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3-7 迷宮の大精霊

「我はザムザに非ず。

 勇者カズホ様の眷属ザムザ1だ。

 王国の姫君よ、どうかお見知りおきを」


 うん、そこのやさぐれた姫君なんかよりも、うちの魔人君の方が挨拶なんかの躾も行き届いているな。


 それを聞いて、うーんという感じに剣を仕舞う事すら忘れて、猫背気味に両腕をダラリと下げて間抜けな格好で唸っている姫君はおいておき、ギルマスに尋ねた。


「ねえ、この残念なお姫様の役割とは」

「血だな」


「えー、こいつを生贄に捧げてこいとでも?」


 そいつはまた物騒な話だな。

 ちょっとそういうスプラッタなのは勘弁してくれよ。


「違いますわ!

 もう勇者というのは、どいつもこいつも無礼者ばかりなのですわね!」


「まあ俺が無礼なのは認めるが、勇者陽彩は無礼なんじゃなくてチキンなだけだぞ。

 ああいう男を落としたかったら、優しいお姉さんを演じないと駄目だ。

『さあ、私を愛でなさい、この愚者め』じゃあ、全然駄目さ」


「だって、そんなもの私にはわかりませんわ。

 普通は王女を与えられた男なら、喜んでベッドに引っ張り込むものなんじゃないのですか」


「あー、なんていうんだ。

 その辺は難しいな。

 たとえば俺なんか、今は同じ勇者の彼女がいるから、誰が誘惑してきても応じられないし。

 結婚するとなるとな、やはり同じ日本人の方がいいしさあ。

 あ、そういや彼女にもダンジョンへ行くって言っておかなくっちゃ」


「安心なさいな。

 たとえ大地がひっくり返ろうとも、この私はあなたなんかに靡いたりはしませんわ」


「ほー。

 たとえ、それが父である王様の命令でも?

 今や俺は、単独で魔人・魔獣さえも倒す、王国にとり非常に有用な男なんだが」


「ぐう、そ、それは~」


 ああ、この王女を弄るのは楽しいなあ。

 どうせ、この王女の護衛は魔人使いの俺の仕事になるのだろうし、弄るのはこのくらいにしていい加減に仲良くなっておくとするか。


 俺の役割は、この立会人の保護プログラム担当と収納、それに支障が出ない範囲内での戦闘と、何か通常ではないような事態が発生したら、その状況の打開あたりだな。


「安心しろよ、王様は俺に彼女がいるのを知っているし、彼女自身が王様の部下なんだからな。

 飛空という貴重な能力を持った勇者の機嫌を損ねるような真似はしないさ」


 その俺と近親の少女である王女の、子供じみたやり取りを微笑ましそうに見ていたギルマスが、頃合いを見て話の続きに入った。


「その王国の探し物とは太古の昔、王国の祖が使っていた宝物庫のような設備だ。

 そこは盟約により大精霊が守っているという。


 地の大精霊ジン・ノームが管理を任されたという伝承があると王家には伝えられているそうだ。

 そこに対魔王軍での戦いに必要な物があるらしい。

 だが、その宝物庫があった頃よりもダンジョンは成長し、そこへの到達は困難を極め、いつしか伝承の中だけの存在となった。


 そして、今そこへ行く事が必要になっていたにも関わらず、行ける能力のある者がいなかった。

 強引に勇者チームを送り込もうという意見もあったのだが、それは無謀過ぎるため反対意見も多かった。


 というわけで、王国としては死んでも痛くない立ち位置である、ハズレ勇者のお前に業務を委託する事にしたわけだ。

 あれこれあったわけだが、お前自身も冒険者の仕事という事なら自分を呼んでいいと国王陛下に言ったそうだしな。


 そして、これもまた本人を前にして言うのはなんなのだが、同じく前線で軍を指揮する王子などとは違い、最悪戻れない場合でもそう問題のない王女の派遣が決定したという話のようだ」


 それをまたしてもブッスウとした顔で聞いていた王女。

 そういう内輪の、人に言えないような事情もあって怒ってたのね。


 何かこう、だんだんとこいつがただの可哀想な子に見えてきたな。


「それにしても大精霊かあ。

 俺も前からそいつらを捜していたんで会えるなら丁度いいな。

 皮肉にも、それを捜しているはずの宗篤姉妹じゃなくて、寝て待っているだけの俺のところに在り処の情報が回ってくるとはなあ」


 さすがに、俺のその言い草はギルマスも聞き咎めたようだった。


「何、彼らに何か用があるのだと?

 伝承にもあるが、あれは一筋縄ではいかない相手だよ。

 そうそう人間の相手などはしてくれないそうだ」


「まあ、そこはこの敏腕営業マンたる俺に任せておいてくれよ。

 そいつ相手に話の出来そうな渉外担当も連れていく予定だし、取引材料も各種用意してあるのだから。

 それより、そこの御姫様は絶対に連れていかないといけないのか?

 俺達が血を採って持っていくだけじゃ駄目なのかい」


 ギルマスは頷くと、詳しく説明をしてくれた。


「その宝物庫では入り口にて生きた王族から採取した血を捧げねばならないのだ。

 また盟約により、仕舞われていた物を受取るのも王族でないとならん決まりだ。

 いいか、道中は絶対に彼女を守るのだ」


「なるほど。

 わかった、とりあえず迷宮内ではザムザ1に護衛させよう」


 それを聞いて、うっというような顔をする王女と、「それがどうかしたのか人間の姫よ」という顔で王女を無機質な表情で眺めているザムザ1。


 可愛い王女様と蟷螂の騎士の組み合わせだ。

 美女と野虫?


 でもって、お供をするのはハズレ勇者ってね。


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