地点からほんの百メートル離れていただけの冒険者ギルドへ向かう事にした。


 予定外な場所の見学もできそうなので楽し気な子供達を引き連れて、ゾロゾロとお邪魔をしてみたものなのだが、これはまた。


「でけえ」


「ああ、ここの冒険者ギルドはな、この国における冒険者ギルド本部だから必然的にそうなる」


 まるでビトーの領主館並みの広さだ。

 あのビトー冒険者ギルドの持つ、傭兵部隊の入隊申し込みオフィス然とした雰囲気とはうって変わり、正面にはかなり広めの大階段が設えられて、そこを登ったテラス状の部分には厚めでがっしりとした屋根が作られており、荘厳といってもいいような佇まいだ。


 これまたファンタジー小説に登場するようなタイプではなく、モダンな近代的大神殿といった趣さえある。


 こうやって現物を目の当たりにすると、勇者連中が王都の冒険者ギルドはプチパレスだと言う意味がよくわかる。


「あれまあ、これはまたこれで、何というかアレな感じだねえ」


「はは、お前がどういう了見でそう言うのかはよくわからんが、ここはこういうところだ」


 そして中に入っていくと、そこは広いロビーになっていた。


 確かにこの方が日本人の持つ冒険者ギルドのイメージには近い気がするのだが、なんというか大型ホテルのロビーに近い感じなんだよな。


 まるで城の如くに全体が高級石材で建築されており、床も大理石の板が敷き詰められていた。


 戦城とは異なり、客商売用に優雅な形様(かたちざま)ではあるのだが、さすが場所柄だけに異様にがっしりと作られているようだ。


 そういった事を兼ね備えると、どちらかに偏るよりも相当金がかかるはずなのだが、あくまで自分の主義主張を曲げたりしないあたりは、さすが冒険者ギルドといったところか。


「へえ、こいつぁ、なかなかのもんだな。

 さすがは王都とでもいうべきものかね」


 一言でいえば洗練されている、あるいは「らしくない」かな。


 俺は軽く見回したが、お目当ての人物がいるのかどうかさえわからない。

 これはちょっと、ビトーの冒険者ギルドに慣れた俺には少し勝手が違うかな。


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