3-39 兵站は大事
しょうがないので、もう一回チョコをテーブルに山盛り積んでやり、チョコを食いまくっている幼女姿のアホ大精霊は放っておいて、俺は久しぶりに対面した采女ちゃんと話した。
「君はどうやって、このダンジョンにやって来れたんだ?
こっちは、それはもうえらく苦労して辿り着いたんだが」
「ああ、途中の旅路にて事情通で気のいい精霊を捕まえてさ、その子にここまで案内してもらったのよ。
それからさっきの腹心さんに、まあよくわからないけど多分関係者専用の裏口から直接ここへ?」
「なんだよ、そりゃあ。
くう、そういう手があったのかあ。
しまった、俺とした事が抜かったぜえ」
「えっへん」
事情を説明してくれた彼女の頭の上に胸を張っているそいつがいた。
エレと同じような精霊だが、何故かこいつは正統派妖精風の蝶々の羽根だった。
「あれ、そいつは精霊じゃあなくって妖精なのか?」
「あたいらは、ちゃんと精霊だよ。
一口に精霊と言ってもいろいろな種族はいるからね。
おやそこにいるのはエレじゃないか、久しぶりー」
「おっとお、レビじゃないの。
ヤッホー」
どうやら、うちの精霊と知り合いだったようだ。
蝶の羽を持つこいつらが絵本の妖精のモデルになった種族らしいな。
「いやあ、うちの勇者の手持ちチョコが切れてしまったな。
もうノームったらチョコ食い過ぎ~。
ねえ、そこのハズレ勇者。
チョコのお替りは貰うわよ」
こいつは最初から服を着ているな。
いや急遽彼女達に服を作ってもらったのか。
女の子的には、たとえ精霊だとしても裸にしておくのは忍びなかったものらしい。
「いや、別にいいけどさ。
お前、初対面のくせにやたらと態度がでかいな。
さすがは精霊だな。
まあどっちみち二人にはいろいろ渡しておかないといけないのだが。
ああ、采女ちゃん。
物資の方はどうだい」
もう別れてから随分と立つが、まったく補給に来ていなかったから窮乏しているだろう。
それもあって最近は物資を万倍化しまくって用意しておいたのだ。
「いやあ、もうすっからかんよ。
とにかく逃亡生活は手厳しくてさ。
いやはや、お尋ね者は辛いなあ」
「じゃあ各種ポーションと、あとこれは超希少な霊薬エリクサーだ。
もし妹に何かあれば、死んで塵になったとしてもこれで復活できるはずだ。
効果は王都の勇者どもで試験済みだから安心しろ。
念のため、君に何かあった時のために妹にも持たせておくといい。
ここのノームの力の前には絶対防御のスキルも通用しなかったからな。
他にもそういう事はまだあるかもしれない。
こいつは山ほど持っていけ。
魔法武器なんかもあるぞ。
あとほらほら、あれこれあれこれと、いっぱいあるぜえ」
俺は膨大な物資を、次から次へと取り出していき、呆れ返っている二人に渡していった。
「よくもまあ、これだけ凄い種類の物資をかき集めたわねえ。
お菓子も料理も山盛りだあ。
うわあ、この霊薬エリクサーは助かるなあ。
何これ、もしかしたら魔人の武器じゃないの。
うわっ、オリハルコン製?
これは助かるなあ。
へえ、魔法剣としても使えるのか。
雷撃剣なんかを使えそうよね。
王国から支給された武器も、もうボロボロで限界を超えていてさ。
戦闘も全部スキル頼みなのよ」
「ふっ、当り前よ。
とにかくこの世界の事だし何があるのかよくわからないので常日頃から、念には念を入れてかき集めているのさあ。
あ、希少な素材のミールの甲殻も持って行けよ。
何かに使えるだろう。
あと軍資金も底をついていないか、ほらほら」
「ああ、うん。
うわっ、なにこれ。
え、光金貨!?
何これ、こんな物は初めて見たよ。
一枚十億円相当かあ。
こんな物を五枚もどこで使うのよー。
白金貨に大金貨も、これまた大判小判がザックザクねえ」
「気にするな。
それも王様から大枚ふんだくった奴で、俺はとりあえずあまり使う予定がないから、それだけ持っていけよ。
王国から、ふんだくれるだけふんだくっただけで、もう十分気が済んだしな」
「あーそう。
じゃあ、ありがたくいただいておくわ。
先に何があるかわからないしね。
それよりも!」
采女ちゃんはキッと目付きをきつくして、そこの大満足そうな大精霊を詰問し始めた。
「そこのノーム。
もういい加減に教えてもらうわよ。
この世界からのゲートの情報を持っていそうな、次の大精霊の居場所を」
「そうね、まあ結構チョコも貰ったことだし、もう教えてもいいかもね」
それにしてもこいつ、よくも思いっきり遊んでくれたな。
まあとりあえず話だけはしておくとするか。
「それはどこにあるんだ。
というか、お前は地球へ繋がるゲートについて何か知っていないのか?」
奴は自分で作った、土というか岩で出来た玉座の上で満腹そうに微睡んでいたが、眠そうに答える。
「ああ、あたしゃ地の底に引き籠っている精霊だからね。
知っているとしたら風の大精霊フウじゃないかな。
あいつら風の精霊はいつも世界中を飛び回っているしね。
というわけなので、あたしもそいつの居場所は知らないが、奴は水の大精霊ハイドラと仲がいいので、そいつなら何か知っているかもしれない。
あいつのところへ行って訊いてみるんだね」
やっと他の大精霊の手掛かりが一つ。
玉座の上で大欠伸して微睡みかけている、その座敷童状の大精霊を俺は問い詰める。
「そいつには、どこに行けば会える?」
「神秘の湖カムイ湖さ。
それはこの国の東隣の国の、もう一つ向こうにある国の北端にある。
あそこはいわゆる独裁国家だそうだから気をつけろ。
ハイドラの奴への紹介状代わりに、お前には私の加護をくれてやろう」
「あ、それ私にも寄こしなさいよ。
もう、最初にチョコいっぱいあげたでしょ」
「はっはっは、まあよかろう」
これだけ頑張って、やっと大精霊に会えたというのに、次の大精霊への紹介状と情報だけか。
やれやれ。
帰り道探索の先は長そうだ。