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3-23 ダンジョン・キャンプ

「もういやー。

 まったく、ここはなんてところなの。

 大精霊めー、王家と盟約を結んでいるくせに~。

 なんて仕打ちよ」


 ナナはヒステリックに泣き喚いていたが、実のところ、泣こうが喚こうが任務を終えない限り、俺達は地上に帰れない。

 その中でも一番帰れない奴が、今そこで喚いている姫自身なのだがな。


 まさか、帰還の時に今までの通路を全部辿って帰らないといけないとか言うんじゃないんだろうな。

 まだ見ぬ大精霊なのだが、今までの態度から見るとそれくらいは平気で言いそうな奴だし。


 そもそも人間とはまったくメンタルの異なる存在なのだから、何を言ったって無駄無駄。

 そのあたりは実利をもって交渉する他ないだろうから、今から元営業マンの腕が鳴るぜ。


 収納で綺麗に蜂の粉や破片は取り除いたし、気休めの風魔法でしっかりとブローしたので、体中は綺麗になったはずなんだが、ナナはもう半泣きだった。


 まあそこは、お姫様なんだから仕方がない。


「もうやだ、今日は歩きたくない。

 お風呂入るー」


「パウル、今はどれくらいの時刻なんだ?」


「ああ、少し頑張り過ぎたようだな。

 もう本来なら寝てしまってもいいような時間だ。

 ここは広めの場所だし、このダンジョンは魔物もそう出ないようだ。

 ここで一日目の野営にしよう」


 この世界は電灯などが発達した日本などとは異なり、朝が早くて夜は早上がりが基本だ。


 俺も時間経過を計るためだけに見る時計を見たが、出発時点から計算すると今は俺達の世界での夜の九時相当だった。


 今頃どっと疲れが出てきたぜ。

 特に最後に出てきたあの蜂は堪えたなあ。


「うわあ、この話をあの穴を登る前にするんだった」


「まあまあ、まだいいわよ。

 あの蜂の後でお風呂に入れるんだからさ。


 あ、お姫様。

 あたしもお風呂を所望します。

 一応、あたしがあなたの御世話する事になっているので、お背中を流しますわ。


 カズホ、姫様のお風呂用の天幕を出してちょうだい。

 あと、寝所の設営と夕餉の準備をお願い」


 ちゃっかりとナナのお風呂に便乗するシャーリー。

 さすがはSランク冒険者だけあって、実に如才がないところはさすがだ。


 俺はさっさと王女用の入浴用天幕を出した。

 こいつは高性能な魔道具なので自動展開して、あっという間に入浴可の状態を作り出す。


「ザムザ1から10、そしてゲンダス1から10、警備を頼む」


 うちはまだ、こいつらがいてくれるから助かる。

 そうでないと、疲れ切っているのにここから交代で夜通し警備しなければならないのだ。


 それから、俺はキャンピング・マルータ号1とキャンピング・マルータ号2を出した。


 こいつは男女別に二台出したが、中は広く地球の超大型モーターホームを参考にして内部仕様を構築したので、我ながら非常に快適にできている。

 うちのスーパー従者、フォミオ渾身の作なのだ。


 冒険者用の簡易なテントなんかで寝られるかよ。

 それもキャンプなんかに来たんだったら、まだ楽しいんだけどねえ。


「さあ、飯にしようぜ。

 ダンジョンの楽しみといったら、やっぱりこいつだよな」


「ほお、今晩は何にしたんだ?」


「飯は任せろと言ったから、全部お前に任せたんだが、ちゃんと美味い物を食わせてくれるんだろうな」


「任せろよ、今夜は特製のシチューだ。

 後は食用魔物の亀肉と干し貝のスープ、それから王都で一番美味いと言われているパン屋の名物パンにフルーツとデザートの菓子だ。

 悪いが探索中なんで酒は出せん」


 俺は食事の用意をいそいそとしていたが、そこへ姫達がやってきた。

 なんというか、日本の女子高生が部屋着で来ているような薄くてラフな格好だった。


 半袖ネグリジェの上だけみたいなピンクの奴と、下は白の半ズボンのような奴だった。

 何のことはない、最近勇者が日本から持ち込んだデザインから作られた可愛い品なのだ。


「ふう、いいお湯だった」


「お姫様がそういう格好で、はしたないとか言われないのか?」


「ここには煩い侍女もいないからいいわよ。

 もっとも、侍女は一番の味方なんだから絶対に敵に回せないので、日頃は大人しく言う事を聞くんだけど」


「へえ、殊勝な心掛けじゃないか」


「そりゃあ、彼女達ってお嫁に行く時だって一蓮托生で一緒に来てくれる、王女から見て唯一の味方と言っていいような存在なんだよ。


 へたな国へ行ったら、自国から連れて行った自分の侍女しか真面に味方してくれる人がいないなんていう場合だってザラにるわけで、あたしのような人間は侍女の御機嫌だけはしっかりとっておかないと悲惨な事になりかねないわ。

 まあ、お姫様稼業だって見かけほど楽じゃないっていう事よ」


「へえ、そうなのかあ」


 俺の空気よりも軽そうな返事を聞いて、ナナは少しむっとしたようだったが、さっと差し出されたよく冷えた果実水に顔を綻ばせた。


「あらハズレのくせにやるじゃない。

 魔道具で冷やしたの?」


「ああ、王都は色々な道具があって便利だな。

 元々はビールを作って冷やそうと思ったんだが、この世界は美味いビールがないから大変だ。

 またお抱え商人に原料を探させないとな」


 今はショーもザムザと組ませて、あちこちへ探し物をさせているのだ。

 商人の子を教育するのと併せて。


 貝を干した物もそれで手に入れたのだ。

 何種類か手に入れたので、今は王都の女の子達にも渡して、それを用いたラーメンスープの開発中なのだ。


 今のところ、なんとか潅水はゲットしたし、鶏ガラスープが主流だ。

 鶏ガラに肉に野菜に香味野菜に香辛料と。

 あと豚骨スープも研究されている。


 とにかく欲しいものは醤油なのだ。

 今はフォミオの調合スキルだけが頼みの綱で、あれはもう少し時間がかかりそうだった。


 王都のメンバーにはあるだけの材料を渡しておいたので、国護の師匠が麺を担当し、坪根濔の姐御がスープを見てくれていて、そのうちに勇者ラーメンとして売り出される事だろう。

 二人とも頑張ればどっちも作れるらしいし。


 この世界でも各種ラーメン屋が全国で開店し、この世界の皆が箸を上手に使う日がやってくるかもしれない。


 割り箸はサンプルをフォミオに作ってもらって、もう職人に作らせてある。

 そのうちに魔導設備により大量生産される日がやってくるだろう。


 いつの日か、ダンジョンの中でも当たり前のようにラーメンを食える日が来るのかもしれない。


 本日は、疲れを癒してくれる滋味に溢れるスープや、肉も野菜もたっぷりの特製シチューを振る舞い、俺は次々とお替りされる皿を埋めていった。


 そして焼き立て同然の特製パンを、なるべく自然の火に近い感じで美味しく焼けるように開発された高級魔道コンロで炙っていった。


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