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3-27 早朝のラブコール

「いやあ、人間の慣れって恐ろしいもんだなあ。

 夕べも俺の眷属と魔物が派手にやりあっていたらしいが、もうぐっすりだったぜ」


「そりゃあまあ、あれだけ疲弊していればな。

 むしろ酒を入れたのもよかったのだろう」


 それもあって、夕べはパウルも酒を飲む許可を出したのだ。

 まあ本人も飲まずにはいられないような気分だったろうしな。


 朝起きたら、静かな、まるで今にも小鳥が囀りそうなほどの平穏な静寂が世界を満たしていた。


 そのまるで神話の中に登場する戦記のワンシーンを切り取ったかのような、無数の彫像のように立ち尽くす、俺配下の異形の眷属達。


 彼らは特に用がなければ絶対に喋らないほど寡黙な奴らだし。

 でも、有用な情報があった場合なんかは自主的に喋るのは有りだと思うのだ。


 本当に、今コーヒーがあったら最高だと思うのだが、生憎な事にまだ見つかっていない。


 勇者の女の子グループが『たんぽぽ珈琲』なる物に挑戦していたが、今は時期でないので研究は中断しているらしい。


 あれも結構集めないと量が取れないので大変だとこぼしていた。

 俺も量が欲しかったら何回も万倍化しないといけない。


 今度春先にたんぽぽを見つけたら、乾燥させた根を大量に万倍化して渡しておくかな。


 あれはカフェインが入っていないらしいので俺的には物足りないのだが、多分不味いインスタントコーヒーよりは絶対にマシではないだろうか。


 百均で買ったエジプト産のインスタントコーヒーは実にまずかったなあ。

 確かに安いだけの事はあった。


 勿体ないから頑張って全部俺が一人で飲んだけど。

 向こうの人からしたら、日本で売っているインスタントコーヒーの味は、どうなんだろうね。


「おっ、大事な事を忘れていた。

 ここで通信宝珠が使えるのか調べておかないとなあ」


 そう言って取り出した俺が念じて指定した相手は、当然の事ながら泉だ。


「おはよう~。

 よかった、ちゃんとここからでも通信が通じたな。

 今ダンジョンの中だぜー」


「おはよ、へえどんな感じ?」


「最悪。

 退屈しまくっているらしい大精霊に毎日遊ばれまくっているよ。

 昨日もまったく進めていねえし。

 いつになったら攻略できるか皆目見当もつかんよ。


 元々、現在どうなっているのかもよくわからん、ほぼ未発見のダンジョンに等しい場所を一回で深層まで行こうって言うのが無理な話なんだが、王国のお宝が凄い物でさ。

 あと俺もノームには絶対に会いたいんだ」


「そうか、頑張ってね。

 こりゃ御土産は期待できそうもないな~」


「おう。

 チビどもが待っているから早く帰りたいんだけどなあ」


「相変わらず子煩悩な勇者さんね、じゃあね」


「おう、愛してるぜ」


 俺は満足そうに通信を切ったが、パウルから声がかかった。


「それを貸してくれ。

 ギルマスに連絡するのを忘れていた。

 何しろ酷い有様だったからな。

 今まではそんないい物は無かったから、連絡義務というものも特にはないのだ」


「ああ、そうだよなあ。

 はい、使い方は知っていたっけ」


「ああ、使い方くらいは元から知っている。

 Sランクともなると、依頼主から仕事の期間中に子機を渡される事もあるからな」


 手慣れた様子で宝珠を扱い、ギルマスを呼び出しているパウルを見て、ナナも慌てて自分の宝珠を取り出している。


 ああ、こいつも連絡しろって言われていたのに忘れていたんだな。

 ナナの場合は、忘れたじゃすまないだろうから怒られるんだろうけど。


 あ、凄くペコペコしているから相手は王様かなあ。

 激しく怒られているみたいで半分泣きそうな顔をしているし。

 パウルの方は始終笑顔で話しているのと実に対照的だった。


「ギルマスは、気を付けてゆっくりと行ってこいとよ」


「冗談じゃありませんわ。

 今王国から連絡があって、魔王軍との間で戦端が開かれたそうですわ。

 しかも王国側がかなり押されているそうで、勇者も大苦戦と。

 大至急鉱石を入手するようにとの事ですわ」


 あれ? 泉はそんな事は何にも言っていなくて、のんびりした感じだったがなあ。


「なあ、その戦端ってどこで開かれているんだい?

