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3-15 冬はバーゲンの季節

「じゃあカズホ、あの苔生した大岩があるところへ降ろして。

 あの手前にある、少しなだらかなところなんかがいいんじゃない」


「そこが入り口なのか?」


「彼らの話によると、たぶんあそこだね。

 あの子達は大精霊の配下なので、本当かどうかもわかったもんじゃないが、とにかく行ってみるしかない」


 チョコレート・ミーティングは、精霊同士では存外コミュニケーションになるものらしい。


 俺はザムザ101に命じて、マルータ号をそこへ降下させていった。

 地面が、ややでこぼこな地形なので、やや地上からホバーさせる感じに着陸させた。


「さあ、降りてみようぜ。

 ザムザ1、出ろ」


 真っ白に輝く、まるで万倍化の時のような光と共にその形体を露わにしたザムザ1は、威風堂々とその魔人の姿を現した。


 改めて、その姿が出現するのを目の当たりにし、思わず一歩後ずさるパーティメンバー及び残念姫。


 ザムザは通常の人間サイズの魔人だが、その戦闘力は決して大柄なゲンダスに劣るものではない。

 むしろ、スキルや魔力のような物が魔人の優劣を決めるのだと思う。


 実際に数を頼みにし、また他の勇者のスキルによる応援もあったとはいえ、あの無数にいた硬い甲殻を誇る超大型魔獣ミールの群れを、このヒューマノイド系魔人二種で綺麗に刻んでみせたのだ。


「姫を守護しろ」

「了解した、主よ」


 そして、「さあ姫よ!」と言わんばかりに腕組みをして、彼女を待ち受けるザムザ1。

 こいつらに王族のお姫様をSPのように護衛しろという方が無理なのだがなあ。


 何せ、頭が蟷螂の上にあの尊大な態度だもの。

 むしろ容姿よりも態度の方が問題なのだ。


 だから最初からそのような命令はしていない。

 とにかく守れと、もうそれだけ。


 このミッションは宝物庫から必要な物品を受取るのがメインの成果なのだが、それに何よりも御姫様をやられたら全てがお終いなのだ。


 前金を返すくらいで済んだら儲けものくらいの大失敗なのだ。

 ここは絶対防御持ちの、人間が入れる場所なら一緒についていけるザムザが適任だ。


 トイレなどの女性がデリケートな状態にある場合は、最強の冒険者である少女のシャーリーがいるので任せておけばいいのだし。


「さて、行ってみよう。

 宝物庫ダンジョンの入り口とやらを拝ませていただこうぜ」


 俺はまだザムザ1が唐突に出現した衝撃から覚めない連中と一緒に、ザムザ101に手を振ってから歩き出した。


 本当にここは湖だったのだろうか、もう完全に荒れ地になっている。


 だが、この緑の暴力が生え茂っているところをみると、湖の名残りは地下水脈として残っているのではないだろうか。


 湖があったと思われる場所をよく観察すると、上からは緑が深すぎてよくわからなかったが、ところどころ湿地帯となっているようだった。


「ここに本当にダンジョンがあるのかしら」


 心細そうな姫の声が辺りの緑を震わせて、風が優しく周りの木々の枝葉を戦がせた戦がせた。


「たぶんな、さてどうしたもんかな。

 開けー、ゴマ!」


 もちろんベタな小説や映画のように、岩戸が無粋な抵抗をやめて開く事はなかった。

 呆れた他の連中の顔は無視して、俺は一言だけ発した。


「収納」


 入り口の岩はスキルの力で強引に引き剥がされ、まるで霧のように消え失せて、そこにはぽっかりと洞窟が口を開けていたのだった。


「ほお、これがダンジョンの入り口か。

 何かの力で張り付けられていたように感じたが、勇者の収納は一味違うな」


 魔法による感知に優れた能力を持っているらしい魔道士のハリーがそのような事を言っていたので、こういう事は普通できない事なのか。

 俺は全然気が付かずに使っていたのだが。


「妙な気が垂れ流されているな。

 瘴気とは明らかに違うこれは、大精霊ノームとやらの気か。

 これは、かなりのものとみたが」


「うーむ、入り口でこれだけの気配とは、魔物なら厄介な事になる代物よの」


「魔物ならまだマシね、うーん大精霊か。

 頼りにしてるわよ、SSSランクの勇者さん」


「そこの最強冒険者、自分の仕事を人に丸投げにしていないように。

 しかしなあ、うわー厄介そうな匂いはプンプンしていやがるな。


 言っておくが、俺はこれが冒険者としての初仕事なんだ。

 冗談抜きで素人丸出しなんだからな。

 頑張ってくれよ、ベテランのSランク冒険者ども」


 そんな俺達の一見頼りにならなそうな会話を聞いて、若干心配そうな表情になった姫。

 だが、そこへ頼もしい言葉をかける者がいた。


「ご安心めされよ、姫。

 我が主は今や世界最強の勇者と言っても過言ではない。


 確かにあの正規の召喚対象であった勇者・陽彩選人のような軍団を強化するような力こそないが、悪知恵と我ら魔人を使役する力においては、あの魔王様を彷彿とさせるネームドの力、あるいはそのユニークスキルにより、成長によってはそれを上回るような可能性を秘めたお方なのだ。


 この魔王軍元魔将軍にして魔王軍諜報部を束ねた元ザムザ・キールが言うのだから間違いはない!」


 この俺が忠実な部下である元魔王軍幹部に太鼓判を押されたのを見て悩んでいた姫の背中をシャーリーがグイグイと押した。


「さあ姫、参りましょう。

 そして、さっさとあなたの使命を果たすのです。


『冬のバーゲン』が終わってしまう前に王都へ戻るのです!

 この仕事で結構な額の報酬がいただけますからね。

 今年のバーゲンは、非常に非常に楽しみにしているのですから!」


「ええっ!」


 シャーリーの欲望全開の気合に押され、ザムザ1と俺が先導する中、一行はダンジョン内へと進んでいくのであった。


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