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3-48 再会の勇者達

 おおむね準備が終わった頃合いに、泉から通信が入った。


「一穂、全員参加してくれるって。

 もう支度出来ているから迎えに来て」


「そうか、早いな。

 さすがは泉だ。

 じゃあ今から行くよ」


 そして歓迎会の支度を請け負ってくれている若手のリーダーの奴に声をかけた。


「じゃあ、女の子達を迎えに行ってくるから後は頼んだぜ」


「お任せを!」


 大仕事が終わってギルドにも大金が入ったので、皆も浮かれている。

 こんなでかい仕事(ヤマ)は滅多にないだろうしな。


 パーティ用に並べてあるテーブルに取りついていたフランコから声がかかる。


 ハリーは役所へギルマス代理で出かけているパウルに代わって報告書のまとめをやっているらしい。

 まあ適材適所ってとこかな。


「カズホ。

 このあたりに、もう少し酒が欲しいから、手持ちの中からいいのを出せ」


「あいよ」


 たぶん、あの辺に自分が居座る予定なのだろう。


 俺は指示された場所に酒をガンガンにびっしりと並べ立てると、盛り上がる彼らに後を任せ王都へマルータ号を飛ばした。


 マルータ号は、待ち合わせ場所に決めた王都の外れに着陸して、参加者の皆を迎えた。


「やあ、みんな久しぶり」


「おう、元気してたか、カズホ。

 今日はそのう、な」


「ええ、師匠もよろしくお願いします。

 ちなみに、俺と再会した時とどっちが気まずい?」


 さすがに人間の出来た師匠も苦笑して、俺の腹を指で小突きながら答えた。


「むろん、お前に決まっている。

 あの置き去り事件は、俺としては一生分の恥だった」


「だよねー、じゃあ細かい話なんか気にしない気にしない」


 俺は若年勇者の引率者相当である大将相手に、あの狂おしいほどに思えた自分の絶望を強引に笑い飛ばし、皆を飛空馬車に収容して飛び立った。


 夕暮れの王都の醸し出す、日中よりも些か淡い幻想的な姿は、また一際美しい情景ではあったのだが、ともすればそれは魔人魔獣の第一攻撃目標となりかねないような危うさもまた内包していたのであった。


 それをなんとも言えない気持ちで見下ろしながら、マルータ号は王都から六百キロ先のビトーを目指し、ぐんぐんと速度を上げていった。


 そしてほどなく冒険者ギルド前の道に降下した。


「へえ、これがここの冒険者ギルドかあ。

 まるでビルみたいで、ながぼそっ。

 王都の冒険者ギルドはプチパレスみたいな感じだよね」


「へえ、そいつは知らなかったな。今度見学に行こうっと」


「ようこそ、ビトー冒険者ギルドへ。

 さあ、勇者の皆様。

 会場はこちらですよ」


 ギルドの建物の中へ入り、ラミア女史に挨拶されて促され、全員少し腰の引け加減に二階のパーティ会場へと上がっていった。


 皆は目で宗篤姉妹を捜していたが、彼女達が笑顔で若手の冒険者達の相手をしながら準備を手伝っているのを見て、思わず胸が詰まったのかのように無口になった。


 そして、すかさず一人進み出た男前の師匠が彼女達に声をかけた。

 やっぱり貫禄だな。

 他の人間ではこうはいかない。


「采女、佳人。

 俺だ、国護だ。

 あの時は、いろいろ行き届かなくて悪かったな」


 別に師匠が悪いわけではないのだろうが、彼は二人に対して開口一番にそう言って頭を下げた。


「い、いえ。

 頭を上げてください、国護さん。

 あなたは何も悪くないし、私達が勝手に王都を飛び出したんですから」


「だが俺達にも、もう少しなんとかできたように思う。

 皆も同じ気持ちだ。

 王国は最強と名高いお前達にばかり負担をかけた」


 だが、俺はポンっと師匠の肩を叩き、ついでに軽口も叩いておいた。


「そうそう、お蔭で俺は二回も助けてもらっちゃったんだし、今回の仕事も無事に終了した。

 みんなにも聞かせてやるぜ、宗篤姉妹の大活躍をよ。


 いやあ、参ったね。

 前回はザムザと俺の七面鳥撃ちにも等しい絶望的な対決で、今回なんか空の超大型雲魔獣と地の溶岩大魔人の挟み撃ちよ。

 さすがにハズレ勇者の手には余ったわ。

 何しろ、あの大精霊ノームが悲鳴を上げてダンジョンごと逃げ回っていたんだからなあ」


 俺はカラカラと笑い出したが、皆は呆れかえっていたようだ。


 うーん、そこの勇者陽彩よ。

 多分お前だけは呆れかえっていては絶対に駄目だ。


「いや、そこは絶対に笑うところじゃないと思うのよ、オ・ジ・サ・ン」


 可愛い女子高生からビシっと厳しい突っ込みが入った。

 今度はハズレじゃなくてオジサン呼ばわりなのか。


 そっちの方が俺のマインド・ポイントを確実に削れそうだ。


「え、そりゃあないと思うのだが。

 ちゃんといい御土産をもらって帰ってきたじゃないか」


「ああこれの事ですね、ありがとうございます。

 もう王様からいただきましたよ」


 彼の胸からは、ミスリルらしい細身の鎖で下げられていた保護カプセルに収められたあの鉱石が既にある。


「あれ? ナナ、じゃあなかったビジョー王女はまだ王都まで帰りついていないはずだろう」


「あれくらいの大きさの物なら特別に魔導で送る方法もあるのだそうです。

 ビトーにある、その魔道具のある貴族の家から王城へ送られてきました」


 なんとまあ、この世界にはそんな物まであったのか。

 もしかしたら、空間移動術のような物が世界のどこかにはあるのかもしれないな。


 もし手に入るのであれば、そいつは是非とも欲しいもんだ!


「ま、とりあえず、俺達は全員生きているんだ。

 再会を祝って乾杯しようぜ」


 国護師匠もそれには異論がないようで皆にグラスを取るように促し、駆け出しの若い冒険者が辺境都市の冒険者ギルドに現れた勇者の集団に憧憬の眼差しを向けながら、お酒を注いで回っていた。


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