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3-1 勇者の休日

「カズホー、次はあの店に行こう~」


 本日俺は、我が家のマーシャお嬢様に手を引かれ、彼女がおっしゃるままにビトーの中心街を引き回されていた。


 まあ、お姫様方ときたら本当に元気でいらっしゃる事、大人はあまり歩き回りたくないのですからね。

 日頃、自分の足で山盛り歩く事が多いんだからな。


 アリシャ御嬢様の方はまだ幼くて、油断をするとあっちこっちへいってしまいそうなので、実のお父上の手を煩わせて抱き上げられていた。

 まあ子供が元気なのはいい事なのであるが。


 幸いにしてフォミオという大型ベビーカーも用意してあるのだし、おチビさん達がお眠になったら、今は大型エア馬車を持ち出す事さえ可能なのだ。


 あれから、あれを少し改造して【キャンピング・エア馬車】なる物まで開発してしまった。

 もう空飛ぶ山小屋を作ってしまってもいいのかもしれない。


 へたな鋼材さえ凌ぐほどの、丸太という素材の丈夫さに俺は惚れ込んでいるのだ。

 木を切った後もエリクサーをかけておけば、すぐに再生するエコ素材だし。


 普通であれば、そのようなミニマムな植林事業に、いちいち一本白金貨十枚もするエリクサーを用いる暴挙は不可能なのだが、俺はミスター万倍男なので何も気にならない。


 それに地球のログハウスっぽくて、丸太という素材には、へたな住宅素材などよりも妙な高級感を感じてしまう。


 日本で、俺のマルータ号なんかに使われているような、凄く立派な丸太なんかを一本買おうものなら目の玉が飛び出る値段がするんだ。

 俺が日本で貰っていたような、チンケな額のボーナスで果たして買えるものだろうかね。


 本日は家族サービス? で、ビトーの街へやってきているのだ。


 王都とどちらへ行くかマーシャは迷っていたが、まずは長年(最大六年以内)の憧れであったビトーの街から攻める事にしたようだ。

 先日、俺から王都の御土産はたっぷりとせしめたところだしな。


 俺なんか、このビトーの街の冒険者になったというのに、相変わらず辺境村での暮らしに終始している。

 まあ慣れてしまったので、田舎暮らしというのもさほど悪くない。


 俺は日本では愛知県、日本で三本指に入る都会でありながら、大いなる田舎と呼ばれ揶揄される事も多い名古屋の近辺に住んでいたので、田舎という名称にまったくといっていいほど抵抗感がない。


 あのあたり、ちょっと山の手に行くともう深い山ばっかりだし。


 昔やった愛知万博会場なんか、まだ少年だったので歩いて一周できずに途中でへばってしまい、親と一緒に物販パビリオンにてジュースを飲んでいたな。

 今はその分の歩き足りなさを、この異世界で埋め合わせしているのだが。


 むしろ、俺は東京のような大都会での暮らしには馴染めないだろう。


 今なら王都まで最大マッハ二十六越えの速度で遊びに行けちゃうし、王都暮らし中の俺の彼女も飛空のスキルでマッハ三・八くらいならマークしたからいいけどね。


 仕事がなければ彼女もいつでも遊びに来てくれるし、恋人同士のホットラインとなる通信手段もあるので何も困らない。


 さすがに今日は子守り中なのでデートは無理だし、彼女にもそう伝えてあるがね。


「わあ、素敵ー」


 マーシャ御嬢様は、お目当ての一つであった人形店に飾られた、立派なお人形を飾ったお店のショーウインドウにべったりだ。


 この世界、案外と普通に透明で上質な板ガラスなんかはあったりする。

 当然、高価なので村では殆ど見かけないが、こういう大きな街へ行けばそう珍しいものではない。


 勇者も時折召喚されてやってくるので、技術は微妙に歪んだ形で伝搬しているはずだ。


 正常な技術の発達を経てではなく、偏った、しかも勇者が持っているそれらの知識・物品を再現できるほどの専門技術を持った勇者がいた場合のみ、その時代の技術が伝わる。


 あるいは、頑なに執着するほど好みの対象となる関連技術を、勇者の欲望のまま強引にこちらの職人・技術者や研究者の手によって再現させられた物のみが一般に流通しているのだ。


 俺もそのタイプの強引な勇者の一人に該当しているが、勇者の持ち込み品をある程度かき集めて特殊スキルで増やしたりしているし、あれこれと資源開発などもしているからこそ出来るのだ。


 あれから少し飛び回って、マグネシウムを海水中から抽出する事に成功した。


 だが、その時に魚でも獲れたら儲けものとばかりに海面でホバーリングしていたら、いきなり飛び出してきた馬鹿でかい海竜のような魔物に頭からぱっくりと食いつかれてしまって、思いっきりビビった。


 それはモンスター映画の中でモブキャラが迂闊に怪物に食われるシーンそのものだった。

 はっきり言って、水面付近を飛んでいて水面に顔を出した魚の餌にされる羽虫レベルでのどんくささだ。


 もちろん絶対防御の能力があるので、そんなものに齧られたってビクともしなかったが、あまり嬉しくはないトラウマ的な体験だった。


 マッコウクジラか大王イカに捕まった時みたいに、いきなり海の底深くに連れ込まれても困るしな。


 当然、中から即座にそいつを刻んで、ついでに魔核も抉り出してやったのだが。


 そいつをシードラゴン1と名付けたが、残念ながら魔獣ではないので魔核からそいつを復活させられなかった。

 せっかく海中生物の魔核を手に入れたので、そいつを再生して漁を命じてやりたかったのに。


 だが魔核には強力な水中活動用のスキルが存在したので、俺自身の活動領域は広がった。


 今度、このアクアラング兼、耐圧服兼、水中スクーターのような機能を持つ魔核の力で漁に行ってこよう。


 例の海藻食いの勇者さんのところへ、開発中の味噌・醤油などと一緒に海藻などを持ち込めば、結構楽しい思いが出来そうだ。


 彼女は料理が得意だったみたいだし、魚も嫌いじゃなさそうだった。

 個人的にはマグロ・イカ・ブリなどが食べたいのですが。


 あんなヤバイ魔物が海中に生息しているというのであれば、もう迂闊に人には漁を頼めないので、もはや自分で漁師をやるほかない。


 幸いにしてアシスタントとして活躍してくれる、主に対して忠実な魔人達も大量にいるのだ。


 生憎な事に、この間王都で配下にした長物は図体がでかいだけで、文字通り無用の長物だから、こういう仕事の役には立ちそうもないのだが。


 ここは是非とも、お魚系料理スキルの高そうな勇者女子による、女子会・海鮮の部を開催したいものだ。


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[一言] >>正常な技術の発達を経てではなく偏った、しかも勇者が持っているそれらの知識・物品を再現できるほどの専門技術を持った勇者がいた場合のみ、あるいは頑なに執着するほど好みの対象となる関連技術を、…
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