3-51 飲んで地固まる
「待て、それは本当なのか?
あのランドル将軍って奴の仕業か?
何の訓練も無しに、いきなり戦場に即日出したのか」
「うん、あのランダバ将軍が、もう本当に怖かったよう。
それも毎日毎日」
何か違う物になってしまっている名前の、あの勲章野郎。
アホか、どこの物語でも勇者を簡単に失わないように、多少は訓練してから戦闘に出すわ。
スパルタにもほどがある。
「こんな物にビビっていて魔王を倒せるか。
毎日魔物のランクは上げていくからな、死にたくなかったら戦えって」
よし、今度あの将軍は殴る。
絶対にタコ殴りにしてやる。
姿を隠す特殊アイテムをどこかで探そう。
その程度のアイテムだったら、ノームの奴とかが宝物庫に隠し持っていないだろうか。
「そしたらね、そしたらね。
斎藤さんが酷いんだよ。
あんたは最強の勇者なんだから、メソメソしてないで戦えって。
そうしないと、あたしら全員やられちゃうからって。
それは確かにその通りなんだけど、怖いものは怖かったんだもの。
うええええ」
言っちゃったのね、あんた。
そして、その状況を見かねた、この妹命の姉が連れて脱走したわけだ。
だが、斎藤女史も俺の冷ややかな視線は完全に無視して酒の勢いで言い返した。
邪魔な巨乳姉のアクセサリーを纏ったまま。
「だって、しょうがないでしょ。
特に来たかった訳じゃなかったのに、もう異世界へ来ちゃったんだから。
まあ、あたしも結構言い過ぎちゃったけどさ。
だって、元からこういう強気な性分なの。
悪気とか特になかったのよ、ホント。
えー、だからごめん」
「ううん。
結局城を飛び出してから狙ってきた奴とか、仲間を狙っていた奴とか、やっつけまくったんだもん。
本当はやれば出来る事だったの。
あの強い魔人達まで、もう何体も倒しちゃったし。
どうせ命懸けになるんだから、本気でやれば出来た事なんだから、本当はやらなくっちゃいけない事だったの。
あたしもごめんなさい」
それから、よくわからない展開になった。
酔っぱらったままのお姉ちゃんの方は、何か訳のわからない事をずっと叫んでいたし。
何か今、「ハズレ勇者馬鹿野郎」とか言っていなかった?
当事者二人も、「麦野の野郎、あれだけ戦えるくせに荒城なんかに置いて行かれやがって」「うん、そうそう、そうだよね」とか!
ねえ。
それは、それだけは、俺を荒城に置いていった一団の一人であった、あんた達だけは人として絶対に言っちゃいけない事なんだと思うのだけど⁉
シャーリーは頃合いを見て、さらに追加で酒を飲ませていたし。
もうこの場で、とことん吐き出させるつもりか!
おい、テキーラ風の酒の大瓶がもう何本も空っぽじゃねえかよ。
「おい、それ以上飲ませたらヤバイだろう」と言って止めようとしたら、シャーリーは俺が分けてやったエリクサーを取り出して手の平に乗せてニッコリと微笑んだ。
俺もそれを見たらゲンナリして、もうどうでもよくなった。
これだからSランク冒険者っていう奴らはよ。
「馬鹿馬鹿しい、なんだか無性に馬鹿馬鹿しいぞ」
「じゃあ俺達も飲もうぜ、カズホ」
そう言って楽しそうにグラスを差し出したハリーがいる。
さして飲めないくせに今日も飲む気満々なんだな。
まあいいか。
実を言えばこのハリーは俺と同じ歳なんで割と気が合うし。
「おう、もう飲むか」
当事者の女の子達はバカ騒ぎしているし、それを生暖かく見守っていた他の保護者気分の連中も酒に手を付けだしたので、他の冒険者連中も楽しそうに飲みだした。
今まではSランクのリーダークラスが一切酒に手をつけなかったし、ギルマス・サブマスにラミアさんまでがじっと騒動を見守っていたので、彼らも遠慮していたようだった。
リーダークラスが杯に手を伸ばし出したので、若手の皆も安心して飲みだした。
「ええい、絶対に日本に帰るぞー」
「そうだ、そうだ。
日本に帰って、いい男を捕まえるぞー。
こっちの世界の男はやっぱり駄目だあ。
ついでに勇者の男どもは、もっともっともっと駄目駄目だあ」
もはや手遅れなくらい酔っぱらっている佳人ちゃんと斎藤さん。
姉の方もそう変わらないのだが、あの二人、特に佳人嬢は初酒でいきなりテキーラ相当をビールジョッキで一気飲みして、更に追加をダバダバと入れているからな。
まあ急性アルコール中毒で死んだって、多分エリクサーで復活させられるだろうから、俺ももう止めない事にした。
その道中がどんな気分なのかまでは保証できないが。
斎藤女史も、佳人ちゃんと仲良く肩を組んで弾けていたし。
まあいいのだけれど。
翌朝こいつらの面倒をみるのは俺の仕事じゃねえんだしな。
回復薬やエリクサーだけは追加で多めに渡しておくとするか。




