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2-13 ダンジョンの『入り口の捜索』

「ど、どうしようかしら。

 通信の宝珠で王都に連絡はできるけど、おそらくは向こうも困って『現場で何とかしろ』と言ってくるだけだわ。


 今回の報酬については、王国元老院による問答無用の決定で、財務局が渋々予算を出したものなの。


 もっと安い値段で王都のギルドに打診したのだけれど、達成困難として『冒険者には不可、勇者にでも頼め』と断られたので、そこにいるこの前大活躍したハズレ勇者にやらせる事が強引に決まったのが実情だから。


 無駄に高額な費用を使う事になってしまった今回の失態は、その責任の所在を巡って、また議会が大紛糾するわ。


 その責を問う矛先は、きっと私を派遣したお父様にも向いてしまって、私がお父様を失望させる事になってしまうのに違いないわ。

 一体どうしよう」


 その無残な背景を聞かされて、これまた渋い顔をするパウル。


 この小娘の姫様には一切期待していないので、王国へ連絡してもらい、彼ら本国の偉い人に決断させようと思っていたらしい。


 こういう事態を想定して、王子達は火中の栗を拾うのを嫌がり、実績を求めて自分から行きたがる馬鹿な妹にこの仕事を押し付けたのだろう。


 もしかすると、少なくともこのファザコンの妹よりも賢そうな兄達は、ここがこうなっているのを薄々感づいていたんじゃないだろうか。

 まあ何百年も経っていればな。


 もうこんな事態は、それなりの現代知識を持ち合わせた俺にだってよくわからんのだし、この残念そうな姫にわかるわけがないわな。


 もう仕方がないので、俺も少しだけ助け舟を出す事にした。


「エレ、なんとかならないか、この事態」


「そうねえ」


 姫は俺の視線が捉えている先の何もない空間と、俺の言葉の先に唯一の希望を託したが、次の瞬間にそいつは絶望に代わった。


「駄目だね、ノームは引き籠る時は徹底的に引き籠る性質があるから、気配を絶っている。

 多分、自分でそういう封印を施しているんだろうね」


「そうか、お前達精霊にもわからないのか」


 それを聞いて姫はまた気の毒なほど萎れ、パウルも天を仰いだが、俺はパウルに申し出た。


「パウル、やはり少しは捜索しよう。

 さすがに、いくら契約にないとはいえ、このまま帰ってしまうのでは前金もかなり返金せねば収まらんだろう。


 姫の話は聞いていたな。

 あれは少なくとも、『ダンジョンへ入って散々捜索しましたが見つかりませんでした』という内容の仕事の対価なのだから。


 これからの王国との付き合いも厳しくなるぞ。

 それに俺達のギルマスの背景も考えてみろよ。


 今までは、王国も彼ドレイクに対して大きな引け目があったが、それも今回の失態で相当割引になるだろう。

 国の議会や、財政を担う役所である財務局をうちのギルドの敵に回したくない」


「この前の時に俺がかなり怒らせただろうしな」という言葉は飲み込んでおいたので、エレが頭の上で寝転がって俺の頭を両の拳で叩きながら笑い転げていた。


 そうとも、この俺ともあろう者が実利一本以外で一ミリたりとも動くものかよ。

 だって、そもそも俺は絶対に大精霊に会わなくちゃいけないのだからな!


「ではどうする。

 俺達冒険者にはお手上げだ。

 畑が違い過ぎる。

 カズホ、お前には何かいい考えがあるとでも?」


「ああ、俺だって畑違いなんだが、お前らよりは詳しい事があるぜ」


「なんだ、それは」


 不思議そうにしているパウロ以下のメンバーに俺はそれを突き出した。


 それは俺の掌の上で、最近泉に作ってもらった冒険者風の可愛い服を着た、胸を張って腰に両手を当てているエレだった。


「この精霊という物の性質は、大体把握している。

 それに俺はこの中では唯一精霊が見える、加護持ちの人間だしな」


 ふむ、という感じに考えるパウル。

 こいつは一見すると脳筋そうに見えて、思慮深く切れる男だ。

 だから、こういう時に当然のようにリーダーを任されているのだ。


「俺の考えでは、そこまで宝物庫ダンジョンを隠蔽しているような奴だ。

 おそらくはこの周辺に監視用の精霊を配置しているのではないかと思うのだ。

 お前らが捜したって精霊なんてわかりはしないのだろうが、加護持ちの俺にはな」


 そう言って、連中の頭の上をピョンピョンと踏みながら軽やかにジャンプしてしるエレを目で追った。


 精霊が望まない限りは物理干渉が発生しないため、連中は誰もそれに気づかないが、俺の視線を全員が追って、その連鎖がメンバーを一周した。


「それで実際にはどうするのだ?」


 パウルはまだ懐疑的意見なのか首を傾げているが、そんなもの答えなど最初から決まっているのだ。


「そいつらに召集をかけてみる」


「その、精霊の加護とやらで?」


 だが俺は笑顔でそれを否定し、ある物を取り出した。

 馬車の真ん中の空間にそれはもう山盛りに。


 そして、その匂いを風魔法で馬車の外から辺り一面を爆撃してやったのだ。


「それは、一体なんですの?」


「これは異世界のお菓子でチョコという物だ。

 まあ一つ食ってみろ」


 俺は全員にそいつを配り、彼らも口にして全員納得の笑顔になった。

 もちろん、エレも大事そうに抱えている。


 そしてエレはガラスを嵌め込んだ窓に向かって叫んだ。


「おおい、その辺にノーム配下の精霊が誰かいるー?

 凄いお菓子があんのよー。

 いたら全員集合ねー!」


 するともう雲霞(うんか)か何か、あるいは蜂か蝗のように大量の羽虫のような物が、まるで煙が立ち上って竜巻と化したかのような勢いでこちらへ飛んできた。


 もちろん、連中は耳障りなハム音を立てたりもしないし、他の連中の目には見えないのだが。


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