3-42 待ちに待った力
「うわあ、早々と仕事が達成出来たわー。
これでやっと私を軽んじたお父様や、政略結婚の道具に過ぎないと馬鹿にしていた兄上達を見返してやることができるわあ。
やるじゃないの、ハズレ。
それにさっきの能力は何よ」
俺は無言で首を竦めた。
俺の能力はエリクサーの件で王様にはもうバレているしな。
本来であれば、王族のナナの前で見せるべきものではないのだが、今更だから気にせずにやったのだ。
それに、このスーバイの鉱石は、おそらくここでなければ万倍化は無理な代物だったので。
「ようし、見事に後金ゲットでバーゲン買いまくりだあ」
シャーリーも歓喜しているし、俺も早く帰れそうで何よりだぜ。
「ああ、この精霊石は、お前らにも一つずつ貸与ね。
普段は使わないように仕舞っておけよ。
ノームが煩いし、どこかの王国や貴族、悪党なんかにバレたら命ごと狙われかねんぞ。
あと、俺がいっぱい持っているのは黙っていてくれ。
これは俺の眷属どもに使わせる予定なのだからな」
「ああ、そうしよう。お前らもな」
「おう」
「了解した」
「へえ、これはいい物を貰っちゃったなあ」
ある日突然、こんなとてつもない物を持たされても誰もビビっていないのが笑いを誘うな。
これがSランクの冒険者という奴なのだ。
もちろん、俺がこいつを真っ先に使わせたいのはフォミオに決まっている。
あれが俺の最強の眷属なのだから。
後の奴らは基本的に戦闘にしか役に立たない、普段はただの役立たずだからな。
「それを他の勇者達にも与えればいいのに」
なんかナナのくせに文句をつけている奴がいたが、そんな意見には従わない。
「そいつは俺の裁量だな。
仲のいい奴らには俺から貸与するさ。
だが、なんで俺を小馬鹿にしまくったあの腐れヤンキーだの偉そうな馬鹿親父どもにまで、俺が苦労して作ったこの貴重な石をくれてやらにゃあならんのだ。
裏勇者である坪根濔の姐御には絶対に渡しておかないとなあ。
国護の旦那にも絶対に渡しておこう。
ナナ、お前も王様や将軍には黙っておけよ。
さもないと、何故一個しか持ち帰らないとか文句をつけられるのはお前だ」
「ううっ、わかったわよ~。
そんな余計な事で将軍から怒られるのはごめんだわ~」
「それも全部わしの力のお蔭なのだがな。
思い切り力を吸いよってからに、すぐに元の姿に戻れんではないか。
よいか、時々チョコとか他の美味い菓子も持ってくるのだぞ」
「よく言うよ、しばらくその本当の姿でいろよな。
可愛く座敷童なんかに化けやがって。
チョコが足りなきゃ、そこにいるお前の子分であるニールに言えよ。
というわけで、チョコ運搬係としてそいつは連れていくぞ。
せっかく眷属にした、人間の女に化けられる眷属なんて便利過ぎるものを、むざむざ置いていくわけにはいかない。
まあパッと見に普通の人間には見えんのが、ちょっと難点なのだが。
その派手な風体を少しなんとかできないか、ニール。
髪と目の色と、そのドラゴン丸出しのオーラを」
「えー、そんな面倒な事を言われてもね、こっちはこれが普通なのですが。
まあ、やってはみますが。
よいしょっと」
そして次の瞬間に、そこには普通レベルの金髪と青い目をした、なんとか人間レベルにオーラを抑え込んだ女がいたが、それでも美形過ぎて結構目立つのでフード付きマントと冒険者装束にさせてみた。
「まあこれならいいか。
お前もビトーの冒険者になれ。
ギルマス特別枠待遇でな」
だが残りのビトー組の男連中がニヤニヤしたまま笑って見ている。
「お前、またそんな面白そうな、ギルマス好みの土産を」
「まあ恒例である歓迎の儀式は無しの方向で。
女の裸踊りは洒落にならないからな。
女冒険者は珍しいし、まあ何か芸でもやってもらおうか」
「また美味い酒が飲めそうだな。
立て続けのイベントでありがたい事だ」
下戸のハリーも毎回歓迎会を楽しみにしているんだな。
日本にもそういう奴はいっぱいいたよ。
こうして俺達一行は、スキルを増幅してくれるアイテムを見事に持つ事ができたのだった。
「ようし、目的は全部果たしたしな。
では鉱石の力を試してみるか。
スキル本日一粒万倍日、このお菓子の詰まったバッグを万倍化せよ」
次の瞬間には、辺りにはバッグが山盛りに散らばっていた。
「ふう。
じゃあ世話になったな、ノーム。
そいつは置き土産だから、仕舞っといて大事に食えよな」
その置き土産に元気が出たものか、ノームは元の幼女姿に戻って豪気に笑いながら見送りの言葉を言い放つ。
「なんの。
そのための力はわしがくれてやった形になるのだぞ。
ケチケチせずに貢ぎ物は随時寄越すがよい。
さすれば、お前に与えた大精霊の加護がますます輝くであろう。
ではサラバじゃ、ハズレ勇者よ」
そう言ったノーム自らが開いてくれたゲートが俺達を包み込むように広がり、次の瞬間に俺達は洞窟の入り口前に立っていた。
そしてノームが大地より生成した、苔生した岩が洞窟の入り口を塞ぎ、あっという間に風化したような感じに変化しながら植物に覆われていき、周りに木々が生い茂って入り口を隠していった。
そして地の底から響くように、俺に語りかけるノームの声が大地のスピーカーを震わせた。
「わしに会いたい時は、わしの加護に念を送るがいい。
ではサラバじゃ」
「ふう、なんとか任務終了だな。
じゃあ、ニール頼んだぞ」
「へーい」
奴はトンっと荒れ地を蹴って、一瞬のうちに蒼穹の豆粒と化した。
「じゃあ、もう帰るとするかあ」
俺は入り口を守護していたザムザ101と共にマルータ号を呼び出して、全員で乗り込んだ。