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3-19 ひねくれ者の罠

「誰だ。

 受取人のお姫様がいるから、このダンジョンもさほど殺しにはかかってこないとか言っていた奴は」


「ああ、きっちりと殺しにきたな」


「この程度でやられるような間抜けな王族に宝物はやれんってか!」


「大精霊、スパルタね~」


「ううっ、こんな話は聞いていませんわ~。

 やっぱり、私は捨て石なのー」


 やっと自由になれたので、足でたんたんと地面を踏み、手を組み合わせて体を左右にくねらせ筋肉をほぐしているフランコ。


パウルも首をこきこきとさせて腕を回しながら、みんなでそんな事を言っている。

 ナナことビジョー姫一人が半べそだ。


 ハリーは熱心に、あいつが中に籠っていた、でかい地蜘蛛袋を調べていた。


 俺だって、小さい奴なら昔は袋ごと引き抜いて捕まえて遊んでいたものだが、さすがにこいつはいらんな。


「何かわかったの? あたし虫は嫌いよ」


 Sランク冒険者のシャーリーも露骨に顔を顰めた。

 女の子なのだから無理もない。


 俺だって、このサイズの虫、特に蜘蛛は嫌だ。

 蜘蛛は節足動物だなんて言い訳は認めない。


「ああ、どこかにこいつがいれば、この袋から妖気というか邪気のような物が放たれるのではないかと思ってな。

 しかしそうではないようだな。

 カズホ、そこの精霊にはこれの気配がわかるか?」


 俺はエレに訊いてみたが、彼女はあっさりと答えてくれた。


「そうね、もうそいつの気配は掴んだよ。

 さっきも何かいるような気はしたんだけど、まさかそんな奴が潜んでいるとは思わなかったな。

 ザムザが三体もいるんで特に何事もないかと思っていたのだけれど」


「まあ俺もそうだったんだが、今度から何かいたら教えてくれ。

 今回はザムザ達が凄く頑張ってくれたけど、次回に連中もお手上げの代物が出てきたらマズイ。


 あのノームの野郎め、こっちの能力も検分した上でギリギリのトラップをかましてきているんじゃないのか」


「ザムザ達も多分あいつがいる事にはわかっていたんだろうさ。

 自分が負けるとか思っていないだけで」


「うはっ、そうだったのかよ。

 ザムザ達よ、今度何か異変があるようだったら教えてくれ。

 人間はお前達のようにはいかないのでな」


「主よ、承知した。

 では基本的にこのザムザ1が魔物の探索は受けもとう」


「エレも頼むよ」


「わかった。

 魔人の感覚を胡麻化すような奴がいたら困るしね」


「あと、エレはノームの気配を探る事を優先してくれよ。

 ここはどれくらい広いのだろうな」


「以前に探索された時は地下三十階のところにノームはいたそうですが、今は随分時間が立ったので、深層はもっと深くなっているかもしれません」


 ナナは自信なさそうに、か細い声を出している。

 そしてパウルもそれを肯定した。


「あり得る話だ。

 ここの地形が変わっているのも、なんらかの形で構成物がダンジョンへ吸収されてしまっているのではないか。

 昔の記録によると、湖や巨岩などもあったそうだが、今はただの荒れ地や湿地が散見するだけだ」


「という事は、もっと深いところにいそうね。

 その大精霊とやらは」


「誰も来なくて暇してたから、ダンジョンを魔改造してたんじゃないの?」


 それからしばらくは、真っ直ぐな一本道をただ歩き、何もないかのように見えていたのだが、何かがおかしい。


「なあ、ここって何か変じゃないか?」


「さ、さあ。

 言われてみれば変な気はするわね。

 でも何かしら」


 そして先に行くに従って違和感の正体がわかってきた。


「狭い」

「なんだこりゃ」


 そこは一見すると、ただの一本道に見えるのだが、段々と道が狭くなっていて皆が肩を突き合わせるようになってしまっていた。


「うおっ、頭もつかえるぞ」

「なんだ、これは」


 そして、一人がやっと這って進めるような具合になっていた突き当りの場所はなんと、まだまだ洞窟が続くかにみえるような絵がかかれていた。


「くそう、騙された」


「こいつは騙し絵みたいな物だなあ。

 ダンジョンの道自体がトラップになっていて、しかも一番奥が完全に絵になっている、遠近感を利用した罠だ。

 灯りの具合まで上手く利用しているんじゃないのか。

 これは完全に遊ばれているぜ」


 どうやらここのダンジョンは、照明をダンジョン自身がコントロールしているらしい。


 いきなり真っ暗にされて暗順応に時間がかかって視覚が奪われた時に、魔物の襲撃を受けるなどという非常事態も考えられるな。


「これだけ延々と歩かされた上に、これか!」


 そして再び延々と引き返して元の位置に戻ったので、ホッとしたところでお姫様が悲鳴を上げた。


「きゃああー!」


 足に縄がかかって、見事に天井から罠にかかった動物のように間抜けにぶら下がっているクライアントのお嬢さんがいた。


「うわあ、致命的な罠じゃなくてよかったわね……」


「隊列の真ん中を狙ってピンポイントで瞬時に罠を張れるのか」


「それをやられたら、もう手の施しようもないよね」


 護衛が皆で頭を抱えるような話になった。

 何しろ、相手はこのダンジョンの製作主なので、どこにでも瞬時に罠を張れるらしい。


 一番抜けている姫なんか、これで狙い放題だ。

 むしろ、相手がそれを早くからアピールして楽しんできている感じなのだ。


 これはまたどうしたものか。


「もうっ! いいから、早くおろしてちょうだいっ‼」


 ナナが悲鳴を上げて、片脚をロープに捕獲された状態で、ぶらぶらとミノムシのように揺れていた。


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