3-56 ドラゴン新ママ
結局、例の話は保留となって、一応カイザの実家だけは訪ねてみるというか、外から眺めてみるだけにする事になった。
「遠目に見るだけだからな。
見つかると揉めるだろうし、万が一にも俺の代わりに家督を継いだ弟に見つかると大変煩い。
アレはそういう小煩い性格の奴だし」
「わかったよ、そうしよう。
俺も別にお前の家に波風を立てたいわけじゃないんだから」
そして外から俺を呼ぶ声がした。
「おーい、主。
来ましたよー」
「おう、来たか。
カイザ、今日御伴をしてくれる新しい眷属がきたから、お前にも紹介するよ」
そう、ビトーに置いてきた新しい眷属のニールを呼んだのだ。
とりあえず、あいつには俺の代わりを務めるように、普段は冒険者ギルドに置いてきてある。
最初はドラゴンだと聞いてギルドの連中も面食らっていたが、人化状態での腕っぷしを試したら圧倒的強さで、またその美しい外見から冒険者連中には大人気であり、主同様にSSSランクを貰ってある。
SSSランクもへったくれもない、大精霊に仕えていたアルティメットなドラゴン、伝説の龍エターナルドラゴンなのだから。
人化状態での力や技も生きてきた時間の経験値に比例し、たとえSランク冒険者といえども比肩する者など簡単には見つかるまい。
もしいたとしても、そいつとの出会いが更にニールの精進に結び付くだけだろう。
見た目は普通のドラゴン風だったので、特に正体を鑑定していなかったのだ。
あいつも普通のドラゴンに擬装していたし、強さもその程度に設定していたらしい。
もし正当なステータスだったら、俺にも撃破は難しかったかもしれん。
しまいに眷属共を引っ張り出す羽目になったろう。
だが、俺というハズレ勇者を測るための戦いにそれは無粋だったから、そいつはなくて幸いだった。
そして、またしてもマーシャがニールの手を取って家の中へ飛び込んできた。
反対側にはアリシャがぶら下がっている。
「おとーさーん、また可愛い女の人が~。
さあ!」
「はっはっは、マーシャ。
そいつは俺の眷属でニールという。
残念だけど人間じゃないよ」
俺の解説にニールはにっこりと笑って擬態を解き、強烈な金色の瞳と、妖しく光る、まるで自力で光を放つ黄金の波のような金髪を風もないのに艶やかに靡かせて披露した。
まるで妖しい魔女のようだ。
「わあ、綺麗~。
是非、あたしのお母さんに!」
「ママー!」
「何っ、もしかしてそいつも魔人なのか」
同じ光景を見ていても親子で見事に反応が別れたもんだな。
俺の眷属という事なので危害は加えられないのは頭では理解できるのだが、突然の人外キャラの登場に、やや腰を浮かし加減にして構えているカイザ。
「ああ、いや魔人じゃない。
大精霊ノームのところにいたドラゴンだ。
ちょっとイレギュラーでな、俺の眷属になったんで人化させている」
「はあ? 人化ドラゴンだと?」
怪訝そうな顔をして、そいつと俺の顔を見比べるカイザと、例によって残念そうな顔のマーシャ。
「そうかあ、またお母さんにはなってくれない人なのかあ、残念」
「ああ、正しくは人じゃあないんだけどな」
一応は訂正してやっておいたが、すでにこの子達にはフォミオママという人外の頼れる者がいるからなあ。
その観点から言うのであれば、こっちのママの方が遥かに人間に近い感じなのだ。
少なくとも見かけだけは。
「ふふふ、これはまた可愛い子達だこと。
私も人間の子供は嫌いじゃないですから、ドラゴンでもよいというのであれば、添い寝くらいならいつでもお付き合いしますよ。
あと、子守歌や絵本読みなんかも得意な方なのです」
カイザの奴が「また子守りの得意そうな奴が来たな」というような顔でニールを検分していた。
今回は子供が多くて、しかも行く先が王都だからなあ。
子供会の引率は絶対に多い方がいいのだ。
あとシャーリーの奴も暇だったら案内人として招集をかけてみるか。
泉達が暇だったら呼び出してもいいんだけど、シャーリーは生まれた時からの王都の住人だから年季が違う。
泉達も子供達とは村祭りで顔馴染みになった事だし。
同行の子供達が集まってきて外から呼んでいる。
ビトー行きからの付き合いというか、元々マーシャやアリシャとよく一緒に遊んでいたグループの子達なのだ。
子供は全部で九人、それに今回はもちろんフォミオも一緒に行く。
というかフォミオこそ絶対の必需品なのだ。
本来なら、ニールなども従魔証がいるのだろうが、こいつは人間風のスタイルで正規の冒険者証を持っているのでまったく問題ない。
カイザを入れて大人は四人だ。
この子達は、街での行動について基本はよく躾けておいたので、そう好き勝手に蜘蛛の子のように駆けていってしまわない。
元々、生まれたての蜘蛛や蟷螂の子が散らばっていくのは、生まれた瞬間に兄弟と共食いの試練が待っているため、いきなりで五分五分の戦闘をしたくないからで、村の子供達はそうではないので。
蜘蛛などは、美味しい七面鳥撃ちの餌などその辺にゴロゴロいるのはDNAが知っているので彼らはそうするだけだ。
生憎な事に、いくら辺境の村人といえども、そこまでの試練は記録的な大飢饉でもない事にはそうそうありえないはずなのだ。
そういや大飢饉といえば、ごく最近そういう事件が起きかけていたような気もするな。
俺が強引にスキルで地域丸ごとピンチを粉砕してやったけど。
もう危ないったら、ありゃあしない。
まったく世の中は油断も隙もないな。




