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3-14 ノーム・ダンジョンへの心構え

「はいはい、あんた達。

 食べる前に、そこの勇者に加護を置いていってねー。


 あとさ、食ってからでいいんだけど、ノームのいる洞窟が入り口はどこにあるか教えてちょうだい。

 王家のお客さんが、ノームに用があるんだってさ。

 あんたらもそのためにいるんでしょ」


「へー、珍しい。

 この前は、もう三百年以上前じゃないの?」


「いや、四百年以上じゃなかったっけ?」


「そんなもん、どうでもいいやあ。

 いや、この異世界の食い物は美味いなあ」


 駄目だな、こいつら。

時間の概念が俺達とはまったく異なっている。


 そして精霊自体は目には見えないが、目の前のチョコの山がみるみるうちに減っていくのを見て、俺の同行者達が目を丸くしていた。


「いる……のよね、そこに精霊がたくさん」


「凄い食いっぷりだなあ。

見てよ、チョコが消えていき、包み紙がどんどんと積もっていくわ。

 なんて勢いなの」


 女の子二人も、唖然としてその不可思議な光景に見惚れていた。


 俺は引き続きチョコを出す代わりに包み紙を収納に仕舞っていったが、相変わらずいつ果てるともわからないデスマーチっぷりだった。


 昨日もありったけのチョコを馬車に突っ込んで万倍化しておいて良かったなあ。

 何しろ、まだ『大』精霊が控えているんだから。


 一匹二匹なのかと思いきや、ここまでの数の精霊を地上の監視に振り向けていたとは、おそるべし大精霊の監視力。

 これはまた一筋縄では行きそうもない相手だな。


「なんだ、カズホ。

 これでダンジョンの入り口に辿り着けるのだろう?

 よかったじゃないか。

 やっと仕事を始められるのだぞ。

 やけに渋い顔をしているな」


 パウルの問いに、俺はチョコを抱えている精霊共のドヤ顔を見ながら、今回貰った加護の数を数えてみたが、その数は実に三万を超えた。


「馬鹿。

 これだけの数の精霊を地上の監視に振り向けているような、とんでもない奴なんだぞ。

 ここから先が思いやられるわ。


 みんな、覚悟しろ。

 ノームはおそらく、この精霊達から王女の到着を知った。

 今から始まる歓迎は、どうやら荒っぽいものになりそうだ」


 その俺の言い草には全員が目を剝いた。

 まあ普通はそういう反応なんだろうがなあ。


 だがそうでもないのなら、こんな重装チームをギルマスが組むはずないのだから。


 チョコが勝手に空中に踊っていく様子から目を離せないでいた女の子達も、互いに顔を見合わせている。


 姫はその精霊によるチョコ踊り食いの滅多に見られない珍事と、俺の唇を若干巻き込み加減にした渋そうな様相を見比べながら、困惑した問いを発してきた。


「あ、あのう?

 私は正当な王家の遣わした王女で、そこの宝物庫の中身の正当な所有者の一族の人間なのですが?」


「そんな事は関係ねえのさ。

 彼らは太古の王家との約定を守る。

 今の王家がどうなのかを見極めたいのだろう。

 預かった王家の秘宝を用いて碌でもない真似をする奴がいないとも限らん。


 いいか、奴が義理を立てているのは『大昔の王家』なのだ。

 昔、王家と大精霊がどういう約定を交わしたのかは知らんが、お前達現代の王家自身が結んだ約定ではない事を忘れるな。


 ビジョー王女、今回は王家の意思の内容を量るために、あんたの心根を試す厳しい試練が待ち受けているはずだぞ。

 覚悟しておけ」


 こいつはまた面倒な事になった。

 王女一人の面倒をみるのも厄介だというのに、おそらくは王女を殺しても構わんくらいのアタックがあるはずだ。


「ええっ、そんな馬鹿な。

 それなら、なぜ王女の私を一人でここへ」


 彼女は納得し難いというように、その胸以外は華奢な体を震わせたが、俺は肩を竦めて返答に代えた。


 パウル達は、やれやれという感じに収納袋から装備を出して整えだした。

 さすがはSランク冒険者だけあって、最低の収納袋は用意してあるようだった。

 あるいはそれすらもギルドで持っている備品なのか。


 俺には不要な物なので、俺はそれについては何も言われていない。

 俺はブーツの具合を確認しながら、彼女に続きを語っておいた。


「もしかして、前回の探索もこういうノリだったんじゃないのか?

 そして、もう一つ。

 こんなところにいる大精霊なんて奴は退屈しているだろうから、今頃はノームの奴は舌なめずりをしていやがるのに違いない。


 今回報酬を貰い過ぎなんじゃないかとか思っていたが、やっぱりそうじゃねえ。

 最初から王家は知っていた。

 宝物庫捜索とはこういう内容である事を。

 お前の兄達は日和って、お前が貧乏くじを引いたのさ」


「う、確かに前回の捜索はかなりの冒険譚であったと、捜索を担当した王子は書き残したのです。

 でも、それは場所がダンジョンだからであって、そこまでの話だとは思っていなかったのに」


 王女は自分が半ば捨て石として送られる形になった事に改めてショックを隠せないようだったが、せめてもの心の慰めに俺はこれだけは言ってやっておいた。


「だが、考えてみろ。

 これが、うちのギルマスを陥れたような腐れ公爵なんかが来てみていろよ。

 目も当てられない惨事になるぞ。


 あれだって、あんたの従兄弟なのだから王家の一員みたいなものなのだろう?

 その時は、多分野郎が怒らせまくったノームに問答無用で全員が惨殺されて終いだな。

 あんただから、まだ俺達にも目があるっていうもんだ。

 シャーリー、俺も眷属を出しておくが、お前も心して王女の護衛をしてくれ」


 それから運転席にいる眷属に向かって申し付けた。


「ザムザ101、お前も俺達を下ろしてから、外で入り口を見張っておいてくれ。

 展開によっては帰り道を塞がれてしまうかもしれん。

 お前にゲンダス101とミール101の魔核を預けておく。

 万が一の時はお前達の力で、なんとか出入り口を確保してくれ」


「心得た、主。

 任されよ」


「ああ、頼んだ」


 俺の慰めが通じたのかどうかよくわからんのだが、気を取り直したかのように立ち上がった姫の背中をシャーリーがポンポンと叩いていた。


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