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3-43 魔人再び

 だがマルータ号が飛び上がる前に大地が激しく揺れた。


「何だ。

 どうした、ザムザ101。

 大きな地震か何かか」


「いや、主よ。

 これは魔人が現れたのだ。

 これは巨大な溶岩の魔人、マーグの気配だな。

 奴は地下に潜っているので、直接あやつへの攻撃はできないぞ。

 主よ、どうする。


 あれを放っておくと、弱った今の状態の力が少ないノームの迷宮は貴重な宝物庫ごと失われてしまう可能性があるが」


 それを聞いたナナが慌てて喚きだした。


「冗談じゃないですわ。

 そんな事になったら、せっかくの功績が帳消しどころか台無しです。

 ハズレ、あんたのせいなんだから何とかしなさいな」


「ちっ、これはまた面倒な」


 せっかく作った大精霊の伝手が失われるのも困るし、あの宝物庫の中身にも未練がないとはいわない。


 あの中に日本への帰還に役立つアイテムがないとは限らないのだ。

 王様から見たら何でもないようなものが、それに該当しないなど誰にも言えんのだしな。


 しかも攻撃してきているそいつが、またこのような事を言っていやがるし。

 地の底から響いてくる不気味な声が、あたり一面を大気ごと負の力に澱ませていく。

 これは魔人の瘴気か、もう面倒くさいな。


 俺は自分が魔人に卑怯な闇討ちをするのが好きなのであって、自分が魔人から不意打ちを食らうのは趣味じゃあないのだが。


「くく、見つけたぞ、ビジョー王女よ。

 王国に放ったスパイどもから、お前がその鉱石を捜しに来たのは知っていたので、魔王様の命を受けて探しに来てお前達がノームの聖域から出てくるのを待っていたのだが、首尾よく鉱石は手に入れたようだな。


 そいつを我らに寄越せ。

 ノームめ、隠蔽していたので居場所がわからなかったが、今なら宝物庫も丸ごと襲撃できそうな按排だ」


 おっと、王国め。

 相変わらず情報が駄々洩れなんじゃねえか。


 俺はジロっとナナを睨み、自分が魔人に付け狙われていた事を知った衝撃に身を硬直させた状態でいるポンコツ姫に文句をつけた。


「ザルな諜報管理で、こんなヤバそうな魔人を引き寄せやがって。

 こいつは、お前が仕事を終わらせるのをストーカーして待っていたんじゃねえか、この間抜け」


 だが、その罵声に石化が解けたナナもまた文句をつけ返してきた。


「何よ、このハズレ。

 あんたが無茶な事をするから、王国の宝物庫が大ピンチじゃないの。

 どうしてくれるのよ」


「うるせえ、今考えているよ」


 多分、こいつ一人じゃああるまい。

 他の仲間はどこにいる?


 今までに複数の魔人相手に戦った経験はない。

 ちょっと、こっちが不利だな。


 今日、万倍化の能力はあとどれだけ使えるのか。

 本日は二回も使っちまった。


 まあ一日に複数回のスキルを使える事が確認できているのは、心理的に楽といえない事もない。

 もしかしたら、今までよりは分がいいのかもしれない。


「よし、一旦空へ逃げるか。

 状況を見極めようぜ」


 だが、飛び上がったところで大地の底から苦しそうなノームの声が聞こえる。


「今、魔人が直接ダンジョンに侵入した。

 今の弱っている力では防ぎきれんし、また逃げきれん。

 なんとかしろ、このハズレ勇者め」


「あっちゃあ、マーグの奴め。

 先に向こうから攻めるのか!

 という事は、こっちには」


 次の瞬間に凄まじい衝撃がマルータ号を襲い、俺達はマルータ号ごと吹っ飛ばされた。


 ザムザの絶対防御はマルータ号だけでなく、その中の乗客まで及ぶので助かった。

 そうでなければ、俺以外の人間が全員ミンチに変わっていただろう。

 

 俺達はマルータ号ごと、叩きつけられたラグビーボールのように大地を蹴って跳ね飛んで、最後に山の斜面に叩きつけられ斜面に半ばめり込んだ。


 俺達全員が、見事なまでにミキサーの中の野菜の気分をしばらく味合わされちまった。


「きゃああ」

「ぐええ」

「うおっ」


 ザムザのお蔭で体は無事だったのだが、突然襲った激し過ぎる衝撃に、車内をゴムボールか戦車内に飛び込んだ銃弾の破片のように跳ねまわって、皆が動けなかった。


 何かの攻撃を食らったものらしい。

 それはまるで、ワイヤーか樹木に引っかかって山肌に叩きつけられたヘリの如しの有様だ。


 いやあ、これが日本のヘリ事故なら全員死亡確定の大捜索大会の始まりだ。

 昔、地元の大企業のヘリが消息を絶って、各地の消防団が総出動して捜索した事件があったが、やはり山肌にぶつかって墜落していて全員見事に死亡していたな。


 幸いな事に、本日は怪我人一人いないわけなのだが。


 よく見たら、ぶつかってきたらしい物体は、それはもう単にでかいという表現ではあまりにも足りなさ過ぎる、マルータ号の何倍もありそうな巨大な氷の塊だった。


 なんで、こんなところに。

 まるで空から巨大な雹でも落ちてきたかのような……という事は!


「なんだ、ありゃあ」


「あれが魔獣なのかよ、それにしてもでかい……」


 それは大空のスクリーンの内、かなりの面積を占めていた灰色の大雲のようなものだった。

 こいつが、あの特大雹をぶちかましてきたのかよ!


 一発だけであの威力だって?

 冗談じゃねえぜ、あんな物で狙撃してきやがったとは~。


 そしてザムザ1からすぐに警告が飛んできた。


「あれは魔獣ライデン。

 巨大な雲の魔獣よ。

 主、気をつけよ。

 あれは強大な雷気を操るもので、まともに雷撃を一発食らうと我でもしばらくは動けぬ」


「マジか、そいつはやべえな。

 なんとしても戦闘不能だけは避けたいが。

 へたすると全員生け捕りにされちまいかねん」


 そんな事にでもなったら、全員生きたまま魔王城の生きたオブジェと化す運命かもしれない。


「おい、こっちへ来るぞ」


 そして下からも救援要請がやってきた。


「おい、ハズレ勇者。

 魔人マーグに追いつかれ、完全にダンジョンに入り込まれた。

 聖域の内部が半ば溶岩地獄と化しておる。


 奴は宝物庫を目指しておるぞ。

 マズイ、こやつは地中で非常に強い魔人じゃ。

 今この聖域が弱っている時には相性最悪の魔人じゃな。

 早く助けに来ぬか」


「もうちょい待ってろ。

 今救援を呼ぶから」


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