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3-46 辺境冒険者ギルド

「ギルマス、忙しそうなところを悪いんだが、俺の紹介で三人ほどうちのギルドに入れたい」


「ほお、それはまた。

 君の事だ、どうせ普通の人間とか真っ当な経歴の者ではないのだろうね」


「ご名答、二人は王都からの脱走勇者で、一人はそこにいる俺の眷属になったドラゴンだ」


 ギルマスは書類から目を上げて、ちらっと彼女達に視線を向けた。


 やや後ろめたい状況にある宗篤姉妹はドキっとしたらしいが、うちの新眷属は元の派手な人化姿に戻り、金色過ぎる人外のオーラを全開にしてニコっと微笑んだ。


 そして、せっかくの御披露に微塵も動揺しない可愛げのないお方は書類に目を戻した。


「いいだろう、無条件で認めよう。

 パウル」


「なんだい、ギルマス」


 こちらも、ナナにサインさせた十数枚の書類を逐一チェックしながら、ギルマスの顔も見ずに訊き返した。


「今夜は彼らの歓迎会をするので、準備を頼むよ。

 今日はジョナサンがいないのでね。


 街の役所に届ける分の書類を持っていきがてら、下のフロアにいるはずのラミアに声をかけて、皆にも周知させてくれ。

 今は大きな仕事は入っていないから皆も集まりはいいだろう」


「承知した」


 書類の確認を終え、短く返答したパウルはトントンっとそいつを揃えて、茶色をした如何にも書類を入れる専用といった趣の革製のバッグに詰めた。


 そういった、まるで自動で調理されていく自販機のハンバーガーか何かのように無抵抗に進んでいく事態に、激しく戸惑った采女ちゃんが慌ててギルマスに問い質した。


「あのっ、いいのでしょうか。

 私達って王都から脱走した、現在指名手配中の御尋ね者なのですが!?」


「別にあなた方が犯罪を犯した訳ではあるまい。

 むしろ君達を承諾もなしに、帰す当てもない異世界から身勝手に誘拐してきた王国の方が犯罪の当事者なのだが」


 あっさりと正論を返し、再び書類に向かうギルマス。


 そういうやり取りの間にも書類の山の高さはまったく変わらずに、うず高く積もっており、書類仕事が管理者の敵である事実はこの世界でも何も変わらないのだという現実を、異世界の人間にも自然に知らしめる。


「でも本当にいいのですか。

 王国からも魔王軍からも追われる私達にとってはありがたい以外の何物でもありませんが、あなた方にご迷惑がかかるのでは」


 するとギルマスは苦笑いしてようやくペンを置くと、両手を組み合わせて肘をつきながら、笑顔で彼女達の必死な表情に向き直った。


「このビトーはね、ただの辺境の街なのですよ。

 芸術にも溢れ、ここでないと出せない産物も多く、辺境の民から見れば憧れの街だ。


 しかし、ここの冒険者ギルドがそれほど素晴らしいかというと、そうでもない。

 かくいう私も訳ありで、王都から左遷して送られた身なのです」


 そう言ってギルマスは立ち上がり、うっかりといつもの調子で歩こうとして鎖に足を取られて転びそうになったので、その展開を予期していたものか、さりげなく傍に寄っていたパウルが支えた。


