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3-38 ノーム

 ついに逆上したナナが「よおし、勝つまでやるぞお」と血走った目で叫んでいたところで、タイミングよくニールが素晴らしい笑顔を見せた。


「ブー、残念でした。

 ノーム様がお会いになるそうです。

 あなた、行かなくていいんですか?」


 その突っ込みには、さすがにグッと息を詰まらせるナナ。


 はは、ナイスタイミングだ、ノーム。

 絶対にニールを通じて見えていて、わざとやっているのに違いない。


「ナナ、お前はここまでトランプしに来たわけじゃないよな」と、俺もにっこりと実にいい笑顔を見せてやったら、ナナが凄い顔をして睨んでいた。


 おお、こわ。


 俺達はまだブツブツ言っているナナを尻目に、ニールの案内に従ってマルータ号を降下させていった。


「そのまま降ろしていってください」


「おいおい、ぶつかっちまうよ。

 この下は確か野原だったぜ」


「大丈夫ですので信じてください。

 自分はもうあなたの眷属なのですよ?」


「そうだったな」


 俺の眷属になった奴は決して俺を裏切らない。

 たとえば、俺と同じ能力を持っているだろう魔王のような者に倒されて上書きされ、そのネームドにでもされない限りは。


 みるみるうちに高度を下げていくマルータ号。

 その運転手はザムザ101だから、その心は微塵も揺るがず、緩やかな一定速度で降りていくだけだ。


 そしてガツンという衝撃はなく、そのまま大地に吸い込まれていったようだ。

 窓から見ても真っ暗なので、なんだかよくわからない。


 おそらくは、さっきの場所が野原のように見えた幻影だったなどではなく、接地に合わせて地形を変えて通したのだろう。

 あるいは空間さえ捻じ曲げて。


 そいつはここの主の得意技のようだし、それくらい相手を信用しているところを見せないと会ってなんてもらえないっていう事かな。

 まあその辺は元営業のスキルで、どんっと構えていきましょうか。


 やがてマルータ号は何かホールのような場所に降りた。


 着陸場所の床は、俺の頭の中から取ったものなのか、また宇宙船の発着場みたいな感じだったのだが、周囲の情景は相変わらず岩肌で囲まれたものだった。


 マルータ号を降りて、あたりを見回したが墓場のような静けさだけが支配していた。


 と思いきや、ニールの後からついていくと、少し離れた場所で明らかに何か聞き慣れたような、しかもヒステリックな声が聞こえるんだが、これはまさか!


「だ・か・ら・あ!

 もうチョコはないんだってばー!

 それだけ食べたら上等でしょうが~」


「えー、だってまだ全然食べ足りないからムリー」


「このう」


 そしてそこにいた、古びてはいたが洒落た感じの上等な西洋風の椅子に座っていた怪しげな幼女は俺に気づいた、というか多分そいつに招かれたので俺はここにやって来れたのだが。


 黒髪で着物を着た日本人形風の、まるで座敷童のようなその姿は、明らかに勇者を輩出する日本の伝承から取ったものだろう。


 その仮初めの姿さえも、日本人勇者をからかうためのものなのに違いない。

 ただ今絶賛実施している行為のように。


 そして奴は悪戯っぽくクスクスと笑うと、そこにいた俺の知り合いの後ろから近付いているこちらを指差して言いやがった。


 さっきのトランプの件と言いい、今回もわざと会見のタイミングを合わせやがったな、こいつ。


 なかなか面倒そうな奴だ。

 王都のギルドがこの仕事を嫌がった訳がわかる気がするな。


「でもチョコのお替りは、もう来ているみたいだよ」


「ええっ」


 ノームが指差した背後へ、間抜けに振り向いた宗篤采女ちゃんに向かって、俺は無造作に「よおっ」と声をかける。


 だが、俺の突然の訪問に目を瞠った彼女は、日本での知り合いにして今も王国や魔王軍から追われる立場の彼女の味方という立ち位置である、この俺との再会の喜びなどという慣れ合いには用がないほど切羽詰まっていたらしい。


 唐突に迫ってきて、こんな色気のない台詞を吐いた。


「麦野さんっ、なんていいところに~。

 チョコ、チョコをちょうだい~」


「あいよ」


 相手は精霊の上に大が付く奴なのだからな、ここまでの状況が目に浮かぶようだわ。


 俺は収納から、ふわっとピクニックシートを取り出し、まるで気の利いたメイドやウエイトレスさんがテーブルの上にテーブルクロスを投げかけるかのように、そのまま大精霊の目前の岩肌たる地面に投げかけた。


 そして、チョコの山をそこにぶち広げると、その幼女然とした大精霊は床を制御してそのままチョコの大群を浮き上がらせ、『食卓』を作り出した。


 そして見事なスピードでチョコを消費しまくっているそいつを眺めながら、久しぶりの知り合いに挨拶をした。


「よくここを、そこの大精霊の元までクリアできたなあ」


「ああ、うん。

 外にいたあいつらの中から割と腹心っぽい感じの精霊をお菓子で買収して」


「しまった、その手があったのかあ。

 俺は三万匹ほど精霊の相手をしていたのに、思いっきり嵌まっちまった。

 やっぱり君は仕事ができる子だなあ。


 ああ、そうだ。

 君に渡しておかないといけない物があったんだ。

 まずこいつなんだが、通信用のアイテムの子機なんだけど残りが数少なくてね。


 親機は俺が持っている。

 こいつは一つでいいかな?」


「わあ、ハズレ勇者なのにいい物を持っているなあ。

 できれば佳人ちゃんのも貰えない? 

 一回はぐれちゃった事があってさ。


 あれはさすがに慌てたなあ。

 君経由でもいいから連絡手段が欲しいの」


「そうか、じゃあもう一つ渡しておこう。

 どうせ、残りはカイザのところのチビに取られるのが関の山だ。

 これをあいつらにやったって、御遊び電話か、御土産のお強請りの電話をしてくるだけだからな」


 やっと彼女達に宝珠を渡せてホッとしたというのも束の間、ノームの奴が自家製の机をバンバンと叩いている。


「おいハズレ勇者、チョコが切れたぞ、チョコが~」


「やかましい!

 だったら、さっさとここまで通せよ。

 散々中で焦らしやがって。

 うちは王家からの使者パーティなんだぞ。

 こっちも大事な用事があるんだ。

 ちょっとぐらい待てよな」


「待てぬ!

 何のために、お前みたいなハズレ勇者を特別に通してやったと思っているんだ。

 ハズレ勇者は、はっきり言って要注意な存在なんだから、本来ならここへは通せないんだぞ」


「こ、このお」


 まったく食えない奴だな。

 いや、チョコは喰いまくっているのか。


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