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3-57 ビトーへ寄り道

「カズホ、途中でビトーの街へ寄ってくれないか。

 いつも伝令でやってくるモールス氏に、しばらく留守にする事を言ってから行かないとな。

 留守中に何かあったら困る」


「ああいいよ。

 でも今更、何か困るような事が何かあったかな」


 だが、奴は何故か俺の顔をじっと見つめ返した。


「よせよな、カイザ。

 もう俺はビトーの冒険者になったのだから、何かあれば冒険者ギルドに依頼を出せばギルマスから直電で話は通じるし、向こうで何かあったならば泉が連絡してくれるさ。


 もし泉に何かあってもエリクサーがあるから、誰かかれかは彼女を回復させてくれるさ。

 そもそも空を飛んでいれば、あいつはまずやられてしまう事はないのだし」


 何せ、そういう意味も込めて、あの連中には山盛りのエリクサーを回しておいたのだ。

 俺の彼女はみんなで守ってくれよ。

 あのくれてやった回復系アイテムだけでも一財産なんだからな。


 あとは例のスーバイ鉱石のお蔭で、元々勇者の中でもスピードキングであった泉もそうそうスピードで後れを取る事なんかまずないし、空にいれば大概の場合は逃げ切れるはずだ。


 元々スピードにだけは自信のある奴なんだから。

 逃げるが勝ちとは昔からよくぞ言ったものだ。


 泉は今、最高速度をどれくらい出せているだろうか。

 あいつにだけは、他の連中には内緒で複数のスーバイの鉱石を持たせてあるのだ。


 勇者陽彩と姐御くらいには、内緒でもうちょっと鉱石を渡しておいた方がいいだろうか。

 さらに王国軍へのブーストや、魔王軍へのデバフの威力が上がって、魔王軍が腰を抜かすかもな。


「俺は辺境の監視をするために、あの村にいるのだからな。

 元々、本来ならそうそう出歩いたりしていてはいかん人間なのだ。

 まあ召喚の儀式を終えた今なら、それも何という事もないのかもしれんが」


「へいへい」


 そして子供達に支度を整えさせてからマルータ号へと向かった。

 もう他の子は全員、荷物のバッグを抱えてマルータ号の元に集まっていて、フォミオが面倒を見ている。


 技能講習なんかは、もっぱらフォミオが教えているため、うちのチビ以外の子供達はフォミオの事も先生と呼ぶ。


 早朝の農村の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んで、彼らも実に御機嫌な様子だ。


 国土が狭くて各種交通網の発達した日本と比べて、基本的に徒歩が移動のメインになっているこの国の辺境住人である幼児が、八百キロ離れた首都へ物見遊山で出かけるなど本来ならありえないような大冒険なのだ。


 皆が朝から張り切るのも無理はない。

 電池が切れたら、纏めて韋駄天二号に載せるか、あるいは王都ならば馬車のチャーターが可能かもしれない。


 まあフォミオに普通の馬車を引かせた方が早いのかもしれんが。

 またあれから、暇を見てはいい馬車を各種買い集めているのだ。

 いや金が十分にあるっていうのはいい事さ。


 逸る子供達を乗せて、マルータ号は一路ビトーへと天翔(あまか)けた。


 この順応性の高い子供達は、かつて王国連合軍を震え上がらせまくった元魔人ザムザを、これの運転手さんくらいにしか思っていない。


 初めて会う人間は必ずビビって、一歩二歩は下がるような奴なのだが。

 こいつは色々と有名なんだよね。

 全部、悪名ばっかりだけど。


 こいつを連れて歩くだけで、王国軍兵士から俺達にまで無条件で石が飛んできてもおかしくはないくらいだ。



 そしてビトーの街の領主館へと向かったが、そこは俺も初めて行くな。

 というか、特に用がなかったのだし、マーシャとアリシャも領主館には特に用はなかったので。


 初めて行く街で彼女達が行きたいのは、そういう場所ではなく素敵なお店やレストランなどだから。


「あれ、そこがビトーの領主館なのかい」


「ああ、そうだ。

 この辺境区域の近辺では一番立派な建物なのではないかな」


 それはなんというのか、花の都と呼ばれる街を象徴するランドマークとなる建物だといっても過言ではない。

 なんというか、ヨーロッパの小離宮と言ってもおかしくないくらいだ。


 建物は何かの潮流のデザインを取り入れたという感じの文様を刻んでおり、特に建物の上部にはでっぱりのような、本来は不要と思われる美しい装飾をわざわざ設けてあるなど、本来は『お役所』には不要な過剰品質なデザインだ。


 なんというか、この世界は『城が中心となる物騒な世界』という印象があったので、少し肩透かしを食ったというか面食らった。


 王だけでなく、領主なども籠城が可能な堅牢な戦城にいてもおかしくないとか無意識に考えていたのだ。


 よく考えれば、そんな物騒な代物はここでは見た事もなく、まるでパリを思わせるような洒落た建物が多いのだ。


 領主館もこうあるべきというような信念の元に、拘りまくって作られていたって何もおかしくはない。


 というか、本来ならむしろそれが当然というべきか。

 子供達は俺のように難しい事は考えないので、無邪気に歓声を上げていたのだが。


「はあ、まるで王族の住む離宮のような雰囲気の建物だな。

 街の中心部にあるから庭園も面積は小さいもののなんとも素晴らしい。

 しかも、何かこう日本的な要素も感じられるな」


 趣で言えば壺庭というかなんというか、建物自体は大きいのでそこまでは狭くはない訳だが、ヨーロッパの宮殿や、後世にそれを利用して作られた別の施設のように広大な庭園を設けるような感じではない。


 なんというのだろう、それは採算度外視で金をかけまくった大きめの超高級なレストランとかの、それくらいの規模と言った方がいいのだろうか。


 あるいは国土の狭い日本の市役所的な感覚?

 小ぢんまりとしてはいるけど、何かの主張はしておかないと市民から苦情が来るから工夫してみましたみたいな規模や工夫なのかもしれないが。


 ここでは、そういった特別な空気があるのだが、わざとそのようにしたのではなく、この街の纏う空気を自然に表してみましたというような、まるで街の雰囲気を集めて形にしてみたとでもいうような自然体の佇まいであった。


 常に趣はあるのだが、それを『あえて半端でない工夫により小さなスペースに凝集してみました』的な感覚。


 日本の別荘や高級料亭などで、隅の空間を生かしてガラス張りの小庭を設けるとか、そのような優美かつ芸術などに尊敬を捧げるかのような高尚な精神。


「そうなのか。

 まあここは勇者がゴロゴロと呼ばれるような世界だ。

 お前の国のような風習が見られたって、そうおかしくもあるまい。

 じゃあ行くぞ」


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