 その自然な動きを見るにつけ、こういう展開はよくあるものらしいと想像したので、悪いが俺はそれを見て笑いを堪えていただけだった。


 その失笑に対して少し眉間に皺を寄せながら、ギルマスは話を続けた。


「勇者がこの世界に現れた時も、王都のギルドならば勇者を擁する事もたやすいが、うちのような地方の冒険者ギルドに回ってくる事などまずない。

 そこのハズレ勇者も王が放逐したからこそ、私にスカウトされてここにいる。


 勇者なる者が自分のギルドに所属してくれるのであれば、多少の事はどうでも構わない。

 それが地方の冒険者ギルドのギルマスの偽らざる本音なのですよ、可愛いお嬢さん方。


 勇者三人が所属する辺境の冒険者ギルド、実に素晴らしい響き以外の何物でもありませんな。

 たとえ、全員が問題を抱えた訳あり勇者といえども。


 ……私のように辺境に追われた元公爵家の人間にとっては特にね」


 最後の言葉は小さな呟きであったが、ナナには聞こえたものらしく、瞳に動揺を浮かべその美少女の面差しに陰りを見せた。


 こいつも本当の事はよく知っているのだろう。

 自分の従兄弟の事なのだしな。


 最初の時の反応は、やはり子供の八つ当たりに近いものなのだな。

 それと、あまりにも理不尽な運命に何一つ反論もせず、家を追われて大人しくこんな地方に引き籠っている身内に対する苛立ちもあったのではないだろうか。


 もしかしたら第七王女に過ぎない彼女を、昔はよく構って遊んでくれた大好きな公爵家のお兄ちゃんだったのかもしれない。


「でも本当に大丈夫なのでしょうか。

 あなたに御迷惑がかかるのではないかと思うと」


「なあに、大丈夫ですよ。

 そこに突っ立っている、私の従姉妹である第七王女様が父親に言い付けるなどの蛮行にさえ及ばなければ。

 ねえ、ビジョー姫」


「う!」


 痛いところを突かれて眉を顰めたナナ。

 もしかしたら親に対するポイント稼ぎに宗篤姉妹を売る算段だったのか?


 当然、そこを攻めない俺ではない。


「なあ、この子達が助けに戻ってくれなかったら、お前も結構ヤバかったんだがなあ。

 命の恩人を売るのか?

 お前、本当に悪いやっちゃな」


 そこからすかさず援護射撃をくれるシャーリー。

 まだ道中の気分が抜けずにナナを弄りたいらしい。

 せっかく同じ年頃のお友達になったんだものな。


「そうですよ、姫。

 脱走してからだって魔人と戦ってくれている素晴らしい勇者さんに向かって、それは人としてどうなのでしょうかね」


 続いてリーダーのパウルを先頭に男三人衆もそれに習った。


「姫、王族たる者が、そのように無情ではいかん。

 お父上は立派な王であらせられるぞ」


「そうそう、やっぱり人間っていうものはなあ、身分の上下や貧富の差などに関わらずハートって奴が大切なんだぜ。

 むろん、筋肉も大事なのだがな」


「姫よ、共に冒険せし我らの心、しかとその胸に刻まれよ。

 我が祖国、ヨーケイナ王国の王族に人としての誇りあれ」


「その姉妹は我をも倒した最強の勇者姉妹、その彼女達に王族が不利益を与えるとは、やはりヨーケイナ王国など笑止千万なり」


 大冒険を共にしたパーティメンバーの皆から人の道を説かれた上に、とうとう元魔王軍将軍のザムザにまで口がさなく言われてしまった王女ナナ。


「わかった、わかったわよ。

 言わない、父には言わないで黙っておくからもう許してよ。

 みんな酷いよ、一緒に冒険した仲間でしょ。

 その子達の事を父に言いつけるなんて別に言ってないじゃないの」


「ならいいのさ。

 ナナ、いやさビジョー王女。

 今度また会ったらよろしくな」


「まあね。

 王都が危なくなったら、あんたにも応援要請を出すからね」


「まあ、お前さんからの応援要請なら受けてもいいぜ。

 俺を捨てて荒城に廃棄していった王国からの要請なら死んでも受け付けないがなあ」


 すると宗篤姉妹がクスクスと笑っていた。


「君、まだあの城に置いて行かれた事を根に持っていたのねえ」


「いいじゃないですか。

 王都では大活躍して王様にも力を認めさせて、お金もたくさんもらったんでしょう?」


「それとこれとは、まったく話が別なの!」


 彼女達の高らかな笑い声をギルマス執務室に響かせて、今回のミッションは無事に終了と相成った。


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[一言] 「口がさなく」ではなくて「口さがなく」ですよ。
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