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3-25 本日は『山中』オリエンテーリング日和です

 そういうわけなので、本日のメインイベントは山下りとなった。

 といっても、山の内部のよくわからない構造の中を登ったり下ったりする事になるダンジョン山下りになるはずだ。


 もう作った本人の大精霊でさえもよくわからないくらいの複雑な構造になってしまっているのではないのか。


 結構気まぐれというか、風の赴くままにというか、フィーリングで作業しているモグラのような感じだろうか。


 あるいは陸に上がった亀の、あの独特でキャタピラーのような、気まぐれで(うね)って進む鰭の跡なんかの如しか。


「うわあ、また道が登りだあ」


 悲鳴を上げるナナを、ゲンダス1を出してやって宥める。


「ナナ、まだまだ先は長いぜ。

 あの山がダンジョン入り口からどれくらい離れていたか、空から見ていたからわかるだろう?

 俺達は未だにあの山の中から出られていないんだぜ。


 へたをすると、この山の地下がまた意味もなく深いダンジョンになっていて、そこからまた隣の山へ這い上がってくる羽目になるのかもしれないし、まったく先がわからない」


「えー~~~」


「しかも、そこからまた意味もなく地下へ地下へと導かれて、やっとの思いで出てきたところに、こんな看板が立ててあってもおかしくない。

『ようこそ、王家の御一行様。ここがノームのダンジョンの入り口です』ってな」


「あうう、今そういう事を言うのはやめてっ!

 もう歩くのはやだ~」


 というわけで、今は諦めて大人しく蜥蜴魔人に御姫様抱っこされているナナ。

 それを見て、ちょっと羨ましそうな顔をしていたシャーリーが溜息を吐いた。


「うわあ、本当に先は長そうね。

 こう見えてもSランク冒険者なんだから、少々の事では音を上げないけどさ。

 さすがにこいつは堪えるなあ。

 果たしてバーゲンまでに帰れるものかしら」


「そいつばっかりはなんともなあ。

 おい、ザムザ1。

 この先はどうだ?」


「主よ、ここからまた激しく登りのようだ」


「あ、そう」


 俺もまたがっくりして、俺用のタクシーとしてゲンダス2を呼び出した。


「カズホ、あたしの分も眷属を出しなさいよ。

 もう考えただけで疲れてきたわ」


 そして俺はゲンダス3と4を一度に呼び出した。


「ハリー、あんたも大人しくこいつに乗ってくれ。

 貴重な探索魔法を使うあんたを無意味に消耗させたくない。

 この先、へたするとパウルやフランコすら、こいつの御世話になる事にだってなりかねん」


「うむ、ここは潔くそうしておくか。

 俺もだんだん、お前の心配もまったく絵空事ではないような気がしてきた」


「いや、冗談抜きで魔物くらい出てくれるのなら、まだ少しは気も紛れようってもんだけれど。

 ただただ歩くだけ、しかも階層踏破による達成感すらなく激しくアップダウンするだけで、どこまでゴールに近づいたのかもわかりゃあしないし。

 昨日みたいに、ひねくれた嫌がらせも堪えるけど、今日の展開もブローでジワっとくるわね」


 これでまだ広い通路ばかりならばマルータ号で行く手さえあるのだが、これがまた微妙に幅が変化しているので、その手も使えない。


 これも大精霊ノームがわざとやっているのに違いあるまい。

 俺達はただひたすら歩き、休憩し、飯を食いトイレを済ませ、そしてまた歩いた。


 意外な事にパウロが早めの野営を提案してきた。

 ホールというのかルームというのか、そういう野営にピッタリの場所を見つけたので。


「今日は早めに野営しようと思う。

 探索は早目に進めたかったのだが、どうやらこの不毛な展開がまだ続きそうだから、初日はゆっくりと休もう。

 体はともかく、心が疲弊するのが怖い」


 さすがパウルはわかっているなあ。

 そういう事は前の仕事でもよくあった話なのさ。


「さんせーい」

「それがいいわね」

「そうしよう」

「まあ、それでもいいか」


 約一名、まだ歩き足りなそうな奴がいたが、賛成多数につき、というかリーダーであるパウルの決定なのでそのように決まった。


 よかったな、マッスル・フランコがリーダーじゃなくてよ。


「すまん、今日は食事も割と出来合いになる。

 俺も疲れたよ。

 女子は先に風呂へ入ってきてくれ。

 今日はゆっくりと浸かって疲れを取った方がいいぞ。

 俺達もそうする」


 俺は男用の風呂用天幕を出した。

 王女の物のように豪華ではないが、広くて裸のつきあいができる大浴槽だ。


 冒険者や軍の中にも、こういう物を好む者もいるので売ってはいるのだが、値段も高いし燃料魔石やメンテで維持費も結構かかる。


 俺は金には困っていないので、まったく気にしないで使っているがな。


「いやあ、疲れた」


「かー、風呂上りにきゅっとよく冷えたビールが飲みたいな」


「そのビールというのは酒の一種か?

 仕事中に酒は駄目だぞ、カズホ」


「わかってるよ、パウル。

 そもそも、まずそのビールそのものがこの世界に無いんだよ」


 この世界は、小麦やパンにワインがあるのに、何故美味いビールがないのか!

 ビールもどきみたいな物はあるのだが、はっきり言って美味くないのだ。

 またフォミオに作らせなくっちゃ。


 夕食はありきたりのスープやシチュー、有り合わせで焼いた肉にパン、一応デザートとフルーツは付けたが、なんだかおざなり感が非常に漂っていた夕食だった。


 そして、その夜。

 何か激しい物音に全員が飛び起きた。

 そして見張り役の眷属の主である俺に詰問が飛んだ。


「どうした、カズホ!」


「あうう、これは夜襲だ。

 魔物が、魔物が大量に夜襲をかけてきているぞ」


「なんだと、戦闘準備を」


「しなくていいよ。

 うちの眷属が戦っているし、馬車は担当のザムザが絶対防御で守っているから。

 だが、これでは煩くて眠れん。

 これがノームの野郎の新しい嫌がらせだと思う人は手を挙げて」


 もれなく全員の手が挙がったので、俺は一応耳栓を全員に渡しておいた。


 勇者の中に、物音に敏感で夜眠れない時があるため、自分用に開発した高性能な本式の耳栓を商会で販売していた奴がいたので、そいつを仕入れておいたのだ。


 女子部屋にも配給しておき、お互いにしかめっ面で本日二度目となる就寝の挨拶を交わした。


「まあ気休めだが、こんな物でも何もないよりは随分とマシさ。

 じゃあ、お休み」


 他の連中も耳栓をしながら、首を振り振り自分の寝床へと戻っていった。


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