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2-79 取り立ての季節

「ほお、こいつは大物だな。

 本体の魔核はニメートルくらいあるんじゃねえか」


「よかったね、大物が取れて。

 それで、あのやっぱりこいつも?」


「決まっているだろ」


「うわあ、味方になるとはいえ、このワームの群れが量産されるのかあ……」


「なあに、こんなものは生きた熱戦砲の山だと思えよ」


 だが、エレは何故かクスクスと笑っている。


「どうかしたのか?」


「いやね、あいつが自分の事を四天王だなんて言うものだからさ」


「そういや、他の四天王はもっと強いのかい」


「いやあいつは別に四天王なんかじゃないよ。

 最後に見栄を張って逝っただけさ。


 ちなみにザムザやゲンダスだって四天王じゃあない。

 別にあいつらが特段弱いわけじゃないがね。

 四天王は魔王の居城たる魔王城を守っているから、こんなところにはいちいち出てこないのさ」


「うわっ、魔人魔獣って案外と見栄っ張りなんだな。

 でも、さすがに俺も四天王とはやりたくない」


「えー、本当に?」


 隣でアベック飛行している泉が疑わしそうにこっちを見ていた。


「ふ。

 相手がお前だから、あえて本音を言おう。

 四天王とやらが、もしこれくらい美味しいんだったら、是非安全な立ち位置から卑怯に闇討ちしたい」


「出た、こざかしいハズレ勇者の浅ましい本音が!」


 それから俺は周囲の惨状を見渡した。


「あーあ、せっかくの都が台無しじゃないか。

 なあ泉、この辺って無くなったら大変な歓楽街とか素敵な商店だったっけ?」


 だが彼女は溜息をついて首を横に振った。


「もっと大事な、王都の中枢機能を持った場所だったのよ。

 まあ人間は殆ど逃げ出していたからいいんだけど、王城は所詮ただのシンボルみたいなものだから狙われていないのね。

 この王国にとっては一番困る重要な場所から狙ってきたわ」


「なあんだ、それなら問題ねえや」


「あんたねえ。

 王様に聞こえるわよ。

 一応、あたしは彼に雇われているんですからね」


「おっとー、じゃあハズレ勇者君の俺は、お口にチャックのモードで行こうかね」


 だが、王様が地上から俺の名を呼んで手招きをしていた。


 俺は顔を顰めたが、泉の手前逃げるのもなんだ。

 カイザだって王様の部下なんだしな。


 俺はすーっという感じで惑星引力に引かれながら落ちるに任せ、彼の目の前に滞空してみせた。


 そして、わざとピエロのようにお道化たポーズで、優雅に挨拶してやった。


 そういう俺の、わざと相手をムカつかせようとする意志が見え見えの大げさで慇懃無礼な態度に、隣の全身勲章塗れになっている将軍だと思われる、年配の厳ついおっさんの目がゆらっと燃えた。


 いいリアクションだな。

 いやあスッキリしたね。

 雑魚親父はそこにすっこんでいな。


 ハズレ勇者たる俺はあんたの部下なんかじゃねえんだからさ。


「お久しぶり、王様」


 国王陛下だなんて死んでも言ってやらねえ!


「久しいのう」

「何か俺に御用?」


「この度の活躍、苦労であった」


「そいつはどうも。

 あなたのお言葉通り、この国で好きにやらせていただいていますよ。


 でも今回、俺は自分の遊び場を守り、自分の冒険者としての職務・責務を果たしたまでだ。

 俺達冒険者はタダじゃ働かない。


 今回の魔獣の素材は、辺境の街ビトーの冒険者であるこのカズホが確かにいただいた。

 冒険者ギルドは約定により、各王国からの干渉は受けない約束になっているのは知っているよね」


 こういう言い方をすると、たとえそれがギルドとしてではない個人による討伐でも、俺に余計なちょっかいはかけられないからな。


 だが王様は頷くと、そして言ってきた。


「それはよい。

 なれば、冒険者であるお前と我がヨーケイナ王国は取引をしたい。

 さっきお前が大量に振りまいた物は、確かエリクサーじゃな。

 そこにおるイズミ・アオヤマの報告では、それは一本だけだという話じゃったが」


 泉はさっと俺の後ろに隠れたが、俺は鼻で笑ってやった。


「そんな事は、あんたも最初から御承知の事だと思うがな。

 マーリン師だって二本以上作る材料なんて持っていやしないさ。

 この半端ない性能を持つアイテムを、一体どんな貴重な材料で実現しているものやら。

 俺には見当もつかないよ」


「そうか。

 だが、我が王国はあれが欲しい。

 まだ他にもエリクサーを持っておるか?」


 俺は黙って、小瓶を並べられるような丸い穴を開けたフォミオ謹製の精密に細工された木のパレット、一枚百個入りを二枚重ねにした物を王様の目の前に取り出した。


 最大に吹っ掛けるのだから、王国の支払いではこのくらいの数が限度か?


「ふむ。

 それを一本いくらなら売る」


「マーリン師は、一本白金貨十枚と言った。

 あれが相場の値段なんだろう。

 それ以下じゃ絶対に売らねえ。

 まあ俺とあんたの仲なんだから、吹っ掛けたりはしないで、ちゃんと相場の価格で売ってやるよ。

 エリクサーが耳を揃えて二百本、全部でしめて白金貨二千枚だ」


 俺は飄々とした態度で言い放った。

 丁寧な言葉なんか死んでも使ってやるもんか!


 さあどうするんだい、王様。

 こいつは失った勇者さえ好きなだけ復活させられる代物なんだぜ。


 あの時、荒城へ置き去りにされた屈辱と絶望は、今この時に思いっきり取り立てるぜ。

 こいつは高くつくからな!


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