3-20 またしても
とりあえずゲンダス1を呼び出して、文字通りのお姫様抱っこで護衛対象のお姫様を運搬する事になった。
まさに美女と野獣というのがピッタリの構図で、王族警護にはとても相応しいとは思えないスタイルなので思わず唸ってしまったのだが、ここは背に腹は代えられない。
「相手がどれくらい本気で姫にちょっかいをかけてくるのかが、よくわからんからな。
とりあえず、これでいこうよ。
さっきの罠が致命的なものだったら大変な事になるところだった」
「あのう……」
当のナナは、巨大蜥蜴魔人である怪物のような外観のゲンダス1の腕に抱かれて、非常に困惑しているようだった。
「いいじゃない、姫様。
楽ができてさ。
ここのうんざりするほど長い行程を歩かなくていいのなら、あたしが交代してほしいくらいよ。
でも、お姫様は大人しくそこにいてね。
さっきは焦ったわ。
とっさの事であたしもザムザ2も反応できていなかったし」
「主よ、面目ない」
「いや、あれは仕方がない。
誰も反応できなかったんだからな。
ザムザ2、何かあったらゲンダス1と姫を絶対防御のスキルで守れ」
「しかと心得た」
「まあ、とりあえず姫の扱いはそれでいいとして、どうやらまた迷子のようだぞ。
一本道があれだったからな。
精霊は何か言っていなかったか」
「ああ、エレ。
何かわかるか?」
「ううん、ノームの奴め。
このあたり一面に自分の気配を撒き散らして、気配を探れないようにしているよ。
こっちに精霊がいる事も読まれているな」
俺がパウルにそのことを伝えると、彼も唸りハリーを呼んだ。
「ちょっと、お前の得意の奴で道を読んでくれ」
「ああ、了解した。
しかし見つかるかどうかはわからんぞ。
何しろ相手はかなり捻ねくれた性格で、しかも大精霊ときているからな」
そしてハリーが収納袋から取り出した物を見て、俺は思わず沈黙した。
なんとそれは、おそらく『ただの棒』だったからだ。
ま、まさか、こいつ!
そして、そのまさかだった。
奴は子供のやるように棒を立て、そこに人差し指を軽く添えていた。
「おいおい、いくらなんでも」
だが、パウルは俺を軽く差し出した手の平で制した。
「まあ、見ていろ。
ハリーの得意なスキル『道読み』だ。
魔道士の持つ固有スキルだ」
「スキル!?」
もしかしたら、アレだろうか。
ダウジングなどのような探査能力的な技能が魔法スキルになったものだろうか。
だが、ハリーはその姿勢を一ミリとて崩さないまま、およそ五分の刻が過ぎた。
呼吸をしているのかすら、傍目からはまったく測れない。
まるで真っ黒な魔道士のフードを被った彫像であるかのようだ。
俺には絶対に真似できない芸当だ。
「どうした、ハリー」
パウルは慌てた風でもなく尋ねる。
他のメンツも首を傾げている。
「魔道士の道読みは、こういう場所でも非常に当てになるし、ハリーの道読みは有名だからな。
一体どうなっているのか」
「この中じゃそいつを使えるのはハリーだけだものね。
あたしの能力は、血統的に比較的戦闘技能に偏っているから、そいつは使えないの」
だがハリーが引き続き必死に探っている時に、突然エレがくすくす笑い出し、こんな事を言い出した。
「もしかすると、あたしにチョコでもくれたら解決するのかもよ」
「んなわけがないだろう」
「じゃ、試してみたらどう?」
「まあいいけどさ」
そしてチョコを差し出してみたら、エレは上機嫌で天井に舞い上がっていって、そこでくるくると回っていた。
そこは、なんとハリーが棒を立てている真上だった。
皆も俺の視線を目で追って、その場所を見つめていた。
「ここから、気配が漏れているわね。
こっちへ来てほしいみたいよ。
ここで引き返されたら、向こうも遊び相手がいなくなってしまって嫌なんでしょう」
「あれ、そのままお前が中へ入れないのかい」
「ちゃんと岩で薄く蓋がしてあるみたいよ。
来ては欲しいんだけれど、ただでは通さないとかいう面倒くさい奴」
「まったく!」
俺はザムザ1に命じて、それをあっさりと破壊させた。
軽くスキルできざまれた、その厚さ二十センチくらいの蓋は、見事に砕けてダンジョンの中に落下物として痕跡を残した。
「こうやって、ダンジョン内に落ちている落下物は、そこで何かがあった痕跡を示している事も少なくないので、カズホも何か見つけたら気をつけろ。
さっきのような隠し通路が再び蓋をされている場合や、何かの罠があった痕跡かもしれん」
「普通のダンジョンだと、それが命取りになる場合もあるというわけだね」
「その通りだ」
割と魔物と戦えばいいくらいの安易な認識でいたのだが、思ったよりもダンジョンの探索は厳しいな。
そもそも、ここにはあまり魔物とかが出てこない。
必要なシーンでのキャストとしての登場ってことなんだろうか。