 それって本当の話なのか。

 俺がさっき話していた相手って、真っ先に空から偵察する任務を持っている勇者なんだが、爽やかな寝起きの雰囲気だったぞ。


 戦闘が起きているんだったら、いつも真っ先に偵察任務を仰せつかるあの子が、のんびり電話なんかしている暇なんかないはずだが」


 思わず、簡易な折り畳みキャンプ椅子に座って輪になっている面々に、沈黙の二文字が舞い降りた。


「え、でも、今のはランドル将軍との電話だったのですけれど」


 こいつ、あの比較的無能そうな将軍の下というか、あいつと同じ派閥なのか。


 ナナって何かこう立場が弱そうな雰囲気だよな。

 立場が強かったら、今頃こんな危険なところに差し出されていないわけなんだし。


 今このパーティに俺がいなかったら、最初の通路か次辺りで引き返していたんじゃないだろうか。

 というか、そもそもビトーの冒険者ギルドがそんな仕事を受けていなかっただろうな。


「じゃあ、もう一回泉に電話してみるけど」


 やはり、さっと通信に出てくれる泉。

 戦争の香りはどこからもしないな。


「あれ、どうしたの、カズホ。

 ははあ、さてはあたしが恋しいのね~」


「ああ、今お前とお喋りしていてもいいなら、ずっとしていたいけど、それと別でちょっと確認させて」


「へえ、何かな」


「今さあ、ナナ、ああいやビジョー王女が王都のランドル将軍、ああその将軍ってこの前王様と一緒にいたあいつだよな。

 そいつと話をしていたら、魔王軍との戦争が始まったって言っているんだけど本当?」


「もう、また王女様に変なニックネームつけて。

 どうせ王女様を思いっきり弄っているんでしょ。

 後で祟るから、そういう遊びはほどほどにしておきなさいよ。


 ああそう、ランドル将軍がその人ね。

 戦争ねえ。


 というか、ただの小競り合いだから、あたしもまだのんびりしたものよ。

 この先はよくわからないけどさ。


 多分、この前のような魔獣が出てくるのを恐れて神経質になっているだけなんじゃないのかな。

 この前は勇者軍団も含めて王国軍が完全にボコボコにされていたしね。


 とにかく勇者の力を強化したいんでしょうね。

 あたしらにとっても助かるから、任務を全うして帰ってきてくれたら嬉しいわ。

 それが一番の御土産かな。

 じゃあ愛してるよー」


「おう、任せとけ!

 じゃあな、俺も愛してるぜ」


 俺は宝珠を握り締めて、しばらくの間は終えたばかりのスイートなトークにニヤニヤしていたのだが、待たされていたナナから返事を督促された。


「ねえ、どうだったの?」


「ああ、たいした戦争じゃなくて王国軍と魔王軍の小競り合いさ。

 だが王国側はナーバスになっているんだろうな。


 多分魔王軍もミールのような強力な魔獣をあっさりと失ったので、勇者を有するヨーケイナ王国の王都には一定の損害を与えた事だし、今回はゲリラ的な戦術に出たんじゃないのか。


 勇者云々はお前に発破をかけるための嘘っぱちだ。

 だがまあ戦線が拡大すれば、また話は変わってくるがなあ。

 勇者様方は今ゆったりと朝御飯を食べていて、その後は優雅な御茶の時間じゃあないのかな」


「あうう……」


 自分が後ろ盾である将軍から、あまり信用されていなそうなのを感じたものか、ナナはまた項垂れてしまった。


「まあ勇者は休日でも、俺達冒険者はお仕事の時間なのさ。

 さあ、みんな行こうぜ」


「そうそう、元気出そうよ。

 目指せ、バーゲン!」


 シャーリーはナナをなだめながら、笑ってゲンダス1に押し上げた。

 彼女も早くバーゲンまでに帰らなくてはならないのだから。


 泉もバーゲンは狙っているんだろうな。

 大枚稼いで帰った彼氏も財布を持って、そのイベントに御一緒するとしますか。


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