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3-35 勇者の力

 大精霊の聖域、今まではそういう空気にまったく気がつかなかったというか、これまでは外敵を排除するための完全なセキュリティゾーンであったのだ。


 ここはやっと庭の中に入れたというところだろうか。

 家の主に門を開けてもらい、庭木や配置されたオブジェなどを眺めながら、玄関の呼び鈴を皆で目指す。

 今はそういう時間なのだと思っている。


 門番には通された。

 だが、まだ玄関を通り応接間まで通されたわけではないのだ。

 どんな番犬をけしかけられるものかわかったものじゃない。


 そこで、俺としては出来得るだけの対応をしていくべきだと思っている。

 手にはお菓子の詰め合わせを、そして。


「エレ、俺についている精霊の加護は、どうやって見せたらいい。

 この場合のように、まだ会えていない大精霊に対して、そいつを名刺のように見せたいと思ったのなら」


 俺は堂々と相手先の玄関へ乗り込むつもりなのだ。

 そこのポンコツ娘は血筋以外当てにならない。


 そのような昔の伝手ではなく、今まで自分がこの世界で汗水たらして築いてきたコネで勝負するつもりだ。

 俺は日本でも、そのようなアグレシッブな仕事を常に心がけてきたのだから。


「そうだね。

 では君達の言葉で言うところの『加護のアクティベート』を試してみようか。

 まず、君の中の加護を感じてごらん。

 たくさんある、あれだ。


 光り輝く、暖かいその力、魂に刻まれしその刻印。

 ほら、だんだんそいつが君の中で少し熱を帯びてきただろう。

 この場所は自然体でそういう事ができる特別な力が満ちた空間なんだ。


 これはいい機会だから学習をしなさい。

 そして念じるがいい。


『俺は勇者、数多の精霊達の加護を持つ者。

 大精霊:地精霊ノームよ。

 召喚勇者麦野一穂、ここにまかりこした』とね。


 まあ、いつもの君を見せておやりよ。

 きっとノームにも楽しんでもらえる事は請け合いさ。

 そいつはあたしが保証する」


 俺は言われた通りにそう念じてみた。


 熱い。

 体の中から、まるで光が放たれていくかのようだ。


 そうだ。

 勇者は光たれ、決して闇であってはならぬ者。

 そうだろう、ノームよ。


 かつて魔王はハズレ勇者として追われ、すべてを憎み闇に落ちたのだろう。

 だが、この俺麦野一穂は違う。


 俺は闇ではなく、こういう日の差す真っ当な場所で生きると決めたのだからな。


 ノーム、ノームよ。

 そんな俺に会いたいと思ったから、門にて日本語で歓迎のメッセージを残してくれたんじゃないのかい。


 ならば、会おうじゃないか。

 だったら迎えを寄越してくれよ。

 飛びっきりの奴をな。


「カズホ、おいカズホ」


 なんだ、今一生懸命に集中しているのによ。


「ん? どうしたパウル」


「どうしたじゃない、なんだその光は」


 言われて気がついたが、俺の体から何とも凄まじい光が溢れてきていた。


 それは何といったらいいのか、俺自身がまるで電球に、あるいは発光する海洋生物にでもなったかのように体の内部から放つ、一種の霊光に満たされていくかのようだった。


「なんじゃ、これは」


「それはこっちが訊きたいが、どうなっているんだ。

 それは魔法の光とかではないな」


「うーん、精霊の加護というか、加護が俺の意思に沿って一種の信号のような物を出しているのさ。

 家主であるノームのお客様が到着したとアピールしているんだ。


 おそらく、間もなくノームの迎えがやって来るだろう。

 ノームの事だ、素直にさっさと歓迎のレセプション会場まで連れていってくれるかどうかはわからないがね」


 それを聞いたパウルが全員に宣言した。


「聞いた通りだ。

 友好的な一歩になるかどうかは相手次第だ。

 一応戦闘になる可能性も考え合わせて待機。

 ビジョー王女の警護を優先の上、必要ならカズホの各種サポートができるようにな」


「待ってパウル、待機でいいの?

 戦闘フォーメーションは取らなくていいのかしら」


「我々はノームと喧嘩をしに来たわけではない。

 本来ならば王家の血筋であるビジョー王女を全面に出してコンタクトを取るのが筋だが、ここの大精霊は好奇心が旺盛なのか退屈しているのか、度が過ぎる行動に出るかもしれん。


 おそらくは勇者であるカズホに大変興味を示すだろう。

 だからカズホもあのように自らノームの注意を引いて、交渉しようとしているのだ。


 もちろん、戦闘になる可能性もあるが、それはカズホに対する排撃行動ではなく、むしろ軽く頭をこづくような親愛の情である可能性も高い。


 我々はあくまでカズホのサポートに回り、王家の血筋の証明を求められた場合には姫に前に出てもらう事にする。

 全員いいな?」


「「「了解」」」


 そして軽い地響きと共に、そいつはやってきた。


「ほお、やっとダンジョンらしき展開になってきたな。

 俺と会いたかったなら、こいつを倒してみろってか」


 そこには、全長五十メートルにもならんとする、ドタドタと不格好に走ってくる馬鹿でかいドラゴンがいた。

 空を飛んでくれば、さぞかし勇壮な登場シーンになっただろうものを。


 しかしこいつめ、優美な細長い美しい翅を左右に広げ、明らかに空を飛ぶドラゴンというスタイルをしていやがるくせに、何故不格好に地面を走ってくるんだよ。


 さすがは地精霊であるノームのドラゴンだとしか言いようがないな。

 どうせなら迫力あるランドドラゴンが迎えに来いよ。


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