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3-45 元通り?

「おーい」


 俺はマルータ号の窓を開け、彼女達に手を振った。

 彼女達も同じく手を振り返しながら、すっと一瞬で寄せてくれた。


「この鉱石、本当に凄いわ。

 もう佳人ちゃんもスキルの威力が信じられないくらいに上がったみたいだし」


「お姉ちゃんも凄く速かったよ。

 それに日本に帰るまで絶対に死ねないもん」


「でもどうなっているの、あの魔人や魔獣共は。

 あなたが使役しているのね。

 それにあの数」


「ビックリしたよお、あたしが倒したはずのザムザが大増殖しているんだもん。

 もう人の世は終わったのかとか思って、最初は観念しちゃった」


「ははは、びっくりしたかい。

 ああ、しかし今回はヤバかったなあ。 

 救援があと十マイクロセコンドほど遅かったら、あの超雷撃を食らって行動不能になり、全員が大ピンチだったんじゃないか?


 おーい、ノーム~。

 生きているかあ。

 というか、『俺の』大切な宝物庫は無事なのか?」


 だが地の底からは、地獄の底から大魔王が叫ぶみたいな感じの大怒号が返ってきた。


「じゃかあしいー、この大馬鹿者めがあ。

 ちったあ限度という物を弁えんかあ。


 なんという暴れっぷりなのじゃ。

 周りの地形がもう滅茶苦茶じゃあ。

 わしが長年かけて整備した、割と気に入っておった風景だったのにい」


「あっはっはっはっは。

 そいつは悪かったな。

 でもいいじゃないか、ある意味で元通りになったんだぜ」


 掘り返され、抉り取られた地形にはゲンダスが放った大量の水が流れ込み、広範囲に渡って昔のように湖ができてしまっていた。


 まだわずかに湯気を放っている巨大な人工の湖。

 一体どれだけ激しい消火活動であったものか。

 ゲンダス達、そして他の眷属どもも本当にご苦労さんだ。


 俺は自分の胸から腹にかけてそっと何度も撫でながら、改めて眷属魔人どもに感謝と慰労の想いを伝えた。


 この場所に関しては、元々の地形はこうだったのだから俺としては別に構わないというか、むしろ歓迎なのだが。


 ここに湖が無くなっていたのはノームの趣味だったのか。

 ほぼ、大きな箱庭遊びのようなものだな。

 まあ盆栽みたいなものだと思えば、長生きな奴には向いている御遊びなのかもな。


「まったく、これだからハズレ勇者と関わるのは嫌なのじゃ。

 ハズレ勇者の眷属×元ハズレ勇者である魔王の眷属の戦いの結果がこの有様かい。

 まあ、そうは言ってもチョコは欲しいのだから、また悩ましいのじゃがな」


 ああ、そう言われてみれば、魔王の手下バーサス俺の手下っていうのは、そういう図式になるわけか。


 知るかよ。

 俺達はどっちも召喚されてこなければ、この世界にはいない存在なんだからな。


 ある意味では今代の魔王の存在も、このような激しい黙示録の惨劇も、王国による勇者召喚さえ行われなければ有り得ないものなのだから。


「じゃあノーム、世話になったな。

 ちなみに俺はここに湖がある方がいい派だ。


 ここは俺の湖畔別荘地に認定するぞ。

 俺がこの世界で生きている間は湖を所望する。

 今度、夏には子供連れでキャンプに来ようっと」


「考えておく。

 人の一生など些末な時に過ぎんのでな。

 付き合うのも一瞬の刹那の時よ」


「おやまあ、さすがは不滅の大精霊様の言う事だけはあるな。

 じゃあ俺達はビトーに戻るわ」



 そして、俺達はマルータ号に乗ってビトーの街へ今度こそ無事に帰還した。

 俺は宗篤姉妹も一緒にビトーの街へと連れ帰ったのだ。


「あのう、あたしらって一応お尋ね者扱いなのですが、普通に街へ入ってもいいのでしょうか」


「この魔物溢れる御時世に、冒険者ギルドには王国もそうそうは手が出せないよ。

 何、問題児を一人抱えるも三人抱えるもそう変わりゃあしないのさ」


「なんか無茶を言っている人がいるのですけれど」


「でも、お姉ちゃん。

 身分証明書は欲しいよお。

 次に行く場所は相当厄介な場所だって大精霊様が言っていたじゃない」


「まあ、そうよね」


 おそらくは彼女の脳裏には、地球にかつてあった、あるいは現存する数多の独裁国家の国名が浮かんだことだろう。


 今回はいろいろと支度を持たせてやれるのでよかったことだ。

 そして、俺達はビトー冒険者ギルドのオフィスビルの玄関を潜った。


「ただいまあ、今帰ったぜえ」

「あら、早かったのね」


 出迎えてくれたのは、珍しく机の上で仕事をしていないギルマス秘書のラミア女史だ。


 他にはカウンターで客の応対をしていたり書類仕事を片付けていたりする受付嬢達だけで、サブマスのおじさんの姿も見かけない。


 今日は彼女がサブマスの代わりにフロアに立っているのだろう。


「あれ、サブマスのジョナサンは?」


「ああ、彼なら今日は末の娘が熱を出したので、看病のために休みよ」


「また子煩悩なお方を一人発見」


「まあね。

 彼は結婚するのも少し遅かったし、いろいろあったから子供は可愛いのよ。

 ギルマスなら二階にいるわよ」


「はーい」


 だが二階に上がっていった俺達を待っていたのは、かなりくたびれた様子のギルマスだった。


 いつものパリっとした元公爵子息の迫力は、まるでそれすらも王都へ置いてきましたとでもいうように影を潜めていた。


「ど、どうしたのさ!」


「ああ、別にどうってことはない。

 ちょっと仕事をさぼり過ぎたのでラミアに監禁されているだけさ。

 まあいつもの事だから気にするな」


「そ、そうだったのか」


 俺とシャーリーとナナは、彼の足に付けられた金属製の枷と、それと繋ぐためにかなり重量のありそうな机の脚に特別に付けられたらしい、鎖止めのごつい金具の間を繋いでいる太い頑丈そうなミスリル製と思われる鎖に目が釘付けだった。


 だが、ここで突っ込んだら負けだと思ったので、誰もそれについては言及しなかった。


「この早すぎるタイミングで帰ってきたという事は、任務は無事に完了したという事でいいのかな」


「ああ、ギルマス。

 報告書はまた提出する。


 ビジョー姫、ここに任務完了という事でサインをお願いしたい。

 残りの支払いに関する請求書にもサインを。

 それからビトーの領主に提出する税金に関する証明にもサインを。

 それから……」


 いきなり事務仕事モードに入ったパウルに、わたわたと言われるままに数字だけ間違っていないか確認して、ナナは次々と書類にサインをしていった。


 パウルって、こういう仕事もきちんとこなしていけるから凄いんだよな。


 多分フランコだと脳筋過ぎるので、このチームで仕事をするのならパウルがいない時はハリーあたりが代行するのだろう。


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