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3-34 大精霊の縄張り

 だが、その看板のあった場所を越えたら途端に世界が変わった。


 正確に言えば、まるでゲームのようにフィールドが変わったのだ。

 まさに一線を越えたという奴だ。


 狭い洞窟状の通路を歩いていただけだったのに、その看板の設置されていた場所を通過した途端に、実写映像の画面切り替えのように風景が切り替わったのだ。


 俺は慌てて人数をチェックしたが全員いた。

 よかった、空間系の分断罠じゃなくって。


「おっと、こいつは」


「これは、お前の馬車の使用許可が下りたって事か?」


「どうかな。

 それにあんな物を使ったら勿体ないような景色だ。

 自分の足で景色を楽しみたい気分だな。

 みんな、この景色を見たら疲れなんかもう全部吹っ飛んだんじゃないのか」


 その場所は、今までの岩山の通路を基調とした荒涼とした世界とはまったく異なっていた。


 広く野は緑に満ちて、花畑やなだらかな丘、木々は茂り林や森も見られるし、湖などもあちこちに見られた。

 ここはその世界の入り口を見晴らせる場所なのだ。


「へえ、さしずめ妖精の国って感じかしら?」


「ここは、地の大精霊ノームのテリトリー。

 歓迎されない者は、例え強大な魔王軍の精鋭幹部でさえ通さない。

 幾らでも改変され、侵入者に合わせていくらでもセキュリティは変わる無敵の領域さ。

 この場所へは魔王本人とて侵入するのは骨が折れるだろう。


 まあ中へ入ってくる頃にはノームは配下の精霊諸共、どこかへトンズラしていることだろうがね。

 だからザムザやゲンダスだって通用しなかっただろう。

 やっと、ここへ入るお許しが出たね。

 この聖域へ、たったの五日で来られたというのは望外の事だと思った方がいい」


 もちろん、そのエレのありがたい解説を聞けるのは俺だけなのだが。


「はっはっは、まあ頑張った甲斐はあったという事かね」


「カズホ」


 俺の話を聞き咎めたパウルが訊いてきた。


「ここが終着の地なのか?」


「さあ、よくわからんねえ。

 だが、どこかに大ボスのいらっしゃるゾーンへやってきた事だけは確かなんだが」


「気配は、ここへ来る前とそう変わらぬように思ったのだが」


 ハリーも周囲を見回しながら解せないとでもいうように、誰に言うとでもなく言葉を発した。

 彼はまだ警戒を解いていないようだった。


 賢い。

 この先も長生きできそうだな、ハリー。


「ハリー、見た目は相当変わっているが、このダンジョンの全てが大精霊の縄張りなんだ。

 あんたみたいな手練れの魔道士から見たら、今までとそう変わらないように感じるのかもしれないな」


「飛行馬車なんて出さないで、このまま行ってみましょうよ。

 ここは素敵なところだわ。

 たとえSランクの冒険者でも、そうそうやってこられないような場所よ。

 あれだけ苦労したんだし、早くここまで来れたから、まだ時間にも余裕はあるわ」


 シャーリーも楽し気に周りを見回している。


 優秀な冒険者であった両親と一緒に、世界の不思議な場所をあちこち探求して回ったのだろう。

 そう思うと、ちょっと羨ましくなるような幼少時代だな。


 一方、ナナの方は使命があるせいか、あるいは本人がダンジョンにビビりまくっているせいか、やたら落ち着きなく周りを見回していた。


 道が真っ直ぐと下っていて、いかにもこの道をやってこいと誘うかのようだった。

 まるで風景が生きているかのようだ。


 そのすべてにノームの意思入れがあるのだから、その考えもあながち間違ってはいないわけだが。


 道は舗装されていないのだが、別に石畳が敷かれているわけでもなくコンクリートやアスファルトのような物がある訳でもなく、ただ綺麗に土の道が均してくれてあって、人が二本の足で踏み締めるのに相応しく調整されている。


 歓迎するという言葉は確かであったようだ。


 この足の裏から感じ取れる、何とも言えない適度な気持ちよさのある感触だけでも、辺境の村で土木勇者をしていた俺にはよくわかる。


「どうする?」


 フランコも、今までが今までだったから警戒している感じにパウルに打診していたが、彼は悠然と構えていた。


「なに、カズホによれば大精霊は歓迎してくれているらしいじゃないか。

 このまま行ってみよう。

 あのような看板があったのだから、きっと歓迎してくれているに違いない。

 何かコンタクトがあるかもしれんのだし」


「ああ、多分な。いや、きっとあるさ」


 俺のイントネーションの意味ありげで妙な力強さを感じ取ったものか、パウルも胡乱そうな目で俺を見た。


「ほう?」


「まあ、今までの事を思えば、その歓迎とやらが何らかの『アクション』っていう事も考えられる。


 さっきも言っただろう。

 向こうもこっちもそう変わらない場所なのだと。

 こういった索敵が得意で、優秀なSランクの魔道士であるハリーもそう言ったじゃないか」


「なるほど、油断大敵っていう事か」


「だが、ここまでは入れてくれた。

 そいつは確かな前進なのさ。

 ここからが本番なんじゃないか?」


 そんな俺達の会話にチラっと真剣な目線を送ってきたシャーリー。


 あたしは油断なんかしていませんよって事か。

 さすがは筋金入りのSランク冒険者だ。


 まあここにいる人間で油断している奴なんてナナくらいのものなのだが、奴も今は例の『採血』に心がいっているようで、油断するどころではないようだった。


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